表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水の中の花火  作者: SMILE
2/9

龍の章

ヒロインと海道との数奇な縁のきっかけとなる章です

栗色の馬に乗っているのは、羅の国の皇女で、羅龍梅といった。


羅の国の国王は、戦上手で知られ、それと同じく女にも目が無かった。

なので後宮には31人もの側室がいた。ただ不思議な事に産まれる子供は女子ばかりで国を継いでくれる男子は産まれなかったため、側室との間に産まれた子供は、皇女ばかり35人もいた。


もちろん、皇女も敵国や同盟国との政治の駒として多いに役には立つ存在ではあったが、35人もいればお釣りが来てしまう。


そこで王は、女でも幼い頃から鍛え、国の力として役立たせれば国益にもなるし、駒にもなる。更に力あるものであれば、自分の後継者として置くこともできると考え、侵略や和平のための駒として、嫁ぎ先が決まっていた、20番目までの姫より後に産まれた娘には、3歳になると、剣、槍、矛、武術、弓、などその道の達人と言われている武人を後宮の離れにある離宮に呼び戦で生き残る術や兵をまとめる術を叩きこんだのである。


王は、21番目以降の姫達には、男の子に使うような強い意味を持つ漢字を1字入れるようにし、龍梅は、国の守り神の青龍から取った字を与えられた。


幼い時から龍梅は、とても利発で運動神経も優れており、5歳になる頃には、剣、槍、矛、弓、クナイなどが使えるようになり、生来の身軽さと勘のよさで並の大人と張り合える程になっていた。また、その事に王も非常に喜んだ。


15歳になる頃には全てにおいて、師範を抜く腕前になり、特に馬上での槍裁きは、達筋がわからなくなるほど速かった。その半年後、龍梅は初陣に出た。


初めての戦に赴いた龍梅は、馬に乗り陣のある場所まで移動する最中であった。初めての戦で頭がいっぱいになり手綱を持つ手が小刻みに震えていて、それを止めようと力を入れると大きな震えとなってしまい、自分の両手を見て苦笑気味に小さな声でつぶやいた。「震えが止まらない…か。ハハッやっぱり怖いや」


「龍梅、気をしっかりもて!戦に携わる者ならば、誰もが必ず初陣はある。そう気負ってばかりいては、勝てる戦も負けてしまうぞ。」

龍梅の背後から声がし、振り返ると白馬に跨がり真っ白な甲冑を来た5歳上の姉、羅雷花がいた。

「雷花姉上!聞いてらっしゃったんですか?も、申し訳ございません。」

龍梅は、慌てて、馬上から降り膝をついた。


雷花は、21番目の姫、すなわち武術を教え込まれた初めての姫であり、父王に喜んでもらうため、コツコツと努力を重ね、武術の腕前や戦略の立て方、臣下への態度や束ね方、なにをとっても頭一つ抜きにでていた。戦では、将軍として数々の功績を上げ「羅の雷公」と言われ一目置かれていた。


誰もが雷花が次の王になると確信をしており、王も後継者として雷花をみていた。


雷花は、今回の戦では、全てを統括する総大将として参加している。

「案ずるな。そなたの槍は、この国随一だと統師範より聞いておるぞ。一度だけ、剣技であったが、そなたの稽古を見かけた事がある。その姿は、軽く私を越しておったぞ。」


「勿体ないお言葉、ありがとうございます。しかし、私などは、到底、雷花姉上の足元にも及ばぬ未熟者でございます。」


「ふふっ。何だその物言いは?お前らしくないわ。そなたが幼い時は、雷姉様、雷姉様とよく私の所に来て、本を読めだとか弓を教えろとか言っておっただろう。」


「あ、あれはまだ子供だったゆえ…。そ、それに今は、雷花姉上は、次期王太子になられる方です。幼い頃と同じ呼び方をする訳には参りません。」


龍梅の言葉に雷花は、悲しそうに笑った。


「私の立場が変わろうが、私は私なんだ、龍梅。父上のお役に立てられる事は、私としても望んでいた事だが、父上の地位に近付けば近く程、私の周りから心許せる者がいなくなる。龍梅、お前までいなくなってしまわないでくれ。」


