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有魂機人ツクモス The Comrades  作者: 霜月立冬


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第五十九話 お呪い

 西暦二千百三十年、十二月八日(金)。

 最強戦決勝の朝。時刻は間も無く午前九時。後一時間もすれば試合が始まる。

 今日の試合の出場選手、名取耀平(ナトリ・ヨウヘイ)も、劉雨淋(リュウ・ユーリン)も、どちらも未だツクモス格納庫の中にいた。


 異世界と錯覚するほど広大な鋼鉄の檻。賑やかだった地下空間(ジオフロント)も、今は静けさを取り戻している。

 しかし、地下空間の端っこは、未だ活気に溢れていた。


 南端に開いた巨大な洞、ツクモス専用出入り口。

 その東側と西側に、二人の巨人が立っている。その周りに人が集まって、それぞれ思い思いの行為に耽っていた。


 東側の巨人は、ポッコリ腹が突き出た痩せぎすの中華戦士。NTMNX01乾坤圏(ケンコンケン)

 乾坤圏の両腕には「圏」と呼ばれる二連の輪が嵌っている。他に、武器らしいものは無い。いや、必要が無いと言うべきか。


 西側の巨人は、ポッコリ腹が突き出た漆黒の鎧武者。NTM01ムラマサ.

 ムラマサの右手にはアサルトライフルが、左手には大口径ライフル(左手)が握られている。

 それらに加えて、腰部背面に打刀を真横(水平)に差している。


 乾坤圏とムラマサ。どちらの状態も良好、準備も万全だ。それを整えた人間達が、「今日も十全に働いてくれるだろう」と胸を張っている。


 乾坤圏の整備を担当していた者は、白衣を着た十人ほどの大人達。

 ムラマサの整備を担当していた者は、三名の中学生の男女。


 前者、乾坤圏に群がる白衣の大人達の中に、白いパイロットスーツに身を包んだ小学生――と、見紛う小さな中学三年生女子の姿が有った。


 乾坤圏の操縦者、劉雨淋。


 他の大人達が忙しなく動き回る中、雨淋は乾坤圏の前に立ったまま、その威容を茫洋と眺めている。

 雨淋の態度や様子は、周りの大人達に「全く何も考えていない」と想像させた。

しかし、雨淋の心中は複雑だった。


 今日の試合、よ~へくんが相手だけど。でも、勝てば良いんだよね? その為に、私は()()にいるのだから。


 雨淋の脳内では、名取耀児(ナトリ・ヨウジ)(乾坤圏の開発主任)と言う名前の悪魔と、名取耀平と言う名前の天使が激しくせめぎ合っていた。今のところ悪魔側が優勢か。

 雨淋は、脳内悪魔の甘言に惑いながら、今日の試合の必勝法に付いて、あれやこれやと思案している。

 尤も、既に作戦は決まっている。それを実行する為に、雨淋は今日も乾坤圏に乗り込む。


我走了(ウォーゾラ)(行ってきます)」

 

 雨淋が声を上げると、白衣の大人――名取耀児と愉快な仲間達は、乾坤圏の前にツクモス用タラップを設置した。その上を、雨淋はユックリ上っていく。

 雨淋が頂上部分に足すると、目の前に突き出た乾坤圏の腹に穴が開いた。その中に向かって、小さな白いパイロットスーツの少女の体が吸い込まれていった。


 雨淋が乾坤圏に乗り込んだ頃、ムラマサの前には三人の中学生達が立ち尽くしていた。

 真ん中に、黒いパイロットスーツをまとった痩身男子。その左右に作業着姿の男女。


 ムラマサの操縦者、名取耀平と、ムラマサの整備班員、春雨充(ハルサメ・アタル)夕立雫(ユウダチ・シズク)


 三人は何をするでもなく、ジッと漆黒の威容を見詰めている。その内の二人、充と雫の瞳は「ウルウル」と擬音が見えるほど潤んでいた。

 二人の脳内には「耀平に対する感謝と激励の言葉」が次々閃いる。それを全てぶちまけたい。その衝動に駆られて、二人は揃って耀平を見た。

 このとき、充も、雫も、耀平の()を見るつもりだった。ところが、二人の視線は耀平の()に吸い込まれた。


 耀平の頭には、何故かシロツメクサで編んだ花冠(はなかんむり)が乗っかっていた。それを見詰める充と雫の首が、一様に傾いだ。


 耀平先輩は――何で花冠を被っているのだろう?


 充にも、雫にも、耀平の奇行の意図に思い当たる節は無い。幾ら考えたところで、それと思しき回答は閃かない。だからと言って、「何ですか? それ」と聞くのも、失礼な気もする。しかし――気になる。

 花冠に対する疑念。それを払しょくする為に、夕立雫は決断した。


「耀平先輩」

「ん?」

「頭のそれ、何でしょうか?」


 頭のそれ。それを指摘された瞬間、耀平は「これか」と花冠を指差した。その際、耀平の顔に恥ずかしげなハニカミの笑みが浮かんだ。


「まあ、うん。これは――」


 花冠を作って乗せた理由。それは――実は耀平も良く分かっていない。強いて理由を挙げるならば「ムラマサの中見た夢のこと引っ掛かった」と言ったところ。所謂、虫の知らせである。

 根拠が曖昧であるが故に、耀平の脳内には説明の言葉が中々閃かなかった。暫く悩んだ末に、何となく閃いた言葉を告げた。


「お(まじな)い――かな?」


 お呪い。それを口にした瞬間、耀平は「言い得て妙だ」と思った。その言葉を皮切りに、耀平の脳内に説明の内容が閃いた。


「この試合に勝ったら優勝だから。その、予祝? 勝者の前祝的な? そういうやつ」


 耀平の言葉を聞いて、雫は「なるほど」と頷いた。すると、耀平の隣で充も頷いていた。

 それぞれの様子は、耀平の視界の端に映っている。その瞬間、耀平の顔に浮かんだ笑みが、ハニカミから苦笑に変わった。


 まあ、うん。本当は特別な意味なんか無いんだけれども。


 耀平は逃げ出したい衝動に駆られた。その想いが口から飛び出した。


「それじゃ、行ってくるっ!」


 耀平の声に、他の二人が即応した。直ぐ様ムラマサの前にタラップを設置して、


「「行ってらっしゃいませっ!!」」


 右手を上げてビシリと敬礼した。その激励を受けて、耀平は気持ち申し訳なさげにタラップを駆け上がった。

 頂上部まで上がったところで、耀平はムラマサに声を掛けた。


「今日も、宜しくお願いします」


 耀平の言葉に、ムラマサは即答した。


((こちらこそ))


 耀平の脳内にムラマサの声が響いた。その瞬間、ムラマサの腹に穴が開いた。その中に向かって、耀平は勢い良く飛び込んだ。

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