第三十六話 ツクモス格納庫
西暦二千百五十九年、十一月十五日(水)。
ツクモス学園に於いて、最強戦の準備期間の初日である。授業は午前中まで。午後からは放課だ。
殆どの生徒達にとって、普段より少々長めの自由時間である。ノンビリ過ごす者、自習に励む者、それぞれが、思うままに過ごしている。その中に、最強戦の関係者も含めても良いだろう。
出場選手、及び整備班の生徒達も、自分がやりたいことを全力で実行している。しかも、他の生徒には無い破格の特典付きで。
破格の特典とは、「軍用ツクモスの使用許可」である。
今日から最強戦の終了(敗北を含む)まで、実機を乗り回す、或いは弄り回すことができる。その特典を利用しない生徒は、ツクモス学園性の中にはいないだろう。過去に於いても一人もいなかった。
耀平も、特典を存分に活用するつもりでいた。雨淋との昼食を終えるや否や、直ぐ様「ツクモス格納階層」へと移動した。
ツクモス格納階層。
学園が所有する全ての軍用ツクモスを収めた格納庫だ。軍事機密の宝庫と言える。その為、物理的にも容易に近付けない場所に位置していた。
学園塔の地下三百メートル。所謂「最下層」。
格納庫までの移動手段は、表向きは中央エレベーター以外無いとされている。少なくとも、耀平達生徒は、そのように信じ込んでいる。尤も、エレベーターに乗れば良いという訳でもない。
目的地に「ツクモス格納階層」と告げたならば、エレベーター内で様々な検査を受ける羽目になる。その全てに合格して、初めてエレベーターが動き出す。
耀平は、全ての検査に合格した。エレベーターは降下した。生徒寮区画を抜けて、更に下へ。そこから先も、結構な時間降下し続けた。その間、耀平はジッと目の前の白壁を見詰めていた。
未だかな?
エレベーターの中に現在地を類推できる材料は何も無かった。そのように設定されている。
時間が経つほど、耀平の眉間に穿たれた皺が存在感を増していく。それに伴って、両足の裏に掛かる重量が増した。
耀平は、思い切り床を踏みしめていた。そうすることで「早く目的地に着く」と考えていた。
全くの徒労だ。しかし、その思いは天に通じた。
耀平が我慢の限界を迎える前に、正面の壁に四角い穴が開いた。
着いたっ!
耀平は、直ぐ様エレベーターから飛び出した。その瞬間、耀平の視界に広大な空間が飛び込んできた。
広い。余りに広い。それこそ屋外と錯覚するほどの地下空間である。それを目の当たりにした瞬間、耀平の口から声が漏れた。
「おおっ」
耀平は口をアングリ開けながら、キョロキョロ辺りを見回した。その際、背後の光景も確認している。
耀平が出てきたエレベーターの背後は鉄壁が立ちはだかっていた。
現況は、階層の端っこだ。地下空間は、耀平の正面方向に広がっている。その規模は「空間」というより「世界」という方が相応しい。しかし、当然ながら天然自然のものではない。
耀平の足元に広がる地面、及び頭上に広がる空は光沢を帯びていた。
現況は、金属製の異世界であった。陸と空だけでなく――住民までも。
金属の地面に並ぶ、身長五メートルの鉄巨人の大群。それらは全て、軍用ツクモスである。
学園が保有するツクモスの数は千を超えている。それら全てが、この場に押し込められていた。その様子は、宛ら「鉄の人海」。しかし、波にバラつきは殆ど無い。
ツクモス達は、それぞれ各シリーズ毎に並んでいる。一様である。それぞれの個性は細波にも満たないほど微々たるものだ。しかし、クラスが変われば大きく変容する。第三世代型と、それ以前が顕著であった。
エレベーター側に近いツクモスは、それぞれ西洋騎士のプレートアーマーをまとっている。対して、その奥のツクモスは和風の大鎧である。
耀平が駆るムラマサは、更に奥――最奥だ。
耀平の視線が最奥に固定された。その直後、耀平の足が前に出た。
耀平の正面には、この階層のメインストリートが伸びている。その道沿いに巨大騎士が整然と並んでいる。
遠目に見た際、騎士達は密集しているように錯覚した。しかし、近くで見ると、意外に間隔が空いていた。それぞれ二メートルほど。その隙間を通ることは容易である。しかし、そのよううな行為、耀平には無駄にして無意味。
耀平は、脇目も振らず、真っ直ぐ最奥へ向かって歩いた。最短コースである。
しかし、ツクモス格納庫は余りに広い。中々最奥にはたどり着けない。
耀平は、「時間が惜しい」と、途中から走った。走って、走って、走って――結構な距離を走った。その果てに、漸く黒い鎧武者の姿が視界に入った。
NTM01ムラマサ。最初にして最古の軍用ツクモス。
耀平の愛機は階層最南端、「世界の果て」と言いたくなるほどの端っこに立っていた。それも、たった一人で。
一応、格納庫には他のムラマサもいる。しかし、それらは全て解体予定区画に押し込められていた。
実のところ、耀平の機体も解体予定だった。しかし、耀平がツクモス学園生になったことで、再び活躍の機会を得たのだ。
ムラマサは、耀平にとっては希望と言えるツクモスである。しかし、実はムラマサにとっても、耀平は希望と言える存在であった。
互いに必要とし合う二人。彼らは世界の果てで再会した。その逢瀬を邪魔する者は、この場にはいない。いるはずもない。そのはずだった。
ところが、耀平の視界にはムラマサ以外の異物が二つほど映っていた。
「あれ?」
ムラマサの巨躯の前に、作業着姿の男女の姿が有った。
二人とも、鯱張って、ムラマサの前で直立している。その強張った顔が、耀平の視界に映った。
その瞬間、耀平の脳内に「タブレットの画面に表示されたバストショット」と、それぞれの名前が閃いた。それと同時に、耀平は声を上げていた。
「もしかして――俺の整備班に立候補した人?」
「「はいっ、宜しくお願いしますっ」」
耀平の問い掛けに、二人の男女――春雨充と夕立雫は、大声で応えた。