龍梅と雷花は、姉妹の中でも仲が良かった。お互い側室腹であり父親譲りの勘の良さや武術の才能を持っていることから、雷花は龍梅を可愛がり、龍梅は雷花によく懐いていた。


「雷姉様…。」雷花の悲しい目を見て思わず、龍梅は、昔の呼び名で姉を呼んでいた。

困惑した妹の眼差しに気づき慌てて、雷花は笑顔を作った。

「すまない。私も少し緊張しているようだな。」

と言い、馬を先に走らせた。


雷姉様のあんな顔初めて見た。王太子の重責を感じてらっしゃるのだろうか…。あぁ、姉様が苦しんでいらっしゃるのになんて声をかけたらいいのかわからないとは、情けない妹だ。


そう思った矢先、

「敵兵がすぐそこまで来ています。お気をつけください。」前から馬を駆ってきた兵が大声をあげてこちらにきた。その瞬間何百もの矢が飛んできて一瞬で空が黒くなった。「龍梅様!お気をつけください」龍梅の槍の師匠、劉将軍が龍梅にささやいたかと思うと、大槍をあげ、凄い速さで水平に回しはじめた。槍が風を切ってゴウゴウと唸りをあげながら、矢が弾き返され槍の下にいる龍梅には矢がかする事さえなかった。


しかし、前から敵兵は土煙をあげながら、目前にきていた。「羅の者よ!こちらから出向かなくても向こうから倒されに来たぞ!羅の実力を見せる時は今ぞ」地が割れんばかりの声で雷花が叫ぶとその覇気が全ての羅の兵に伝わり、兵の勢いは増した。


そして両軍入り乱れての戦いとなった。


その中で龍梅は、防戦一方だった。目の色が尋常でない人々が剣を振り上げながらこちらに向かってくる。

特に今まで話した事もない者が自分を殺そうとしている。そして、自分も目の前の相手を殺さなくては、殺されてしまうかもしれない。しかし、今まで生きていた者を殺すのは、その人が接してきた多くの人の思いまで無くす事でもある。そう思うと、どうしても龍梅には目の前の相手を殺す事はできず、急所を外し、相手を動けなくするだけで精一杯であった。


しかし、それが悲劇を呼んだ。


龍梅が動けなくした敵兵が力を振り絞り、放った矢が雷花の左目に刺さったのだ。


龍梅は、最初何が起きたかわからなかった。ただ時間がゆっくり流れていく不思議な感覚で、馬から落ちていく雷花を見つめていた。


「雷花様!」雷花の側近である黄副官が駆け寄り雷花を抱き上げた。見ると矢は左目から頭まで達しており、矢じりは、側頭部より突き出ていた。


雷花は、小刻みに震えているが呼びかけても返事をすることはなかった。


「早く医師を!」雷花を抱き上げながら、黄副官は、襲い来る敵兵を捩じ伏せていた。


その光景を見た龍梅の中で何かが壊れた。


「ウォォォ!」龍梅が突然奇声を発したかと思うと、槍を振り上げ、敵兵に突進していき、素早い一降りで5、6人の敵兵の首を跳ねていった。まるで舞を舞うように、次々と相手を殺し、人の油で槍の切れ味が悪くなると、背中にある二本の剣を両手に持ち、敵兵の中を飛び回って切っていった。


その姿を見ていた劉将軍は、龍梅の才能が一気に花開いた事を感じ、それと同時に恐ろしさにたじろいだ。



目の前の視野が広がり龍梅はハッと正気に戻った時、敵兵は退却しており、残るは自らが打ちとった敵兵の死体が地面を覆っていた。


両手を見ると自らの肌の色がわからなくなるほど真っ赤な返り血で染まっていた。


「雷姉様は…?」


姉の安否を案じ、劉将軍に目を向ける。


「只今、医師が総出で治療に当たっていらっしゃいますが、おそらく…」


語尾を濁した劉将軍の首に鋭い刃を当てた。


「何としてでも、姉上の命を繋げ、私の命に代えても」


「わかりました。

では、ご一緒に雷将軍の所まで参りましょう。」


「あぁ」


馬を走らせ、野営を貼っているテントまで駆けていく。


劉将軍は、馬を操る劉梅を横目で見ながら、今朝あった龍梅と今の龍梅が本当に同一人物なのかわからなくなるほど、顔付きが変わっているのに小さく驚いていた。


もちろん、戦の中で受けた返り血で体中真っ赤になっており、それで顔つきが変わって見えると言われればそうだろが、彼女の核となる部分のような物が変わっているような気がした。



