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白い糸

作者: 鳥尾

 Mはいわゆる”ヒモ”である。何人もの女から金を貢がせ遊んで暮らしている。Mの指には何本もそんな女のヒモが結んである。その中に場違いな今にも切れそうな”白い糸”もあった。

「この糸は誰だろう?」とたぐりよせたこともあったが、そのたびに車にひかれそうになったりガケから落ちそうになったりとろくなことがない。そこでそのままにしてある糸だ。

 Mは遊ぶ金が無くなったので数あるヒモの中から一番太いヒモの女を呼び出した。この女は嫉妬深くて扱いにくいのだが一番の金ズルだ。


 お決まりの会話、そしてお決まりのセックス……ベットの上で眠っている女の顔を見ながら「そろそろこの女にも飽きてきたな……」とつぶやいた「なにか言った? 」女が目を覚ました。

 女は甘えた声で「ねえ私達きっと赤い糸で結ばれているわ! そう思わない? 」Mは「そうさ。決まってるじゃないか」これもまたお決まりのセリフを言った。

 赤い糸は無いけど白い糸ならあるな。Mは指に結んである白い糸を見た。しかしこの糸は触れてはいけない禁断の白い糸だ。だが女との退屈な会話に飽き飽きしていたMは少しだけ糸を引っ張ってみた。

 そのとたんMの家のドアが開き買い物袋をさげた別の女が入ってきた。「しまった! はちあわせだ」時すでに遅しその場は一瞬で修羅場と化した。

 プライドを傷つけられたベットの女は台所から包丁を取り出すと「あなたを殺して私も死ぬ! 」と叫びMに包丁を突き刺した。

「やっぱりこの糸を触るとろくなことがない……」遠ざかる意識の中でMは指に結んである”白い糸”が血で染まり”赤い糸”になるのをぼんやりと眺めていた。


 気がついたらMは病院のベットの上だった。身から出たサビ、刺されたことも女のことも「料理をしようとして油にすべり転倒して誤って包丁をさした」と言い張り事故として処理した。

 指を見た。あれだけあったヒモは一本もなかった。事故のことを知った女たちは誰もあれが事故だとは思わなかった。係わり合いになるのを恐れ皆去っていたのだ。

 それでもあの血で染まった赤い糸だけは相変わらず結んであった。「もうこれ以上悪いことは起こらないだろう……」Mは糸を引っ張ってみた。

 そのとたんドアが開き女が入ってきた。「Mさんお加減いかがですか? 」そこには満面の笑みをうかべ勝ち誇ったようにMを見下ろす白衣の天使がいた。「実に美人だ俺好みだ」またMの悪い虫が動き出した。

 しかし女の指を見てMはぞっとした。その指には血で赤く染まった赤い糸が結んでありその糸は……Mの指へと続いていた。

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