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有魂機人ツクモス The Comrades  作者: 霜月立冬


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第二十一話 家路

 学園塔の前に伸びる堤防沿いの街道。それを道なりに進むと、大きな六車線道路が見えてくる。その接点に、屋根付きのバス停が有った。

 旧時代そのままのバス停だ。その脇に立つ長方形の標識柱には「ツクモス学園前」と書いてある。


 現在、時刻は午前七時を少し過ぎたくらい。早朝の日曜日ということもあって、車道を通る車は無い。しかし、バス停の前には二つの人影が有った。

 それぞれを遠目に見ると、中学生のお兄ちゃんと、小学生の妹である。しかして、その実態は同級生にして幼馴染だ。


 兄――いや、耀平(ヨウヘイ)は黒を基調とした衣装(半袖シャツ&スラックス)をまとっている。愛機(ムラマサ)と同じ色にしているだけなのだが、本人の体が痩せぎすの上に縮小色ということで、一層痩せて見えている。

 対して妹――いや、雨淋(ユーリン)の方は白を基調とした衣装(鍔広帽子&マーク付きワンピース)をまとっている。こちらはお気に入りの色というだけの理由なのだが、胸部が豊満な上に膨張色なので、一層ふくよかに見えている。尤も、ウェストを絞っている為、そのシルエットは一部を除いて標準サイズである。

 そんな凸凹コンビが、バス停の前で会話に花を咲かせていた。その内容は、主に今日の予定。その主題が、雨淋の口から飛び出した。


「お家に帰るのって――いつ以来? お正月?」


 お家に帰る。この場合、雨淋の実家ではない。その事実は、耀平も良くよく心得ていた。


「俺は、お盆に一回帰ってる。けど、ユーリンは――そうかも?」


 耀平は、雨淋の質問に答えながら、当時の出来事を想起していた。

 今日のデートの目的地、耀平の生家は、雨淋のホームステイ先である。しかしながら、二人の間では「家=耀平の生家」で通じ合っている。


 故有って、雨淋には実の両親がいない。養父の家は、彼女にとっては「帰るべき場所」ではなかった。その事情を、耀平も良くよく知っていた。


 俺達がユーリンの家族になってやらないと。


 耀平達の努力の成果は、今の雨淋を見れば明らかだった。


「んふふっ、高興(ガオシン)


 雨淋は「家」に帰ることを心底楽しみにしていた。その心情を、耀平も痛いくらい理解している。それなのに、今日まで雨淋には帰省が許されなかった。その事実を思うほど、握り締めた耀平の右拳に浮かんだ血管がプクリと膨れ上がった。


 父さんが、雨淋を拘束するから。


 雨淋は、たった一人の第四世代型のテストパイロット。他に適合者がいない為、彼女一人で頑張るしかなかった。

 雨淋は、夏休みの間も、学園塔(敷地内)から出ることを許されなかった。その事実を思うほど、耀平の脳内に父、耀児に対する文句の言葉が幾つも閃いた。口から吐き出したかった。しかし、それを雨淋に向かって言おうとすると、


「んふふふ~っ、高高興興(ガオガオシンシン)


 雨淋の嬉しそうな声が、耀平の耳に入った。それと同時に、雨淋の眩しい笑顔が、耀平の視界に入った。


 ま、いっか。


 耀平は、雨淋の気分を害する言葉を封印した。その上で、


「耀介爺ちゃん達、雨淋に会いたがっていたから」

「うん」

「きっと、喜ぶぞ」

「えへへっ」


 雨淋の朗らかな笑い声が、朝の車道に響き渡った。すると、それに惹かれるように一台のバスがやってきた。

 現在時刻は午前七時半。当初の予定では、これより一時間後のバスに乗るはずだった。しかし、来てしまったものは仕方がない。


「じゃ」

「うん」


 耀平達は、バスの側面中央部に開いたドアを潜って中に入った。その際、耀平は素早く中を見た。

 耀平の視界に映った座席は、全て空いていた。序に言えば、運転手の姿も無い。


 二十二世紀に於ける公共交通機関は、その殆どがAIで制御されている。一般車両も、その殆どがAI制御機能付き。人間が操縦する必要が有る乗り物とは、今やツクモスだけとなっている。


 現況に於いて、耀平達が望めば運転席にも座れる。無用の席だが、念の為にと残してあるのだ。

 しかし、態々一人席に座る理由は、今の耀平達には無かった。

 

 耀平と雨淋は、出入り口側の奥に有る二人席に腰を下ろした。その際、雨淋は窓側の席に座り、耀平は通路側の席に座った。


 お尻の大きさは、二人とも一般的な中学三年生より小さい。隙間を開けることは容易だった。しかし、隙間は無かった。何故かと言えば、雨淋が耀平に寄り掛かっていたからだ。


「んふふふふっ」


 雨淋は、終始ご満悦だった。その陽気に中てられて、バスが軽やかに走り出した。尤も、電動エンジンなので、元から静かに走るようになっている。


 バスの中は、陽気な雨淋の声と、ちょっとドギマギした耀平の声だけが響き渡っていた。


「ね、ね、よ~へくん」

「お、おう」

「あははっ、何かさ? 昔に戻ったみたい?」

「ま――うん、ちょっとそんな気もする」

「私達、いつから仲良くなれたかな?」

「それは――」


 雨淋は、高揚する気分のままに、過去の思い出を次々口にした。それが耀平の耳に入る度、耀平の脳内に当時の記憶が閃いた。それが増えるほどに、窓から見る外の景色も変化していった。


 恰も時間を遡るかのように、未来の科学都市から、長閑(のどか)な田園風景へ。


 移り行く景色とともに、それを見詰める耀平の心も過去へ――雨淋と初めて出会った日まで遡っていた。

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