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有魂機人ツクモス The Comrades  作者: 霜月立冬


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第三十話 契約

 西暦二千二十七年、八月七日(土)。

 日本国、太平洋側に面したとある県の田舎町。緑生い茂る田園風景中に、幾つかの平屋の家屋が並んで立っていた。その内の一件の庭に、奇妙な「黒い棒」が生えた。


 金属製と思しき、直系一センチほどの細長い円筒。その第一発見者は、その家――名取家の長男、名取耀蔵(ナトリ・ヨウゾウ)だった。

 当時、耀蔵は五歳になったばかり。好奇心旺盛で、怖いもの知らず。未知の物体など、好機の対象でしかなかった。

 そんな耀蔵の視界の端に、庭の隅に生えた黒い棒が映り込んだ。


「これ、何?」


 耀蔵は即応で棒に近付いた。

 黒い棒の高さは、当時の耀蔵の膝くらいまでしかなかった。耀蔵は、「きっと、誰かが突き刺したものだ」と想像して、棒に向かって右手を伸ばした。


「えいっ」


 耀蔵は棒を握った。その瞬間、棒の先端部分がプクリと膨れ上がった。


「わっ!?」


 耀蔵は反射的に手を離した。しかし、棒の先端は膨らみ続けた。

 最終的に、野球ボールほどの黒球になった。謎の棒は、球の付いた棒に変化した。その事実を直感した瞬間、耀蔵の脳内に音が響き渡った。


((――――――――っ))


 声にならない声。雑音だ。耀蔵も、サッパリ意味が分からなかった。しかし、


「何これ? 面白い」


 耀蔵は謎の球付き棒を気に入った。これが、耀蔵と「名取エンジンの大元」との出会いである。以降、二人は親睦を深めていく。その際、耀蔵は必ずマンツーマンで対話した。そうせざるを得ない理由が有った。


 謎の球付き棒は、耀蔵以外の人間が近付くと、その視界に映る前に地下に引っ込んでしまうのだ。


 耀蔵が他人に棒のことを話したところで、誰もそれを見付けることができない。その為、耀蔵は「嘘吐き」という悪評を受ける羽目になった。

 耀蔵は、いつしか棒の存在を他者に話さなくなった。それでも、棒との付き合いは止めなかった。


 来る日も来る日も、耀蔵は球付き棒に向かって語り続けた。その度に、耀蔵の脳内に声にならない声が幾度も響き渡った。


 これ――俺の話に反応している。


 耀蔵は、未知の存在との交流に夢中になっていた。それは、どうやら棒も同様だったようだ。


 年月が進むにつれて、棒から発する雑音に人語と思しきものが紛れ出した。耀蔵が中学に上がった頃、終に意味の有る言葉が紡がれた。


((よーぞー。()()()()のこと、おしえて))


 この言葉が、耀蔵、黒い棒。そして、地球人類の運命を大きく変革した。

 この日以降、耀蔵と黒い棒との間に真面な会話が成立した。その中で、初めて棒の正体が語られた。


((我らは、遠い場所――耀蔵達の言葉でいえば、『異星人』だ))


 異星人。しかし、「人」と呼ぶには余りに特異な存在だった。


((我らは『金属生命体』なのだ))


 金属生命体。その名の通り、意思を持つ金属だ。その体の形状は、棒の先端に付いているような球体だ。


((耀蔵の目に映っているものは、言わば触手だ。我の本当の体は地中深くに埋まっている)))


 球付き棒の正体を知るほどに、耀蔵の胸は高鳴った。衝動に駆られるまま様々な質問を投げ掛けた。その中に、球付き棒の名称も含まれていた。ところが、


((我らには、人間のような名前は無い))


 金属生命体には個別の名称は無かった。それで困ることは、彼らには無かった。しかし、それでは耀蔵が困る。

 人間には個性が有る。コミュニケーションを取る為には、互いを認識する名前は必要だ。だからこそ、耀蔵は黒球に名前を付けた。


「じゃあ、付喪神(つくもがみ)様からとって――『ツクモス』ってのはどうだ?」


 ツクモス。その名前は「宇宙から来た金属生命体」に付けられたものだった。それが転じて、現在では「名取エンジンを搭載したロボット」を意味するようになっている。


 斯様に、耀蔵とツクモスは親睦を深め続けた。その過程で、ツクモスは人類との共存を夢見るようになった。その想いは、大学生になった耀蔵と、当時の耀蔵の恋人、フィアナ・マックールに伝えられた。


「俺と」

「私が」

「「全面的に協力する」」


 このときの耀蔵達の言葉こそ、人類とツクモスが交わした《《契約》》である。

 契約成立後、ツクモスの本体が地上に浮上した。その外観は、直径一キロメートルもある、超々巨大黒球。そう、現在の名取エンジン製造工場である。

 

((お前達に、我の中に入る権利を与える))


 ツクモスは、その巨躯に出産装置を内包していた。それを使って、子ども達を量産した。

 その子ども達こそが名取エンジンである。子ども達に手足を与えるべく開発したロボットが、人々が知るところのツクモスである。


 ツクモス(ロボット)の開発は、耀蔵達だけでは不可能だった。それを助けてくれたのが、フィアナの実家、世界的富豪「マックール家」だった。


 マックール家は、当時華原「影の支配者」と呼ばれるほど政財界に影響を及ぼしていた。そこにツクモスという世界を変革する力が加わった。彼らは力の行使を躊躇わなかった。


 マックール家は複合企業体(コングロマリット)「フィアナ財団」を設立。有りっ丈の財力を注ぎ込んでツクモスを量産した。


 ツクモスは、新たなエネルギー革命を起こした。これにより「エネルギー問題」という人類最大の悩みは完全に解決した。

 フィアナ財団は全人類から賞賛された。その影響力も増大した。


「今の我らならば、何でもできる」


 増長したフィアナ財団は、人類の長年の夢、地球統一国家の樹立を強力に推進した。尤も、それが叶うと信じる者は、殆どいなかった。

 そもそも、フィアナ財団は戦力が無いのだ。しかし、それを得る手段が手中にあった。

 フィアナ財団は、耀蔵に要請して戦闘用(軍用)ツクモスを開発した。


 NTM01ムラマサ。


 ムラマサの登場によって、世界の軍事事情が一変した。

 ツクモスには核兵器さえも無効化する衝撃無効化領域(アイエヌ・レンジ)が備わっている。これを突破できる兵器は、軍用ツクモスを措いて他にない。


 量産されたムラマサの大群は、各国の主要な戦力を無力化した。

 戦闘も有った。しかし、戦争というほどの大事にはならなかった。

 全ての戦闘に於いて、ムラマサが圧倒した。戦争ではなく侵略である。一方的に制圧したのだ。


 かくして、全人類統一国家「地球」が誕生した。現在の地球上には地球国以外の国は存在していない。地球国軍以外の軍隊も無い。地球国に敵はいない。

 それでも、人類は戦力を手放せなかった。


 軍用ツクモスは、今現在も開発が続いている。その操縦者に選ばれる為に、耀平(ヨウヘイ)達ツクモス学園生は日夜勉学、及び訓練に励んでいる。

 ツクモス(黒球)や耀蔵、フィアナの想いや願いを汲む者は、今は誰もいなかった。名取耀平唯一人を除いて。

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