第四十話 歓声
十メートル四方の大洞。そこにムラマサが飛び込んだ瞬間、洞の内壁が発光した。その効果によって、洞の内部の様子がハッキリ視認できた。
ムラマサのコックピット、その内部を覆う全周囲モニターに真っ直ぐ伸びるトンネルが映し出されている。その光景は、耀平に学園塔の通路を彷彿させせた。しかし、直ぐに違和感を覚えた。
光のトンネルは上向きの坂になっていた。
床の上には八本のレールが設置されている。それぞれ二本で一セットずつ。
レールには、スキー板のビンディング(ブーツ固定金具)のようなものが付いているものが有る。しかし、付いていないものも有る。
ビンディングが付いているレールは(正面から見て)右側四本のみ。左側はレールだけになっていた。
耀平はムラマサを操作して、右側のレールに近付いた。続け様に、レール上に設置されたビンディングにムラマサの足を嵌めて、シッカリ固定した。
ムラマサの両足は拘束された。その状態で、両膝を曲げて屈み込んだ。
まるでスキーのジャンプ台の発射体制――いや、和式トイレで用を足しているというべきか。
その無様な格好を晒した瞬間、コックピット内の正面モニターに「10」の数字が表示された。
〈10、9、8、7――〉
表示された数は秒毎で減っていった。それが「0」になった瞬間、ムラマサの体が超高速で前進した。
ムラマサが乗ったレールの正体は、ツクモス用の電磁カタパルトだ。
ビンディングが付いている方が「行ってきます」側。付いていない方は「ただいま」側になっている。
耀平を乗せたムラマサはレールガンの弾丸と化して光の通路を駆け上がっていく。その果てに、天然自然の光が溢れ出した。その中に入った瞬間、ムラマサの足を固定していたビンディングが外れた。
ムラマサは外に飛び出していた。その直後、耀平の視界に既知の光景が飛び込んだ。
トラックが描かれた地面と、それを囲む観客席。
昨日の開会式で使用していた場所――「ツクモス操縦訓練場」だ。その光景が全周囲モニターに表示された瞬間、ムラマサ頭部集音マイクに轟音が飛び込んだ。
轟音は、歓声だった。
訓練場の観客席が、満員御礼鮨詰め状態になっている。その上部に設置された巨大モニターは「観客が見たいもの」を映し出していた。
巨大画面に表示された黒い鎧武者。紛れも無くムラマサである。
画面のムラマサの姿は、ムラマサ本人の視覚センサーに捉えられていた。当然、耀平の視界にも映っている。
何だか英雄になった気がする。
耀平の鼻が少し伸びた。口許も緩んだ。暫くの間、グラウンド内をウロウロ歩き回って、観客にムラマサの威容を見せ付けていた。
しかし、耀平が優越感に浸れた時間は、それほど長くは無かった。
ムラマサが胸を張りながら歩き回っていると、訓練場にサイレンが鳴り響いた。その直後、ツクモス格納庫直通カタパルトの射出口から「白銀の騎士」が飛び出した。
その瞬間、一層大きな歓声が上がった。それと同時に、巨大モニターの映像が切り替わった。そこには先程飛び出した白銀の騎士が映っていた。
NTM03クラウソラス。
陽光の下、白銀の鎧が光り輝いてる。目立つことこの上ない。どこかの真っ黒な鎧武者と比べるべくも無いだろう。
その悲しい事実は、ムラマサに乗る耀平が一番よく分かっていた。
うぅ……急に恥ずかしくなってきたぞ。
クラウソラスが衆目を集める中、ムラマサは人目を忍ぶように抜き足差し足で練習場から抜け出した。
練習場から出たムラマサの前に、道幅二メートルの道路が現れた。それを道なりに進んでいくと、四車線の車道と合流した。
ムラマサは車道に飛び出して、そのまま走り出した。その最中、正面モニターにA3サイズの画面が現れた。
画面には現在地と思しき地図が映っている。そこに表示された道の真ん中に青い光点が灯っていた。その隣に〈NTM01 MURAMASA〉と表示されている。
Å3の画面は「ナビゲーション用サブモニター」だ。それを頼りに、ムラマサは道なりに北上した。
暫くすると、画面の端に〈4th Exercise Field〉という表示が現れた。そこに向かって走っていると、正面モニターにうっそうと生い茂る樹木群が映った。その中に向かってムラマサが飛び込んだ。
森林内では、車道は一車線に変わっていた。ムラマサは車道の左側を走った。
暫く走っていくと、正面モニターに灰褐色の巨大な壁が映り込んだ。その威容は、当然耀平の視界にも映っていた。
「ここかな?」
「ああ。ここじゃ」
耀平の呟きに、耀蔵(AI)が同意した。地図内でも、ムラマサを示す青い光点が第四演習場と重なっている。
「ここが――俺の初陣の戦場か」
戦場。その言葉を告げた瞬間、耀平の体が「ぶるっ」と大きく震えた。




