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有魂機人ツクモス The Comrades  作者: 霜月立冬


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第五十二話 戦友

 西暦二千百三十年、十二月一日(金)。

 今日はツクモス学園中等部最強決定戦、準決勝が行われる。

 全世界が注目するイベントだ。快晴の下、クリアな視界でシッカリ見届けたいと思う者は、存外に多い。しかし、天候は曇天だ。


 空模様を見て、残念と思う者は存外に多い。その一方で、今日の試合は荒れると思う者は存外に――少ない。


「例年通り、決勝はフィン・マックールと劉雨淋(リュウ・ユーリン)だろう」


 評論家、専門家、ありとあらゆるインフルエンサー達は「百パーセント間違いなし」と豪語して、世界中に二人の勝利を喧伝している。

 世間の声、世論は、それなりに影響力が有る。どこにいても耳に入る。当然ながらそれぞれの対戦相手の耳にもシッカリ届いている。


 フィンの対戦相手は、モンゴロイド系の痩せぎすな中等部三年生男子。その名を「名取耀平(ナトリ・ヨウヘイ)」という。

 雨淋の対戦相手は、コーカソイド系の筋肉質な中道部三年生男子。その名を「ゴル・マックモーナ」という。


 辛辣な世評に対する二人の返答は、言い方こそ違えど内容は同じだ。それを平たく簡潔に表現すると――


「「知るかボケ」」


 二人とも、辞退する気など微塵も無かった。双方とも、「勝つ気」でいた。その想いは、準決勝の朝を迎えて、一層激しく昂っていた。


 アナクロな時計の長針が午前四時を指した瞬間、二人は目を覚ました。その直後、起き上がって朝のルーティン開始。

 諸々の準備をした後、食堂街で食事をした。

 それぞれ食事を摂り終わるや否や、早歩きで移動して、そのまま中央エレベーターに飛び込んだ。

 そこで、二人は顔を合わせた。


 狭い円筒形の空間の中に、中学生男子が二人きり。

 耀平はフィアナ騎士団と因縁が有る。

 ゴルはフィアナ騎士団に所属している。

 それぞれの立場は相容れない。それぞれの脳内には「互いに対する文句の言葉」が閃いていた。ところが、


「「…………」」


 二人とも、それぞれの存在を全力で無視した。それぞて、「今日」という日に余計な苦労を背負い込みたくはなかった。


 ツクモス格納庫階層に付いた後も、二人は互いの姿を視界に入れず、そのまま愛機の許へと移動した。何事も無ければ、そのまま愛機の許に辿り着いく。

 しかし、二人の行く手を阻むように立ちふさがる者が、一人いた。


 耀平達が(距離を開けて)並んでツクモス格納庫のメインストリートを歩いていると、途中に絶世の美少年が立っていた。

 その美貌は、耀平とゴルの記憶にも有った。それどころか、「これでもか」と言わんばかりに刻み込まれていた。


 美少年の名は「フィン・マックール」。


 耀平にとって、幼馴染にして今日の対戦相手。

 ゴルにとって、自分が所属するフィアナ騎士団の団長。その上、騎士団内では互いに終生のライバルと認め合っている。

 二人にとって、フィンは鋼鉄の鎖で結ばれた因縁の存在であった。その美貌を見た瞬間、二人の顔には真逆の表情が浮かんだ。

 

