海の章
前置きが長くなってすみません。ここから、物語が動きます。
海道は父親を殺した者の顔を毎日、思い出し脳裏から薄れさせる事をしなかった。
七年前、父親の補佐役として、戦に出た海道は、適兵に囲まれ馬から落ちた。
なんとか体勢を立て直し、適の攻撃を剣でかわしながら、相手の隙をついて、攻撃に転じた。
最後の一人に留めを刺した瞬間、背後に凄まじい殺気を感じ振り返ると、明らかに適国の甲冑を身につけた、小柄な武将が馬上より海道の首を狙って、槍を振り上げている瞬間だった。
殺される。
そう感じると全ての時間がゆっくりと流れ、馬上の武将がやけに無表情で虚ろな目で自分を見ている事がわかった。顔つきを見ると幼さが残る綺麗な少女のように見えた。
顔をしていると、
ドンッ
何かに凄い勢いで突き飛ばされた海道の目に有り得ない光景が目に入った。
海道を助けるため、馬で駆けてきた父親が武将が振り上げた槍の軌道の中に入り腹部を切られて落馬した。
適の武将は、手応えを感じ取ったのか、馬を駆ると次の標的を倒すため早々とその場を離れていった。
「ち、父上!」
助け起こしても反応のなかった。
劣勢に陥った最の軍の退却を家臣に言われても、父親の屍を抱きしめながら振るえる海道に、数人係で父親から引き離し撤退をさせた。
その後しばらくして、例の武将は、羅の皇女の羅龍梅という少女で自分とあまり年が違わないこと、武術の才能にずば抜けている事がわかり、あの戦より、王太子とされ、周りから羅の女将軍と呼ばれている事がわかった。
それから、数十回に渡り最の国と羅の国は戦をしている。
国同士の戦に始まり、時には小国の後ろ立てとして戦をした。
その度に海道と龍梅は何度も一対一で、刃をぶつけ合うが、どちらかの軍が撤退するまで続き、決着が着いた事は一度も無かった。
そして、刃をぶつけ合うのが数十回目となる今日も、海道と龍梅は命の駆け引きをしていた。
龍梅は微笑みながら
「徐将軍よ、そなたとの戦いも飽きた。もう死んでくれぬか?」そう言いながら海道目掛け、鋭く槍で突く。
「それをそっくりそのまま返す!」
海道は槍を剣で薙ぎ払った。
その瞬間、龍梅は脇に仕込んだクナイを三本、海道に目掛け放つと海道が再び剣で防ぐが三本のうち一本が海道の顔をかすり、頬に赤い線ができた。
先ほどから雨が強くなり、すぐ横は崖になっている。体勢を立て直そうと、海道は馬を操り、龍梅と距離を取った。
「怖じけづいたのか?」
龍梅は、冷たい目で海道を見た。
「安心しろ、俺は何でも時間をかける方が好きなんだ。
お前を殺すには、ゆっくり時間をかけてやろうと思っているだけだ。」
そう言うと海道は龍梅目掛けて馬を駆る。
それを受けて龍梅も馬を走らせた。
その瞬間、ドンっという低い音と共に地面が揺れ、体が浮いた。
昨日から振り続いた雨で地盤が緩み、海道と龍梅がいた地面ごと土砂崩れとなって二人は川に消えていった。