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有魂機人ツクモス The Comrades  作者: 霜月立冬


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第二十六話 祖母

 木造平屋の一戸建て。普遍的な日本家屋だ。しかし、中に住んでいる人は世界的最重要人物であった。

 その一人、割烹着姿の美老女――名取リオンは玄関先に立っていた。ただ、立っているだけ。しかし、その前には四人の青い巨人が左膝を着いて跪いていた。

 宛ら女王と騎士。尤も、騎士の外観は鎧武者そのものだ。


 NTM03コテツ。リオンの旦那、耀介(ヨウスケ)の弟、耀善(ヨウゼン)が開発した軍用ツクモスである。


 コテツは生みの親の兄嫁に傅いている。その内の一人が、地面に両手を着いて平伏した。

 宛ら女王に許しを請うような格好だ。しかし、(コテツ)は最も女王に貢献した騎士だった。その大任遂行の証が、彼の兜の庇に乗っていた。

 そこには女王の賓客の姿が有った。


 名取耀平(ナトリ・ヨウヘイ)劉雨淋(リュウ・ユーリン)


 二人の中学三年生を乗せた(ひさし)が、地面まで一メートルのところまで下がった。その事実を直感するや否や、耀平と雨淋は一緒に庇から飛び降りた。その際、二人の手(耀平は右手、雨淋は左手)は繋いだままだ。

 小さな接点を維持したままの跳躍。連結した列車が空中に舞い上がるかのような、不安定極まりない状態だ。

 しかし、二人の息はピッタリ合っていた。まるで一人の人間のように、軽やかに地面に着地した。その直後、連結は解除された。


 雨淋は、唐突に繋いだ手を離した。直ぐ様耀平の許を離れて、リオンの許へと走った。


「リオンお婆ちゃんっ」


 雨淋は、勢いよくリオンに抱き付いた。すると、リオンは「あらあら、まあまあ」と言いながら、雨淋の小さな体を優しく抱き返した。その様子は、耀平の視界にも、四人のコテツの視覚センサーにも、バッチリ映っていた。


 何と美しい。


 雨淋達の様子を見守る全員の目に、薄っすら涙が浮かんだ。こんもり盛り上がっていた。

 しかし、それぞれの涙が零れる前に、皆が見詰める美老女が動いた。


 リオンは雨淋から視線を外して、跪く騎士達を見た。その視界に青い鎧武者の姿が映った。その直後、リオンの可憐な口が開いた。


「有難う御座います。ご苦労様でした」


 リオンは、コテツ達に謝意を表した。その言葉を以て、彼らは解放された。

 リオンの謝意の後、コテツ達は一斉に立ち上がった。


「それでは失礼します」


 一人のコテツの頭から、壮年男性の声が響き渡った。それを合図に、揃ってリオンに深々と頭を下げた。

 コテツ(ツクモス部隊員)達による、全力の最敬礼。それが終わった後、コテツ達は踵を返して走り去った。


 青い鎧武者の全力疾走。時速百キロほど出ている。しかし、土煙は全く上がっていなかった。地面から伝わる振動も、殆どなかった。

 

 残された三人組は、暫くコテツの後ろ姿を見詰めていた。その最中、耀平の首が少しだけ傾いだ。


 あの人達――どこに行くんだろう?


 耀平は、首を捻りながら考えた。すると、脳内に最寄りの軍事基地が閃いた。そこまでコテツ達が走っていく姿を想像した。しかし、彼らの前には文字通り壁が存在している。バスターミナルの高壁である。


 コテツ達は、そびえ立つ高壁の前で止まった。続け様に二人のコテツが向かい合って、互いに向かって両腕を伸ばした。そのまま両手でガッチリ握手。その握り合った両手の上に、他のコテツが足を掛けて乗り上がった。そのコテツを、下の二人が思い切り放り投げた。

 コテツはロケットのように舞い上がった。上へ、上へ、高壁の頂上部まで舞い上がった。そのまま頂上部に手を掛けて、その上に乗り上がった。

 その直後、両手を握ったコテツ達は、残りのコテツを放り投げた。


 高壁と地上、それぞれにコテツは二人ずつ。

 このまま別れ別れになるのか? そんな悲しい運命は、高壁の上のコテツが許さなかった。 


 高壁上のコテツは、それぞれロープを取り出して、それを地上のコテツに向かって下した。

 地上のコテツは、降りてきたロープを使って、高壁の上によじ登った。

 かくして、コテツ達は高壁の上で合流した。その直後、四人は高壁の「向こう側」へと飛び降りた。

 その後、四人は走って最寄りの軍事基地へと帰投した。その事実は、後でリオンにも伝えられている。

 耀平の疑問は、リオンに尋ねれば解消できた。しかしながら、その頃には耀平の関心はコテツから完全に離れていた。


 コテツ達が高壁の向こう側に消えた後、耀平は直ぐ様リオンの方に向き直った。その美貌が目に入った瞬間、耀平の口が開いた。


「婆ちゃん」


 耀平が声を掛けると、リオンはニッコリ微笑んだ。その優し気な笑みを見た瞬間、耀平の脳内は「祖父母と暮らした頃の記憶」で埋め尽くされた。

 一つひとつの思い出を想起する度、耀平の胸の奥が熱を増した。その想いが、耀平の体を衝き動かした。


 耀平は、ユックリ歩きながらリオンに近付いた。その間、リオンは微笑みながら耀平の姿を見守っていた。

 彼我の距離が一メートルほどに迫ったところで、耀平は再び声を上げた。


「ただいま」


 耀平は帰宅の挨拶をした。すると、リオンは「おかえりなさい」と出迎えの挨拶をした。しかし、それだけではなかった。リオンの挨拶には続きが有った。


「耀平」

「ん?」


 リオンに名前を呼ばれて、耀平は反射的に身を寄せた。その際、耀平の脳内には「俺も抱き締めて貰えるのでは?」という淡い期待が有った。

 ところが、リオンの口から出た言葉は、耀平の想像したものではなかった。


「貴方、お爺さんにも顔を見せていらっしゃいな」


 お爺さん。即ち名取耀介のことである。当然ながら、耀介も耀平達の来訪を知っている。しかし、彼は今、この場にいなかった。

 耀介はどこにいるのか? 一般的な思考で想像すれば家の中だろう。

 平屋の家は、耀平の正面に有る。しかし、耀平は首を捻った。その視線は、家の傍に立つ黒い半球状の山に向けられていた。


 爺ちゃんは「あの中」か。


 耀平は、視線を戻してリオンを見た。すると、リオンはニッコリ微笑んで、静かに頷いた。その反応を見て、耀平は――


「分かった」


 静かに頷き返していた。

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