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有魂機人ツクモス The Comrades  作者: 霜月立冬


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第六十三話 弊害

 時間は少し巻き戻る。

 耀平(ヨウヘイ)の策(右腕を(おとり)にする)が発動した瞬間、乾坤圏(ケンコンケン)を操る雨淋(ユーリン)の視界に、真横に突き出されたムラマサの右腕が映り込んだ。


 あれを斬れば――終わり。


 雨淋の想いに、乾坤圏に搭載された脳波操縦装置(ヴェイクス)が全力で反応した。

 乾坤圏の背面から六本の光の帯――IN羽衣アイエヌ・プルーミッジが一斉に後方へと(なび)いた。それが完全に伸び切ったところで、IN羽衣の根元で小爆発が発生した。

 その刹那、乾坤圏はムラマサに向かって弾き跳んだ。


 乾坤圏の神速攻撃。

 人間には知覚できない速度。それに反応することは、耀平にも、誰にも不可能だ。その事実は、雨淋も良く知っている。


 よ~へくんが何を考えていても、私が「見た」時点で終わりだよ。


 雨淋の勝利に対する確信。それを乾坤圏が具現化する。

 灰褐色の中華戦士は、瞬く間も無くムラマサの右腕の至近に迫った。その超高速移動中、乾坤圏は灰褐色の細腕を振り上げている。

 乾坤圏の腕に嵌まった二枚の圏が、「早く切り落とさせろ」と鈍色の光を放つ。

 右腕を振り下ろして試合終了。そのはずだった。ところが、ここで予想外の出来事が起こった。


 ムラマサの右手から()()が飛び出していた。


 白刃の正体は、ムラマサの右腕に隠れていた打刀だ。ムラマサ(耀平)は逆手袈裟懸けに打刀を振り抜いた。


 ムラマサの反撃(カウンター)。しかし、それは乾坤圏の視覚センサーで捉えている。即座に乾坤圏の全周囲モニターに表示された。その光景が、雨淋の視界に入った。

 その瞬間、雨淋は念じた。


 避けてっ!


 ムラマサの攻撃は確殺のタイミングである。

 しかし、第三世代型のツクモスならば、その超反応で回避できる。まして、雨淋が駆る乾坤圏は第四世代型。躱せない道理が無い。

 尤も、そこには「通常の状態であった場合」という条件が付く。


 今の乾坤圏は神速攻撃中である。交通標語の「車は急に止まれない」である。

 その速過ぎる速度が(あだ)となった。

 

 乾坤圏は、ムラマサの打刀に向かって突っ込んだ。その刹那、振り下ろした乾坤圏の右腕が、ムラマサの打刀の軌道に重なった。


 乾坤圏の右腕は、二の腕辺りからスパリと跳ね飛んだ。この事態は、雨淋にとっては全くの予想外。即応はできない。


 ここは一旦間合いをとらなきゃ。でも――


 雨淋の脳は、この場に留まるべきでないと結論を出している。その一方で、雨淋の心中には真逆の想いが膨れ上がっていた。


 あの腕を斬れば勝てるのに。


 脳の思考と心の感情。

 表現は別物だが、実際には同じ脳内の出来事である。

 より強い想いに、脳波操縦装置(ヴェイクス)は反応した。


 乾坤圏の右腕が飛んだ後、二人の巨人は擦れ違った。乾坤圏の神速による影響で、それなりに距離が離れた。


 凡そ二百メートル。しかし、それは直ぐに埋まった。


 乾坤圏は、振り向き様にIN羽衣を展開した。そのままムラマサに向かって再突進。

 このとき、ムラマサは乾坤圏に背中を向けていた。その右肩は全くの無防備だ。そこに向かって、乾坤圏は左腕を振り下ろそうとした。

 ところが、ムラマサは超速で振り返った。


 ムラマサは、順手に持ち替えた打刀を袈裟懸けに振り下ろした。その攻撃もまた、乾坤圏(雨淋)の視界に映っている。

 しかし、躱せない。乾坤圏は神速を発動している。


 乾坤圏は止まれずに、そのまま打刀の白刃と衝突した。

 結果、どうなったか? それは――今現在の耀平の視界に映り込んでいる。


 ムラマサが打刀を振り抜いた後、ムラマサと乾坤圏は再び擦れ違っていた。今は背中合わせに立っている状態だ。


 ムラマサは、打刀を振り下ろした状態で固まっていた。

 ムラマサの左腕は既に無い。右腕は――健在だ。


 乾坤圏は、突っ立ったままの状態で固まっていた。

 乾坤圏の右腕は二の腕辺りから失われている。左腕は――肘先から無くなっていた。


 乾坤圏の両腕は、ムラマサの足下付近に転がっていた。その光景が、ムラマサの全周囲モニターに映し出されている。当然、耀平の視界にも入っている。その光景の意味も、耀平は知っている。

 ところが、耀平は首を傾げていた。


「え? これって?」


 ムラマサの攻撃中、耀平はずっと目を瞑っていた。目を開けた瞬間の光景が、これなのだ。状況が衝撃的過ぎて思考が追い付かない。感情というノイズが全力で邪魔をしている。人間ならではの反応だろう。

 しかし、人間でないもの、機械は平静に事態を直感した。


 耀平が惚けていると、耀平の左肩から声が上がった。


「勝ってしまうとはの」


 耀蔵(AI)は、冷静に結果を告げた。すると、耀平は左肩の方へと首を捻った。続け様に視線を下げて、そこに乗った小妖精を見た。すると、耀蔵(AI)の方も、視線を上げて耀平を見た。

 二人の目が合った。その瞬間、耀平が声を上げた。


「勝った――の?」

「ああ、勝ったぞい」


 耀平の質問に対して、耀蔵(AI)は満足げに頷いた。その言動を目の当たりにして、漸く耀平は現況を理解した。


 夢じゃ――無いんだな。


 耀平の視界に映った光景は、全て現実である。それを知らしめるように、無機質な機械音声が荒野に響き渡った。


「試合終了。勝者、J3M108――名取耀平」


 最強戦の運営本部のアナウンス。その無機質な声が耀平の勝利を宣言した。これ以上に確かな保証は無い。

 しかしながら、最強戦を視聴していた世界中の人々にとっては信じ難く、受け入れ難い出来事だった。


 「一体、何がどうなって、こうなった?」


 試合の結果に付いて考えると、殆どの人間の首が斜めに傾いでいく。 殆どの人間が、耀平の勝利を疑っていた。

 耀平自身も、少し前までは現況を理解しかねていた。しかし、今は違う。


「勝ったのか」


 耀平の口端が吊り上がった。それに併せて諸手を挙げた。


「やっ――」


 耀平の口から勝利の雄叫びが漏れ出した。しかし、最後まで言い切れなかった。その行為を、ムラマサが阻んだ。


((耀平っ!))

「!?」


 ムラマサの声の声は、危機感を覚えるほど切羽詰まっていた。それを耳にした瞬間、耀平の心臓が跳ねた。

 その直後、耀平の全身が、搭乗しているムラマサ毎跳ね飛んだ。


「何っ!?」


 ムラマサは、背中に()()の衝撃を受けて跳ね飛ばされた。その原因を確認すべく、耀平は神速の操作技術でムラマサを反転させた。

 すると、耀平の視界に灰褐色の中華戦士の姿が映った。


 乾坤圏は右脚を高く掲げていた。その様子を見て、耀平は衝撃の原因を直感した。


 こいつ――蹴ったのか?


 乾坤圏は、直ぐ様脚を戻した。続け様に、ムラマサに向かって――突進した。

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