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有魂機人ツクモス The Comrades  作者: 霜月立冬


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第五十話 思惑

 西暦二千百三十年、十二月三日(日)

 最強戦の二回戦が終了した。初戦で波乱は有ったものの、それ以外は予想通りの結果だった。

 勝ち上がった者は、以下の四名。


 M1クラス、名取燿平(ナトリ・ヨウヘイ)。搭乗機、NTM01ムラマサ。

 H1クラス、フィン・マックール。搭乗機、NTMH05Cマック・ア・ルイン。

 H1クラス、ゴル・マックモーナ。搭乗機、NTMH05フラガラック。

 L1クラス、劉雨淋(リュウ・ユーリン)。搭乗機、NTMNX01乾坤圏。


 この内の誰が優勝するのか? それを予想する者は、存外に多い。しかしながら、この結果を予想できたものは、存外に少ない。巷間は、波乱の主因で持ち切りだ。


「あのムラマサが、第三世代型相手に連勝した」


 ムラマサの下克上(げこくじょう)。その事実は、世界中の人々を驚愕させた。しかしながら、多くの人々に希望も与えていた。


「もしかして、俺達でも最強戦に優勝できるのでは?」


 ムラマサは、最初期の軍用ツクモスである。その為、憑依率は一般人レベルの五十パーセント。それは全人類に敵う条件なのだ。


 耀平達の活躍は、自分の可能性を信じる人々に支持された。その声は存外に大きかった。

 しかしながら、光有るところ影が有る。真逆の声も上がっていた。


「何で第一世代型が勝つんだよ? 有り得ん」


 予想屋や評論家など、最強戦の予想で一儲けしようと企んでいた者達にとって、予想外の結果は面白くない。


「やらせじゃないのか? ほら、『名取』と言えば――」

「ああ。ツクモス開発者の家系か」


 彼らは耀平の出自を鑑みて忖度(そんたく)の可能性を主張した。それを裏付けるべく、試合の内容を何度も見返して、必死に粗を探した。例え何も無かったとしても、捏造(ねつぞう)する気満々だった。

 しかしながら、彼らの苦労や努力は、実際の試合内容が強力に否定した。


 耀平の対戦相手、ディルムッド、ブラン共に第三世代型の実力を如何なく発揮している。それこそ、地球軍の精鋭達に迫るほど。

 実際、二人は後一歩のところまでムラマサを追い詰めた。トドメもキッチリ刺しに行っている。その攻撃は、例えムラマサが第三世代型であったとしても、絶対に躱せないものだ。その事実は顕著(けんちょ)であった。


 しかし、ムラマサは悉く躱した。その動きは、ツクモス開発者を含めた人間の想像を超えていた。


「想像できない動きを、どうやって『やらせ』るってんだ?」


 想像を超えた回避(或いは防御)をした上で反撃して、逆にトドメを刺している。その事実は評論家に止まらず、専門家や軍事関係者達を唸らせ、困惑させた。


「あの動きは何なのだ? 第三世代型すら超越しているのではないか?」


 そもそも、第三世代型を超える機体は、現時点に於いては一つしかない。


 NTMNX01乾坤圏。完全(パーフェクト)脳波操作(ヴェイクス)の第四世代型。


 耀平の機体が乾坤圏であったなら、評論家達も「流石次世代機」と頷いていただろう。 しかし、現実は違う。


 耀平の機体はNTM01ムラマサ。最旧式の第一世代型。


 再旧式(第一世代型)が最新鋭機(第三世代型)に勝った。だからこそ、皆首を捻っている。頷く者は誰もいない。

 軍用ツクモスを統括している立場の人間達も、盛大に首を傾げていた。


 某大国の中心都市に、とびぬけて高い高層ビルが有った。その建物の名は「地球軍本部」。その最上階に、地球軍の最高級幹部達が集結していた。


 本部最上階、「地球軍幹部専用作戦会議室」。劇場と錯覚するほどの大広間に、凡そ五十名ほどの人間が入っている。全員、広間中心に据えられた巨大な円卓の席に着いていた。その中の幾人かが、人目も(はばか)らずに文句を垂れていた。


「今年の最強戦は――面白くないな」

「ですな」


 文句を言う者もいれば、黙っている者もいる。しかし、全員の表情はどれも同じ。渋柿を食ったような渋面を浮かべていた。その表情の原因が、コーカソイド系の女性幹部の口から飛び出しだ。


「何故、憑依率五十パーセントの最旧式が、憑依率七十パーセントの最新鋭機に勝つのか?」


 地球軍上層部は脳波操縦(ヴェイクス)至上主義である。その思想が、耀平達の活躍によって根底から覆されてしまった。面白いはずがない。とあるネグロイド系の男性幹部の口から、彼らにとっての最悪の可能性が飛び出した。


「もし、ムサマサが最新鋭機(乾坤圏)に勝ってしまったら――」


 第四世代型に至るまで、それなりの時間と資金と労力を費やしている。それらが全て無駄になる。軍上層部の責任を追及する声が上がることは、予想に易い。その可能性を考えると、是が非でも回避したい事態である。その想いが、とあるモンゴロイド系の男性幹部の口から飛び出した。


「名取耀平――どうにかならんか?」


 直接干渉。その為の力が、彼らには有った。しかし、他の幹部達は、全員首を横に振った。


「流石に、フィアナ財団に喧嘩を売る訳にはいかないだろう」


 最強戦の主催者は、フィアナ財団CEOフィネガス・マックール。実質的な地球国の支配者である。その支配者が管理運営するイベントに横槍を入れる覚悟は、地球軍を含めて、地球国の為政者達の中には一人もいない。

 そもそも、彼らは財団のシンパなのだ。ご主人様に噛み付いた飼い犬の末路など、想像したくもない。


「このまま見守る他無いだろう」

「人間として生きていきたいならば――な」


 軍上層部の面々の顔に、悲しげな苦笑が浮かんだ。

 地位も財産も、それを保証するものが有ったればこそ。そもそも、為政者達は保証する側の人間なのだ。自分達の思惑で、保証を反故する訳にはいかない。それは自殺行為以外の何物でもない。


「見守るしか無いのだ」


 幾人かの高官達の口から「はぁ」と溜息が漏れた。しかしながら、中には笑みを湛える者もいた。その表情の理由が、当人の口から飛び出した。


「まあ、名取耀平の活躍も準決勝まで――でしょうな」

「ですな。対戦相手は、あの御曹司(おんぞうし)なのだから」


 御曹司。その名前を「フィン・マックール」という。

 フィネガス・マックールの長子にして、最強戦連続()優勝者。劉雨淋さえいなければ、最強戦連覇を果たしていたであろう天才児だ。


「流石に、彼に勝てる者は劉雨淋以外いないでしょう」

「然り、然り」


 豪奢な広間に「カンラカンラ」と擬音が見えるほどの笑い声が響き渡った。

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