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有魂機人ツクモス The Comrades  作者: 霜月立冬


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第四十二話 ムラマサの声

 西暦二千百三十年十一月二十五日(土)。

 現在時刻は午前七時。既に太陽は昇っている。今日も快晴だ。陽光はあまねく世界に広がって、煌々と照らしている。無限にして悠久の恩寵。しかし、それも地下までは届かない。

 ツクモス学園塔最深部、ツクモス格納階層(格納庫)。広大な鋼鉄製の地下空間(ジオフロント)に、幾人かの中学生の姿が有った。


 最強戦を戦った、或いはこれから戦う選手達。彼らの周りには整備班というお共も付いている。


 殆どの生徒は、地下世界の北側から中央部付近に集中していた。そこには第三世代型軍用ツクモスが並んでいる。

 最強を決める大会に参加する以上、最強の機体を選ぶことは定石と言っても過言ではないだろう。尤も、「その選択肢を有するならば」という条件付きなのだが。

 この場には、定石を外した最弱を愛機とする者がいる。


 ツクモス学園中等部三年M1クラス、出席番号八番――名取耀平(ナトリ・ヨウヘイ)


 耀平は今、ツクモス格納庫の南端西寄りにいた。耀平の傍には専属整備班の二人、春雨充(ハルサメ・アタル)夕立雫(ユウダチ・シズク)もいる。

 三人とも学園指定の作業着姿だ。三人で、昨日の戦いで傷付いた愛機ムラマサの補修を行う予定だ。それぞれの足下には、身長五メートルの鎧武者が仰向けで横たわっていた。


 耀平の愛機、NTM01ムラマサ。


 耀平達は、ムラマサの体をジッと見詰めている。その最中、春雨充が声を上げた。


「派手に――やっちゃいましたね」


 ムラマサは傷付いていた。特に深刻なのが右腕部。肩口から切り落とされている。千切れた腕は、回収してムラマサの右肩付近に置いてある。これが人間であったなら絶望的な状況だ。

 しかし、ツクモスなら補修は可能。ここには十全な設備も部品も有る。その事実は、耀平達も理解している。それぞれ従来通りの性能を蘇らせる自信も持っている。それなのに――


「「…………」」


 耀平達は、ムラマサを見詰めながら固まっていた。それぞれお通夜に出席しているような、沈痛な面持ちをしている。その重苦しい空気の中に、夕立雫の声が零れ出た。


「こんなに壊れたツクモス。映像では見たこと有るけど――」


 雫にとって、現況は想像の範囲内の出来事ではあった。耀平の整備班に立候補すると決めたときから覚悟していた。そのはずだった。

 それでも、実際に目の当たりにすると血の気がく。それは、雫だけでなく、充も同様だった。


 昨日、充達は耀平の勝利を祝うつもりだった。その為の準備もしていた。

 ところが、格納庫に入ってきたムラマサを見た瞬間、二人とも顔を真っ青にして絶句した。その様子は、ムラマサの全周囲モニターにシッカリ映り込んでいた。


 俺が、もっとムラマサを上手に使っていたなら。


 結局、昨日はムラマサの修理をしなかった。いや、できなかったというべきか。

 耀平は「明日、朝から」と告げて、二人は了承した。その約束を果たすべく、三人は集まった。しかし、


「「「…………」」」


 未だ修理は始まらない。三人は無言でムラマサを見詰め続けている。

 それぞれ嘆いている場合でないということは、頭では理解していた。それでも動けない。誰かが口火を切るまでこのままだろう。その役目を担うに相応しい者は、この場に於いては年長者の耀平だ。それは耀平自身よく分かっていた。


「あの――」


 耀平は声を上げた。続け様に「修理を始めよう」と言うつもりだった。

 ところが、耀平の言葉の途中で()()()が上がった。


((いい加減、早く治してくれ))

「!」


 耀平は息を飲んだ。「その声」が聞こえたからだ。反射的に充を見た。

すると、充も耀平を見ていた。

 充の顔には、キョトンと鳩が豆鉄砲を食ったような表情が浮かんでいた。それを見て、耀平は「こいつの声じゃない」と直感した。

 耀平は続け様に雫を見た。雫も耀平を見ていた。

 雫の顔には、充と同じく鳩が豆鉄砲な表情が浮かんでいた。それを見て、耀平は首を傾げた。そこに、再び声が上がった。


((早く))

「!」


 耀平は、再び息を飲んだ。続け様に辺りを見回した。しかし、耀平達三人以外、誰の姿も無い。その事実を直感した瞬間、耀平の視線が鉄の床に吸い寄せられた。

 そこには隻腕の鎧武者が横たわっていた。その痛ましい姿が目に入った瞬間、耀平の口が開いた。


「さっきの声って――」


 さっきの声。その言葉は充と雫の耳にも入った。すると、二人は――


「「?」」


 揃って首を傾げた。二人は鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべたまま、不思議そうに耀平を見ている。


 耀平先輩は何を言っているのだろう?


 耀平が聞いた「声」は二人の耳に届いていなかった。その事実を知らないまま、耀平は床に横たわる愛機に声を掛けた。


「『お前』か?」


 お前。その言葉もまた、充と雫の耳に入っていた。それぞれ「自分のこと?」と、右手の人差し指で自分の顔を指した。その行為は、耀平の視界の端に映っていた。

 耀平は顔を上げて、充達に向かって声を上げた。


「いや、(きみ)らじゃなく――」


 耀平の視線は、再びムラマサに吸い寄せられた。その黒い威容を見詰めながら、先程聞こえた声の正体に付いて考えていた。すると、耀平の脳内に「声」に関する記憶が幾つも閃いた。


 そう言えば、ピンチになる度に「あの声」を聞いていた――ような?


 耀平の脳内で様々な可能性が閃いた。その中に、今は亡き耀蔵(ヨウゾウ)の言葉が含まれていた。それが、耀平の口を衝いて出た。


「もしかして、耀蔵爺ちゃんの言ってた『ツクモスの声』って――」


 耀平の記憶の中にある幻聴。それが、現実の声と認識し掛けている。それを確かめたい衝動に駆られた。そのタイミングで声が上がった。


「ヨーヘーサン」


 奇妙な発音だ。しかし、耀平も、充も、雫も、耀平の名前を呼んでいるということは直感していた。

 そう、その声は三人の耳にシッカリ入っている。三人は、揃って声が聞こえた辺りを見た。


 耀平達の位置から少し離れたところに男子中学生が立っていた。その男子は濃紺の制服を身に着けていた。その胸元に付いた校章には一年生を示すマークが入っていた。

 ツクモス学園中等部一年生。耀平達三人の知り合いの中には一人もいない。その男子生徒とも全くの初対面だ。

 しかし、三人とも相手の顔と名前を知っていた。三人の目が、信じられないと言わんばかりに大きく開いた。その表情の理由が、耀平の口から飛び出した。


「君は――『ディルムッド・オディナ』?」


 耀平の問い掛けに、その一年生男子は微笑みながら頷いた。

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