海の章3
海道最低です。が、男ってこんな人が多いです…
海道が目を開くといつもの見慣れた自室でなく茶色が見えた。
驚き体を起こすと岸辺だった。
あぁ、川に落ちてそのまま流されて…。助かったのか…
体がまだ濡れているからあれからそんなに時間は経っていない事がわかる。
顔や体に着いた土を払おうとして視線をあげると、遠くに小さな固まりが見えた。
まさかと思い、注意しながら近づくとそこには羅の王太子、龍梅が横たわっていた。
海道は、千載一遇の機会に体が振るえた。
「父上の敵だ…。」
ゆっくりと龍梅の首に手を這わせると、渾身の力で締め付けた。
グッと力を込めた瞬間、水ではない、何かヌルっとした液体で左指がすべった。
「?」
海道は、自分の手を見てみると左手のみ、べっとりと血がついていた。
どこか怪我でもしたかと袖を捲ってみてもかすり傷くらいで大きな傷はない。
目の前に横たわる龍梅を見ても外傷らしきものが見当たらない。
なにげなく龍梅の顎を持ちあげ、右に向いていた顔を左に向かせてみると、龍梅の左側頭部から左耳の後ろまで、パックリと傷口が開いており、そこからとめどなく血が出ていた。
「お、おい!大丈夫か?」
戦で大量の血を見ることは平気になっていたし、先程、自らが殺そうとした相手だという事もわかりすぎるくらいわかっていた。
しかし、何度も刀を合わせて戦ってきたライバルが自分の力以外で死のうとしている事実に海道は焦った。
よくよく見ると、龍梅はピクリとも動かず、口もとに耳を当てると息すらしていない事がわかった。
海道は体をずらし龍梅の胸に耳を押し当てた。
すると微弱ではあったが、今にも消えそうな鼓動が聞こえた。
「お前を殺すのは俺だ!だからまだ、死ぬな!」
そう囁きながら、海道は龍梅の背中を叩き続けた。
しかし、中々水を吐かない龍梅に不安を感じた海道は、今度は肺いっぱい空気を吸い込むと龍梅の口に直接息を吹き込んだ。そして、鳩尾を数回強く押した。
それをしばらく繰り返すと、
「グゥっ!ゲホッガハっハァハァハァ、ゴホッハァハァ…」
龍梅は口から水を吐き出し、激しく咳込んだ。
そして次に自分の袖を破ると龍梅の傷口に当て、包帯のように巻き付け止血をした。
「世話を焼かせる女だな!」
そういいながらペチペチと龍梅の頬を叩くが反応がない。
チッと舌打ちをし、少し考え込んだ後、海道は龍梅を背負うと雨露を凌げる場所を探した。
2時間程歩いただろうか、やっと民家のような小屋を発見した。
「誰かいないか?」
海道は、扉を開け呼びかけたが、誰もいない様子だった。
2時間も歩きながら、意識を無くした龍梅を支えていた腕は、限界に近い。
少しの間だけ休ませてもらおうとして、中に入った。
すると鼻につく酒の臭いで海道は顔をしかめた。
「なんだ、ここは?」
「なんだって事は、ないでしょ?居留守決め込んでるのに、勝手に入って来たのそっちでしょ?」
部屋の奥に目をやると30くらいの女が酒瓶を片手に座っていた。
「すまぬ…。誰もいないと思ったのでつい…。」
「ま、いいけどね。昨日男に振られて、暇だったんで、ヤケ酒引っ掛けてた所だったんだ。あんた、あたしを慰めてくれるのかい?」
女は、色気たっぷりで海道に近づくと、眉をよせた。
「なーんだ、女連れか?もぅゴタゴタは十分なんだよ!帰んな!
あれ?…この子怪我してるじゃないか?何ボーっと突っ立ってるんだよ!早く、その子をここに寝かしな!」
コロコロと表情を変える女に、海道は面食らいながら、言われた通り、龍梅を寝台に寝かせた。
女は龍梅の頭に巻かれた布を取りながら海道に矢継ぎ早に指示を出した。
「そこの鍋に水を入れて大量のお湯を沸かして!
あと、左の引き出しから茶色の箱とその下の引き出しから綺麗な布をありったけ持っといで!
それが済んだら、左の薬棚の一番右下にある薬草とその上の薬草を別の鍋に入れて煎じな!」
「…わかった…」
海道は、まごつきながら、鍋を探した。
「早くしな!命にかかわる事だよ!とりあえず、茶色の箱を早く持っといで!」
戦場以外では、怒鳴られた事がない海道は、慌てながら茶色の箱を見つけ出し女に手渡すと、すぐに女は箱から針を取り出し慣れた手つきで、龍梅に針を刺していく。
その動きに見入っていた海道に罵声が飛ぶ。
「何チンタラしてんだい。お湯を沸かして布を持ってきな!」
海道は、必死に火を起こして鍋に火をかけた後、綺麗な布を両手一杯かかえ女に手渡そうとして、驚いた。
龍梅の着物が全て脱がされており、生まれたままの姿になっていたのだ!
