第三十八話 開会式
西暦二千百三十年、十一月二十三日(木)。
時刻は午前十時となった。その瞬間、世界中の人々の視線が、日本の太平洋側に面したとある県のとある場所に吸い込まれた。
それぞれが見詰める映像に、突き抜けるような青空が表示されている。その下に広がる整地された地面が広がっていた。
特殊な地面だ。陸上トラックが描かれている。その上、周囲はコンクリート製の観客席で囲まれていた。
一見、陸上競技場と思える。しかし、グランドに立つ選手達は、とても陸上をするような格好をしていなかった。
選手達は、全員「金属鎧」をまとっていた。宛ら中世の騎士といったところ。しかし、違和感を覚えるのは格好だけではない。
騎士達の身長は五メートルほども有った。明らかに人間ではない。
騎士達は、全員軍用ツクモスである。
現況は、ツクモスの為のグランド「ツクモス操縦訓練場」だ。
居並ぶツクモスの数は十六。彼らは四列横帯に並んでいる。
前二列を占めているのは、力士体形の金ピカ重装騎士。その機体種別の分類は重量級。
その後ろ一列は、ポッコリお腹の白銀騎士。その体形は標準的なツクモスのそれ。しかしながら、分類上は軽量級である。
前者、八名の重装騎士は「NTMH05フラガラック」。地球軍ツクモス部隊の主力を務める、現時点に於ける最高傑作機。
後者、四名の痩身騎士の名前は「NTML03クラウソラス」。こちらも軽量級の最高傑作機と呼ばれている。
実際、一昨年と昨年の優勝機。火力より運動性能に拘る者は、その殆どがこちらを採用する。
三列目まで、機体種別は同じものばかり。それぞれ現況に於ける最強の機体を選択している。その判断ができるからこそ、最強戦の出場資格を得ることができたのだろう。
しかし、何にでも例外は有る。残る最後の列が、正にそれ。
最後列の機体種別は――様々。
正面右側から――軽量級、重量級、超軽量級、中量級となっている。
一人目、純白の騎士「NTML01デュランダル」。
型式番号が示す通り、最初の第三世代型だ。これを起点に重量級が派生して、現在の「重、中、軽」の分類が確立された。
第三世代型であるが故に、搭乗者に要求される憑依率は七十パーセント。これは他の第三世代型と全く同じ。
上位互換であるクラウソラスが存在する以上、態々デュランダルを選択する理由は無いだろう。
しかし、現実として、デュランダルはこの場にいる。その事実に違和感を覚える者は、存外に多い。「何故?」と問われれば、返答は一つしかない。
「中の人が、優秀で偏屈だから」
何れにせよ、最強ばかりが並ぶ状況で、異質な存在であることだけは確かだろう。尤も、異質なのはデュランダルだけではない。
二人目、白金の重装騎士「NTMH05Cマック・ア・ルイン」。
外観は殆どフラガラック。しかし、両腕だけが異様に太い。その構造の意味は、誰の目にも明らかだ。
「最強戦に勝つ。その為に造られたツクモス」
搭乗者、フィン・マックールの執念が具現化した機体である。そこまでフィンを追い詰めた理由が、その隣(右手側)に立っていた。
三人目、灰褐色の中華戦士「NTMNX01乾坤圏」。
古代中国の鎧をまとったツクモス。これは他に類を見ないものだ。しかし、より異質な要素が、その機体には有った。
「体形が細い。細過ぎる」
乾坤圏は、見る者に骨格標本と錯覚させた。それでいて、お腹だけポッコリ出ている。宛ら地獄の餓鬼である。
尤も、外観の異質さは、この機体に於いては些事、オマケである。
「史上初の第四世代型軍用ツクモス」
憑依率百パーセントの戦闘能力は如何なるものか? それを知る者は、現時点に於いては開発関係者以外にいない。
未知のツクモス。その性能に興味を覚える者は、それなりに多い。
この機体が、現況に於ける最先端。その事実は異質中の異質。しかし、それすら霞む異質さが、隣の機体に有った。
四人目、黒い鎧武者「NTM01ムラマサ」。
ツクモスの生みの親、名取耀蔵が造った最初の軍用ツクモス。骨とう品というべき機体が、最強戦の開会式の場に立っている。事前に知っていても、実査に目の当たりにすると――
「冗談じゃなかった?」「本当――なんだ」「嘘だと思ってた」
誰もが目を疑った。それと同時に、誰もが同じことを想っていた。
「勝てる訳が無い」
あらゆる地域の下馬評、その全てに於いて、ムラマサ(名取燿平)の評価はブッチギリの最下位。
果たして、この評価通りになるのか? それとも奇跡が起こるのか?
衆目が集まる中、最強戦開催委員長にして学園理事長、フィアナ財団総帥「フィネガス・マックール」の野太い声が響き渡った。
「これより、ツクモス学園中等部最強決定戦を開催する」