「龍梅様、劉将軍!」


馬を走らせ、野営をしているテントの姿が見えてくると入口で見張りをしていた兵が二人の姿に気づき走りながら近づいてきた。


「姉上はどこだ?」



「こちらです!」


見張り兵の後に続いて一番奥のテントに案内される。そのテントの入口付近で黄副官がうなだれ座っていた。


「黄副官!」


劉梅に呼ばれ、黄副官は、ビクリと体がはねた。


「龍梅…様…?」


「姉上の御容態は?」


龍梅が尋ねた瞬間、黄将軍の振り上げた拳が顔を目掛けて飛んでくるのを瞬時に捕らえたがあえて龍梅は避けなかった。


その結果、龍梅は、2メートルほど吹っ飛んだ。更に、黄将軍は、龍梅を押し倒し泣きながら殴った。


「何故、戦の最中に敵の命をとらなかった?わずかな、油断も憐れみも戦では、命取りになると、オレがあれほど言っただろう!初陣だろうが戦に出た以上、命のやり取りに怖がるな!お前の臆病風が雷花様を…」


龍梅は、自分の責任でこうなった事は痛い程わかっていた。

が皇女という立場の者に向かい誰もその事を口にしない。むしろ、黄副官のように殴られ罵倒される方が今の自分にはありがたいと感じていた。


そう思った矢先、自分の上から黄副官の重さが無くなった。ゆっくりと頭を上げると、劉将軍が黄副官の襟首を掴み投げ飛ばしていた。


黄副官を睨みながら、劉将軍はゆっくりと口を開いた。


「黄副官、そこまでだ。

龍梅様を殴った所でこの状況は何一つ変わらん。


それに、戦に出陣する際は、皆、死を覚悟して出陣するのは、当たり前の事。それで死んでも誰の責にもならん。強いて言うなら、雷将軍が打たれたのも雷将軍が選ばれた道なのだから雷将軍の責だ。


更に、お前は今回の戦では、雷将軍が打たれた後の統括をするのが総将軍の副官たる役目だったはずだ。


それを投げ出し、雷将軍の犬のように、側から離れなかった。


そんなお前が、あろう事か、敵陣に単独で乗り込み、劣悪だった戦況を打破し勝利に導いた龍梅様を罵倒するとは、情けないにも程がある!目を冷ませ」


龍将軍の一喝に黄副官はうなだれ、「うわぁぁぁ」っと悲痛な叫び声を上げ泣き崩れた。


それをぼんやりと見つめていた龍梅を劉将軍は立たせた。


「龍梅様、大丈夫ですか?」


「あぁ。なんともない。それより黄副官…。本当に申し訳ない。お前の気持ちが少しでも晴れるなら、今この場で私を殺してくれ」


「龍梅様!」

青い顔で劉将軍が止めに入るが龍梅は、それを無視し、ゆっくり黄副官に近づきながら、自分の剣を抜きそれを黄副官に握らせ、切っ先を自らの首に当てた。


驚き目を見開いた黄副官に微笑むと龍梅は目を静かに目を閉じた。


「で、できません。雷花様と同じ眼差しを持つ貴女を…。ましてや、剣技を教えた教え子に…できる訳がない。」涙に濡れた黄副官の手から剣が滑り落ちた。


黄副官は、雷花の1番の側近として常に側に付き、どんな戦の中でも常に雷花の後ろを守っていた。おそらく、雷花も1番信頼をしていた相手だった。


また、黄副官は、剣の達人としても国で一、二を争う程の腕前を持ち主で、龍梅が幼い頃より剣の師範として色々と教え劉将軍同様に龍梅の成長を見守ってくれた掛け替えのない人だった。


そんな黄副官の顔を見つめながら、「お願い…早く、私を殺して…」龍梅は、小さくささやきながら、うなだれた。



その瞬間、雷花を治療しているテントの幕が開き医師が出てきた。


「龍梅様、雷花様のお命は取り留めました!矢が入った角度がよかったせいで、なんとか、脳の手術は成功いたしました。しかし…左目は残念ですが見えません。また、脳の損傷がありますので、いつ目覚められるか…。目覚められてもおそらく麻痺が残る可能性が極めて高いです。」




「よかった…」

真っ先に黄副官が口を開いた。

「オレは、彼女が生きていてくれさえすれば何もいらない。神様に感謝します。」


その姿をみつめながら龍梅はそれまで極限まで張り詰めていた糸が切れ意識を失った。



まだまだ海道と龍梅は、対面しないです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