硬直した海道に気づかず、女は海道に指示を出す。
「お湯が湧いたら、黒い壷に塩が入ってるから、一つまみ入れて持ってきて!急いで!」
ハッと我に返り、ボコボコと沸騰しているのに気がつく。言われた通り、お湯に塩を入れ、鍋を運ぼうとし、鉄鍋の柄を直に触ってしまった。
ガッシャーン
海道は、あまりの熱さで鍋をひっくり返した。
「何してんだい!このウスノロ!あんたは、自分の嫁を殺したいのか!さっさとお湯をわかしな!」
怒鳴られ続けながらなんとか海道は、女の指示通りに体を動かした。
=半日後=
「これで今日の所は、よしと。あんたも頑張ったね!奥さん助かるよ!」
ニカッと女は、笑った
「かたじけない…」
龍梅は、海道の嫁だと思われているが、本当の事を話しても不信がられるので、そのままにしておいた。
すると、外が騒がしくなっているのを感じた。
追っ手がここまできたか?
そう思って海道は、いつでも応戦できるよう腰を浮かした。
バンっと勢いよく戸が開くと、見知らぬ男が青い顔で、飛び込んできた。
「鈴麗!すぐに来てくれ!うちの嫁が産気づいちまった!」
「月香が?まだ産み月まで早いだろう。無理させ過ぎたね…この大馬鹿!
わかった、すぐに行くよ!」
バタバタと鈴麗と言われた女は支度をしながら口早に海道に言った。
「あんたの奥さん、おそらく今日は高熱が出るから、さっき煎じた薬を半刻ごと一口ずつ飲ましな。
それと、あんた、片袖の格好じゃおかしいから、その長櫃の中に昔の男の着物があるから着替えなよ。それと食べ物はそこら辺にあるから、勝手に食べなね!
明日には帰れると思から!じゃあ、行ってくるよ。」
嵐のように鈴麗は言いたい事を言うと、目の前から走り差っていった。
海道は、口が開きっ放しになっていた事に気付くと、ウホンと咳ばらいをした。
「俺はなにをしてるんだ」
情けない顔で海道は一人つぶやいた。
「…ンンッ…ハァ」
どのくらい時間がたったのか。海道は、これまでの疲れが出て寝てしまっていた。
微かな呻き声に目を覚まし、龍梅を見ると、赤い顔をして、ガタガタと振るえていた。
しまった!
そう思い、龍梅の体を抱き起こし薬湯を口に運んでも震えて飲むことができない。
「おいっ!しっかりしろ。」
海道は、龍梅を揺らしたが目を覚まさない。額に手をあてると鈴麗の宣言通り、高熱が出ている事がわかった。
龍梅の額を冷やそうと水で濡らした冷たい布を額に置いたがますます龍梅の震えが大きくなる。
龍梅が震えるので布団になるものを片っ端から龍梅に被せても、震えはとまらない。
海道はため息をつき、しばらく龍梅を見つめた。
ハァハァと苦しいそうに呼吸し、龍梅の綺麗な眉が歪む。唇は真っ赤だが、口の端は青く、くすみ閉じられた瞳から、幾筋もの涙が流れていた。
海道は、意を決っすると自らの着物を脱ぎ、次に龍梅を抱き起こし、寝巻を脱がせて龍梅を抱きしめると一緒に布団の中に入った。
燃えるように熱い龍梅の体に隙間を無くすように自分の体をぴたりと合わせ、回した手で龍梅の背中を優しく擦り少しでも摩擦熱が伝わるようにする。
龍梅は無意識のうちに暖かさを求め海道の首に腕をまわした。
そして、お互いの熱でゆっくりとお互いを癒していった。
やがて、龍梅の震えも治まり、すぅすぅと静かな寝息が聞こえてきたのに海道は、気づいた。
頭を起こすと、目の前に美しい龍梅の顔があった。
目は閉じているが睫毛は長く、、スッと細い鼻梁で、唇は厚みがある。戦に出ているため、日に焼けてはいるが首から下の肌は雪のように白い。
抱いている体は筋肉はついているものの、膨らみは十分にある。
海道は、思わず龍梅と唇を合わせていた。柔らかく、暖かい唇を感じると自然と口づけを深くしていった。
「ンん…。」深い口づけに息苦しくなった龍梅は、顔を背けた。我慢がきかなくなった海道は首筋に口づけを落とす。もう自分が抑えられなくなり、龍梅の体をひたすら貪った。