第五十四話 鉄火場
地方都市の駅前然としたゴーストタウン。そのコンクリートのハリボテ群の中に、無機質な機械音声が響き渡った。
「ツクモス学園中等部最強戦。準決勝、第一試合――開始」
声が上がった瞬間、都市内に鋼鉄の足音が響き渡った。都市の端に立っていた二人の巨人達が、一斉に動き出していた。
その内の一人、漆黒の鎧武者は、都市外周を時計回りに駆けている。その最中、ムラマサの腹の中にいる耀平の口から、行為の意図が零れ出た。
「先ずは様子見」
耀平としては、対戦相手が選択するコースを予想して、そこに奇襲を掛けるつもりでいた。
ところが、フィンは耀平の目論見を見抜いていた。
フィンが操る白金の重装騎士もまた、外周に沿って走っていた。
マック・ア・ルインの進行方向は、耀平達とは真逆の反時計回り。耀平達の方へと近付いている。その事実は、現在地を記したの地図画面にバッチリ映っていた。それを直感するや否や、耀平は声を上げた。
「耀蔵爺ちゃん」
「ほいきた」
耀平の声に、耀平の肩に乗った小妖精――耀蔵(AI)が即応した。
耀蔵(AI)が声を上げた瞬間、地図上のムラマサを示す青い光点から、青い光の筋が伸びた。
「ここで曲がって、曲がって、曲がると――」
耀蔵(AI)の声に合わせて、光の筋が地図上のビル群の間を複雑に縫いながら伸びていく。それが再び外周沿いに戻ってきたところでピタリと止まった。
「これで、奴の裏がとれるぞい」
外周上のゴール地点は、マック・ア・ルインの到達場所(予想)だ。
これが、耀平が言うところの「こそこそ作戦」である。
耀平達は、ビル群の隙間からマック・ア・ルインに襲い掛かるつもりでいた。
尤も、耀平達の動きは相手にも知られている。しかし、それもまた作戦の内。
超高速で動き回れば――こちらの意図を誤魔化せる。
耀平としては、相手に逃げ回っていると錯覚させるつもりでいた。その目論見を達成すべく、直ぐ様ビル群の隙間に飛び込んだ。
その直後、マック・ア・ルインの脚がピタリと止まった。その行為は、耀平達が予想したものとは違っている。しかしながら、彼我の距離は未だ遠い。
耀平は慌てず騒がず、サブモニターの画面を見詰めながら、耀蔵(AI)に向かって声を上げた。
「耀蔵爺ちゃん」
「ほいきた」
地図上に、新たな進路が設定された。マック・ア・ルインの進行方向とは逆側に飛び出す(予定)。背後を取る形になる(願望)。
ところが、ここでまたしても(耀平達にとって)予想外の事態が起こった。
ムラマサがビル群の隙間を走っている最中、突然手前のビルが爆発した。その様子は、ムラマサコックピット内の全周囲モニターにも映り込んでいた。
「うわっ?!」
耀平の口から情けない声が飛び出した。しかし、耀平の腕と脚は即応していた。
耀平の右手が、ムラマサの進行方向を定める操縦桿を後退方向に傾ける。それと同時に、耀平の右足が前進のフットペダルを思い切り踏み込んだ。
超速の全力後退。途中で踵を返して、そのままスタコラと逃げ出した。
「とりあえず、距離を取って――」
耀平は、再び「こそこそ作戦」を実行するつもりでいた。
ところが、できなかった。とてもじゃないが、反撃に転じる機会を得られる状況ではなくなっていた。
ムラマサの逃亡先に立つビル群が、次々爆発した。それを直感した瞬間、耀平は大きく目を剥いた。それと同時に口を開いて――
「うわああああああああっ!?」
情けない絶叫を上げた。
このとき、耀平の頭の血の気が、掃除機で吸い取られているように一気に引いた。それに伴って、全身が硬直し掛けた。
それでも、操縦桿は絶対離さない。ムラマサを操作し続けている。
耀平は超人的な操縦技術を披露して、頭上に降り注ぐコンクリートの雪崩を回避し続けた。それが止んだ後、無事な隘路に飛び込んで、再び逃げ出した。
耀平としては、ここで一息吐きたいところ。
しかし、敵には耀平に掛ける情けも容赦も無い。耀平が逃げた先で、爆発が起こった。
「またっ!?」
耀平達の行く先々で、ビルが次々倒壊、崩落していく。その原因について考えると、耀平の視線は、地図上に表示された赤い点に吸い込まれていく。
予想はしていたけど――予想以上の火力。後、弾数多いな。
現況の原因は、今日の対戦相手の砲撃だった。
マック・ア・ルインのグレネードランチャーが、マシンガン並みの速射でビル群を破壊し尽くしていく。それを操るフィン・マックールの口元に、酷薄な笑みが浮かんでいた。
耀平。この都市をお前の墓標にしてやる。
殺意みなぎるグレネード弾の集中豪雨。それによって、コンクリート塊の雪崩という二次災害が引き起っていた。
避けなければ圧死は確実。
ムラマサは僅かばかりの隙間を縫って、ギリギリで回避し続けた。回避できないものは、両手の銃火器で粉砕した。その間も、地図上に点った赤い点が、青い点の方へと近付いている。
しかし、耀平も、耀蔵(AI)も、避けることで精一杯。白金の重曹騎士の接近に気付く余裕は無い。
何度目かのコンクリートの雪崩を回避したところで、耀蔵(AI)が声を上げた。
「輝平。流石に――今のは危なかったぞ」
耀蔵(AI)の言葉を聞いて、耀平の口が「へ」の字に曲がった。
「耀蔵爺ちゃん」
「ん?」
「危なくなかったときって――有ったっけ?」
「無いな」
「だったら言わないでよねっ」
二人の会話の直後、再び爆発が起こった。その度に、耀平は超人的な操縦技術を披露した。
しかし、超人的であるが故に、人の体では耐えられない。
操縦中、輝平の手足の皮がズル剥けた。そこから血が滴った。その痛みが、耀平の目から涙を溢れさせた。しかし、耀平は耐えた。
我慢、我慢、我慢――絶対に好機は来る。それまで我慢だっ!!!
耀平の脳内には、最後の希望が閃いていた。それを実行する機会を得る為に、耀平は根性でコンクリートの雪崩を躱し続けた。その最中、耀平の脳内に声が響き渡った。
((輝平っ、後ろっ))
「!?」
ムラマサの指示に、耀平は即応した。両足で巧みにフットレバーを操作して、ムラマサの巨躯を真横、左手側にすっ飛ばした。
その直後、ムラマサの頭ほども有る砲弾が真横を通り過ぎていった。その事実を直感した瞬間、耀平と耀蔵(AI)は顔を見合わせた。
「今のは、マジで――」
「危なかったぞ」
「うん」
耀平達は、それぞれ右手を掲げて額の汗を拭った。すると、再び燿平の脳内にムラマサの声が響き渡った。
((気を付けてくれよ。全く))
「分かってるよ。ムラマサ」
耀平は返事をするや否や、ムラマサの巨躯をビル群の隙間に飛び込ませた。その直後、ビル群が爆発倒壊した。
宛ら怪獣映画のワンシーンのような追い駆けっこ。それを繰り返しながら、ムラは都市中央部、南北に連なるメインストリートに向かって走り続けた。




