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有魂機人ツクモス The Comrades  作者: 霜月立冬


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第四十六話 灯台下暗し

 西暦二千百三十年十一月二十八日(火)。

 ツクモス学園中等部最強決定戦。その第一回戦が終了した。

 勝ち上がった選手達、或いは敗北した選手達、それぞれ朝から「ツクモス格納庫」という鋼鉄の地下世界に降臨している。


 選手達(及び各々の整備班員)は、試合で傷付いたツクモスを治したり、その仕上がりを確認したり、中にはツクモスを外に引き出して、観客も疎らなツクモス操縦訓練場で走り回ったり――と、様々な活動をしている。

 皆が忙しなく動き回っている中、ブルーシートに座って微動だにしていない三人の中学生がいた。


 名取耀平(ナトリ・ヨウヘイ)春雨充(ハルサメ・アタル)夕立雫(ユウダチ・シズク)


 三人とも、ムラマサそっちのけで他所事(よそごと)にかまけている。しかしながら、最初からムラマサ無視を決め込んでいた訳ではなかった。そもそも、今日の活動はムラマサ中心で行われる予定だった。


「明日は、治したところの調子を確認したい」


 耀平は、昨日の内に今日の予定を宣言した。充も、雫も、そのつもりでいた。その作業も始めていた。

 ところが、作業中に充がポロリと余計なことを言ってしまった。


「昨日のアレって――何だったんだ?」


 充としては独り言のつもりだった。誰かに聞いて欲しい訳でもない。しかし、充の言葉は他の二人の耳に入っていた。


 充の「昨日のアレ」という言葉が、二人の脳内で明確な映像として閃いていた。その瞬間、耀平が動いた。


 耀平はどこからともなくタブレットを取り出して、そこに保存していた動画を再生した。その行為は、他の二人の視界に思い切り映っていた。

 充も、雫も、耀平に追従するようにタブレットを取り出して、動画を再生した。それぞれの画面には、全く同じ動画が表示されていた。


 最強戦第一回戦、第八試合。それを表示しながら、三人はブルーシートを広げて、その上にドカリと腰を下ろした。

 以降、動画を見ながら固まっている。


 耀平達は、それぞれ口を「へ」の字に曲げた気難しげな表情を浮かべながら、手元のタブレットを見詰め続けている。それぞれの画面には「空飛ぶ乾坤圏(ケンコンケン)」の姿が表示されていた。その最中、充の口から声が漏れた。


「どういう原理で飛んでいるんでしょうね?」


 誰に言うとも無い独り言。しかし、他の二人は即答した。


「分からん」

「分からない」


 耀平も、雫も、返事をしながら一様に首を傾げた。その回答を聞いて、充も「ですよね」と頷いた。続け様に、他の二人に追従するように首を傾げた。


 そもそも、耀平達の脳内に第四世代型の情報は殆ど無い。学園から公表されている内容と、先の試合で視認できたものだけ。

 例え三人で集まって文殊菩薩様の知恵を借りたとしても、「光の幕の正体」を類推することは難しい。それを可能にする方法は一つしかなかった。


 誰か知っている人に聞くしかないよな。


 耀平の脳内に父、名取耀児(ナトリ・ヨウジ)の顔が閃いた。「それしかないよな」と思った。

 しかし、それ以外の方法が有った。


「よ~へくん」

「「「!?」」」


 唐突に名前を呼ばれ、耀平は息を飲んだ。他の二人も同時に息を飲んだ。三人とも、それぞれ眼を開きながら声がした方を向いた。すると、それぞれの視界に、作業着姿の少女の姿が飛び込んできた。


 とても背が低い少女だった。モンゴロイド系で、卵型の小さな顔をしている。長い黒髪を両側でまとめて、それぞれに白いシニョンを被せている。その小さな右肩に、体に見合わぬ大きな白いトートバッグを担いでいた。

