梅の章2
海道が渇いた洗濯物を手に持ち、背中にヨモギと葛をいっぱい入れた籠を背負い小屋に戻ると、真面目な顔した鈴麗が声をかけた。
「旦那、ちょっとそこに座りな。」
海道は、何事かと思い籠を下ろして部屋に上がり座る。
「落ちついて聞きな。
実はね、奥さん記憶を無くしてるみたいなんだよ…」
思わず、海道は龍梅を見ると龍梅は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「本当に申し訳ありません。貴方と結婚した事も自分の名前も思い出せないのです」
現状を取り繕うために、鈴麗を騙す芝居なのか?
海道は咄嗟にそう思い、龍梅を睨んだ。しかし龍梅は、青い顔で指先が震え、ポロポロと涙を落としていた。
「泣かなくても大丈夫よ!奥さんの事は旦那が知ってるんだからわからない事は旦那に聞けばいいよ。それで、ゆっくり思い出せばいいじゃない。」
鈴麗は、泣いている龍梅の背中をさすりながらいった。
「旦那!奥さんの名前はなんて名前なんだい?」
「えっ、あ……龍…梅だ」
「へぇ〜。龍梅っていうの。変わった名前ね。でも奥さんの雰囲気になんかあってるわ
よかったね!龍梅ちゃん。これで一つわからない事がなくなったね」鈴麗は、龍梅に微笑みかけた。
龍梅は、涙を拭きながら鈴麗に笑みを返した。
「私の名前、龍梅っていうんですね。龍梅…龍梅…」
龍梅は、自分の名前を繰り返した。
「何か思い出せた?」
「すみません…自分の名前と言われてもピンときません。」
「仕方ないよ。ゴメンね。期待をかけるようにして、ゆっくり時間をかけて思い出せばいいさ。
ね、旦那!」
「あ、あぁ。そうだな…」
海道は合間に言葉を濁らせその場を取り繕う返事をした。
「それは、そうとあんた達何処から来てどうして、龍梅ちゃんがこんな大怪我したのよ。旦那は何やってる人なの?」
海道は、咄嗟に頭を働かせ当たり障りのない身の上を語った。
「私は……。李…海道という。
最の国の僻地で子供達に学問を教える塾を開いていたんだ。
だが、この前、住んでいた土地で羅の国と戦が起き龍梅を連れて逃げる所で崖崩れが起きて、二人共、川に落ちてここまで流された。
改めて聞くようですまないが、ここは?」
「ここは最から遠く離れた、晋の国だよ。
最の国から流されたって事は彩竜川に落ちたんだね。あれは、流れが早いからね…。
そうか、それは災難だったね。戦なら今頃家も焼かれているだろうよ。
まぁ、しばらく龍梅ちゃんの具合が良くなるまでウチにいなよね!」
鈴麗は、優しい笑みで二人を見た。
「鈴麗さん、色々とご迷惑をおかけしてすみません。」
龍梅は鈴麗に頭を下げた。
「何言ってるの、龍梅ちゃん困った時はお互い様よ!気にしなくていいの。
さっ夕餉の準備でもするかな!そうそう旦那、明日は龍梅ちゃんの精がつく鰻でも釣ってきてちょうだいよ!
あ、旦那はこれ以上精がついたら龍梅ちゃんが大変だからお預けね!」
「グ、ゴホッ!ゴホッ」
鈴麗の言葉に海道が思わず咳込む。
それを見ていた龍梅はキョトンとしていた。