 耀平は「嫌なものを見た」と言わんばかりの渋面。

 ゴルは「愛しい人を見た」と言わんばかりに喜色満面。


 耀平は直ぐ様視線を逸らした。そのまま無言でフィンの横を通り過ぎた。

 フィンの方も「お前など端から眼中に無い」と言わんばかりに無視した。


 そもそも、フィンがこの場に立っていた理由は、ゴルへの激励である。

 フィンの視界には、最初からゴルしか映っていない。ゴルの視界も、今はフィンの姿しか映っていなかった。


 互いに見詰め合う、フィンとゴル。

 そんな二人を尻目に、耀平はさっさと愛機(ムラマサ)の許へと移動した。

 そんな耀平を完全に無視して、フィンとゴルは無言で見詰め合っていた。


 フィンとゴルの瞳には、互いの姿しか映っていない。それが、より一層大きさを増していく。

 このとき、フィンは立ったままだ。ゴルの方がフィンに歩み寄っていた。

 彼我の距離が五十センチほどに迫ったところで、漸くゴルの足が止まった。


 並んだ二人の姿は、宛ら「神の恩寵を授けに来た天使と、それを受け取る勇者」といったところ。美術館に収めたくなるほどの絶景だ。

 しかし、二人は芸術品ではない。どちらも中学生であり、今は戦士なのだ。


 向かい合って立つ戦士達。その一方、天使と見紛う美少年が声を上げた。


「ゴル」

「フィン」


 フィンが名前を呼ぶと、ゴルも即応で名前を呼んだ。その野太い声が、フィンの耳を弄った。その瞬間、フィンが右手を掲げた。


「約束――覚えているな?」


 約束。互いに最強戦の選手となった日、二人は「他の騎士団員には内緒だよ」と言って、密約を交わしている。


 当時の記憶を想起しながら、フィンは掲げた右手を握って拳を作った。その様子は、ゴルの視界にシッカリ入っていた。


「無論」


 ゴルは右拳を掲げて前に出した。その拳先に、フィンの拳先が当たった。その瞬間、二人揃って声を上げた。


「「決勝で戦おう」」


 決勝は二人で。それが、フィンとゴルが交わした約束だ。互いに今日の試合に勝利すれば、それの約束は叶う。

 勝利の瞬間の光景が、二人の脳内に閃いた。

 フィンの方は明確に。ゴルの方は(おぼろ)げに。それを具現化すると決意を固めながら、二人は揃って声を上げた。


「では」

「ああ」


 フィンとゴルは踵を返して、それぞれの愛機の許に向かった。その一方で、耀平の方はというと――こちらも友情に胸を熱くさせていた。


 耀平の前に、身長五メートルの黒い鎧武者が立っている。その威容を見詰める耀平の脳内に、中世的な男性の声が響き渡った。


((燿平。調子はどうだ))


 NTM01ムラマサ。耀平の戦友だ。

 戦友からの問い掛けに、耀平は照れくさそうなハニカミの笑みを浮かべた。


「まあまあ――ってところかな? ムラマサは?」


 まあまあ。曖昧な物言いだ。それを告げた後、耀平は同じ問いをムラマサに返した。

 すると、ムラマサは即答した。


((俺も、まあまあだ))


 耀平と同じ回答である。それを聞いた耀平の口許にシニカルな笑みが浮かんだ。


 二人にとって、「まあまあ」は正直な気持ちではない。そもそも、二人の体調は万全。絶好調と言える状態なのだ。

 態々抑えた表現を使った理由は、一応有った。


 耀平の場合、中学生男子にありがちな照れ隠し。

 ムラマサの場合、耀平に合わせただけ。


 しょーもない理由である。しかし、しょーもないことを言い合うという状況が、二人にとっては心地良かった。


 耀平の顔に浮かんだハニカミの笑みが、心底嬉しそうなものに変わった。それに対してムラマサは、全くの無表情。そもそも、顔と呼べるものがない。

 しかし、ムラマサを見詰める耀平の目には笑っているように映っていた。


 ああ。このままムラマサといつまでも話していたい。


 耀平の脳内には、様々な話題が閃いていた。その中から、これが良いかなと選択して、それを告げようと口を開いた。しかし、直ぐに口を(つぐ)んだ。


 今は、試合に集中しよう。


 耀平は戦闘モードに入った。その直後、耀平の背後から声が上がった。


「「おはようございます、耀平先輩」」


 明るく元気な男女の声。それが耳に入った瞬間、耀平はクルリと踵を返した。

 耀平の視界に、作業着姿のモンゴロイド系の中学生の男女の姿が映った。その存在を見止めた瞬間、耀平の口が開いた。


「おはよう」


 静かな挨拶。それを聞いた二人の男女――春雨充(ハルサメ・アタル)夕立雫(ユウダチ・シズク)の顔に、満面の笑みが浮かんだ。その笑顔は、耀平の視界にシッカリ映り込んでいる。

 耀平は二人に向かって声を上げた。


「今日も宜しく」

「「はいっ」」


 充と雫は、それぞれ元気一杯に返事をした。それぞれの声には激励の想いが籠っていた。それが、耀平の胸を熱くした。全力で応えたいという気持ちが沸々と湧いてきた。


 今日も勝つ。


 耀平の脳内に、今日の為に練り込んだ作戦が閃いた。それを具現化する為には、愛機の協力は必要不可欠だ。

 耀平はムラマサに向き直った。続け様に頭を下げた。


「ムラマサ。今日も宜しく」

((任せろ))


 ムラマサは力強く即答した。その反応が、耀平の胸を一層熱くさせていた。

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