 少女の外観は、とても幼く見えた。耀平以外の二人は小学生と錯覚し掛けた。

 しかし、少女がまとった衣装と、その豊満な胸部が「絶対に小学生ではない」と確信させた。それどころか、少女は充や雫よりも年上だった。

 その事実が、耀平の名前から飛び出した。


「ユーリンっ!?」


 劉雨淋(リュウ・ユーリン)。ツクモス学園中等部三年生L1クラスに所属する学園創始以来の天才児。耀平にとっては幼馴染にして、最大最強の敵。

 目の前に立つ小柄な少女は、今大会優勝候補筆頭、NTMNX01乾坤圏の操縦者。その下馬評通り、昨日の試合に勝利している。

 雨淋がこの場(ツクモス格納庫)にいることに、何の不思議も無い。その事実は、耀平も良く分かっている。それでも、


「何で? ここに?」


 尋ねずにはいられない。すると、雨淋の顔に苦笑が浮かんだ。その表情通りの言葉が、雨淋の口を衝いて出た。


「私も最強戦の選手だから」


 耀平は「ですよね」と頷いた。しかし、直ぐに首を横に振った。


「いや、そうじゃなくて――」


 耀平としては、自分達の傍にいる意味を尋ねたかった。それが、目下最大の疑問だった。

 しかし、このときの耀平の脳内には乾坤圏飛行の謎を始めとした様々な疑問が渦巻いていた。それらが耀平の思考を全力で妨げた。


「じゃなくて、じゃなく――えっと」


 耀平は言葉に詰まった挙句、餌を求める鯉のように口をパクパクさせた。その間抜けな表情は、雨淋の視界にバッチリ映っている。


「あはははっ」


 雨淋は笑った。一頻(ひとしき)り笑った後、現況に至った経緯を話し出した。


「私は、乾坤圏の様子を見に来たの。だけど――」


 乾坤圏。その言葉が出た瞬間、耀平、充、雫の視線がキョロキョロと泳ぎ始めた。それぞれ乾坤圏の姿を探していた。

 しかし、その間も雨淋の話は続いている。


「皆から『やること無い』って言われて暇になっちゃって。それで、よ~へくん達を見掛けて、それで――って」


 雨淋は、一旦口を噤んだ。暫く耀平達の様子を窺った後、右手を掲げて格納庫南端東側を指差した。


「あの子は――あっちだよ」


 あっち。耀平達は雨淋が指示した方を見た。

 すると、そこに物々しい機材群に囲まれた痩身中華戦士の姿が有った。その事実を直感した瞬間、耀平達三人の顔に鳩が豆鉄砲を食ったような間抜け面が浮かんだ。


 え? 殆ど隣じゃないか。


 乾坤圏もまた、ムラマサと同じく南端壁際にいた。正確には格納庫出入り口の東側である。

 耀平達の位置から視線を向けるだけで、乾坤圏の灰褐色の巨躯がバッチリ視界に入った。その事実は、耀平達三人の顔を渋面にした。

 その「へ」の字に歪んだ口が、耀平、充、雫の順で開いた。


「意外に――近かったんだな」

「まさか、最新鋭機がこんな僻地――んんっ、隅っこ――んんっ、端の方にいるとは思わないです」

「あそこら辺、何か騒がしいなとは思ってましたけども」


 乾坤圏の周りには、白衣をまとった大人達が忙しなく動き回っている。その中に、耀平が良く知る顔が混じっていた。


 父さんがいる。


 耀平の父、名取耀児。その痩身が目に入った瞬間、耀平の腰が浮いた。しかし、直ぐに腰を下ろした。


 邪魔しちゃ悪いか。


 耀平は父親に気を利かせた。いや、正直なところは「何と声を掛けて良いのか」と躊躇っている。父と言えども疎遠な大人。話し掛け辛い。だからと言って、話題が全く無いという訳でもない。


 聞きたいことは山ほど有るんだよ。


 耀平はチラチラと、何度も耀児の方を見ていた。

 耀平としては、コッソリ盗み見ているつもりだった。しかし、耀平の至近にいる雨淋が気付かない訳がない。


 よ~へくん、よ~じ先生のことが気になるのかな? それとも、乾坤圏?


 雨淋の顔に寂しげな愁眉が浮かんだ。しかし、それは直ぐに苦笑に変わった。その歪に歪んだ口が僅かに開いて、朗らかな声が飛び出した。


「乾坤圏のこと。話せる範囲で教えてあげるよ?」

「「「えっ!?」」」


 雨淋の発言に、耀平は声を上げた。その際、充と雫の声も重なっていた。三人とも、それぞれの目を大きく開いていた。その倍増しになった視界の中に、雨淋の顔が映っていた。

 視界の中で苦笑している少女。彼女は、右肩に下げたトートバッグを外した。続け様にバッグを前面に掲げた。


一寸(ちょっと)早いけど、お昼を食べながら――ね」


 トートバッグの中には、雨淋の手料理が詰まっていた。その事実を直感した瞬間、耀平の腹が「ぐぅ」と鳴った。

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