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有魂機人ツクモス The Comrades  作者: 霜月立冬


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第二十話 待ち合わせ

 西暦二千百三十年、十月八日(日)。

 耀平(ヨウヘイ)雨淋(ユーリン)が仮想訓練室で邂逅を果たした日から、一か月ほど経った。その間、最強戦の日程が発表されていた。


 十一月二十三(木)日から十二月八日(日)。


 凡そ二週間。この期間内に、実機を使ったトーナメント戦が行われる。それに参加する選手は、例年通り十六名。既に選手本人達への通達は済んでいる。

 選手達は、それぞれ優勝を目指して、休む間も惜しんで特訓に励んでいる。

 耀平も、その内の一人。休日と言えども特訓に励む――はずだった。

 ところが、今日という日に限って、耀平はベッドの上に寝ころんだままだった。


 仰向けになった耀平の視界に濃紺の空が映っていた。

 枕元のレトロ時計は五時三十五分を指している。普段の起床時間より、三十分ほど遅い。

 今日は日曜日なのだから、登校する必要は無い。しかしながら、日課のジョギングが有る。その為に、起きる必要が有った。

 ところが、耀平は寝転がったままだ。


「むう」


 耀平は不満げに眉根を歪めながら、天井の空模様を眺めていた。


 昨日は――余り眠れなかった。


 耀平は寝不足だった。昨夜は、普段より早い時間にベッドに入った。しかし、日を跨いで尚寝付けなかった。何故なのか? 

 その理由と思しきイベントが、耀平の脳内に閃いていた。


 今日は――待ちに待った「デート」の日。


 デート。その言葉を想起した途端、耀平の胸を激しく高鳴った。その思春期男子らしい変調が、耀平を寝かせなかったのだ。

 今も、激しく昂る感情を抑えきれずに――


「未だ、ちょっと早いけど――」


 耀平は跳ね起きて、全力でデートの準備を開始した。


 先ず、お風呂で汗を流した。その際、寝間着を洗濯している。それらを畳んで右腕に抱えて、寝室兼居間兼勉強部屋の押し入れへと移動した。


 押し入れの襖を開けて、箪笥に寝間着を仕舞った。続け様に、下着と外出着を取り出した。

 耀平は、白の丸首シャツの上に黒の半袖シャツを羽織った。それと並行して、踝までの黒い靴下を穿いて、その上から黒のスラックスを穿いた。それらを身に付けた後、肩から襷のように細長い黒のボディバッグを掛けた。

 バッグの中にはスマホや財布などの貴重品が収納されている。それぞれ外出時には有用と思しきものばかり。しかしながら、耀平は「これ」だけでは不満だった。


 耀蔵爺ちゃんも連れていきたいなあ。


 耀平としては、耀蔵(ヨウゾウ)(AI)を組み込んだサポコンを持ち出したかった。それを望みたく理由がデートの目的地に有った。

 しかし、サポコンは軍事機密そのもの。校則でも「校外への持ち出しは厳禁」と定められている。それを破る気は、耀平には毛頭無かった。


 ま、仕方がない。


 耀平は渋々といった不満顔を浮かべながら、部屋を出た。

 向かった先は――食堂街。そこで腹ごしらえをしてから、デートの待ち合わせ場所、学園塔正面玄関前に移動した。


 時刻は、午前六時四十五分。

 太陽が空の闇を払い、学園塔前の太平洋を黄金色に輝かせている。天を衝く巨塔(学園塔)も、その白さを一層際立たせていた。

 耀平の足元から、濃く長い影が伸びていた。その地面に落ちた黒し染みをジッと見詰めながら、耀平は「はぁ」と溜息を吐いた。


 もう少し、食堂で時間を潰していても良かった。


 相手との待ち合わせ時間は、何と午前八時。未だ一時間以上も有る。どこかで時間を潰しても、十分間に合うだろう。しかし、耀平は――


 ま、いっか。


 動かなかった。耀平の直感が「このまま待っていた方が良い」と囁いていた。耀平も「まあ、一時間くらいなら」と、待つことを決めていた。しかし、待ち時間は存外に短かった。

 

 耀平が五分ほど学園塔前の太平洋を眺めていたところで、背後から聞き「慣れた声」が上がった。


「よ~へく~んっ」


 甲高い女子の声。それに反応して、耀平は振り向いた。

 すると、耀平の視界に一人の少女の姿が映った。

 

 小学生と見紛う低身長の女子。その体に白を基調とした衣服をまとっていた。

 鍔の広い帽子に、マーク付きのワンピース。足は、耀平と同じくスニーカー。その小さな肩から白いサコッシュを下げていた。

 陽光の中なので、一層白さが際立っている。

 しかし、その少女には衣装以上に目を惹く身体的特徴が有った。それが、耀平の視線を釘付けにしていた。


 その少女は胸部が豊満であった。


 ワンピースが腰元で絞られている為、放漫な双丘が一層際立っていた。だからと言って、マーク無しにする訳にはいかない。服全体が胸に押し広げられて太っているように見えるからだ。

 それほどまでに、少女の胸部は豊満だった。


 小学生のような低身長の、トランジスタグラマな女子。そのような存在は、耀平の知人の中では唯一人。


 耀平は、揺れる胸部に視線を奪われながら、少女に向かって元気良く挨拶した。


「ニーハオ。ユーリン」


 今日のデートの相手は、幼馴染の劉雨淋(リュウ・ユーリン)だった。尤も、他にデートをしてくれる相手など、耀平にはいない訳だが。


 今日は、二人にとって待ちに待った約束の日である。この日の予定を決めたのは――そう、一カ月ほど前の仮想訓練室での出来事だ。

 あのとき、雨淋は「今度の休み」と言っていた。普通は、その週末になるところ。二人も、最初はそのつもりだった。それなのに、一か月も間が空いた。何故なのか? それは――


拍謝(パイセー)。よ~へくん」

「ん? 何が?」

「今日まで時間が開いたこと」

「あ――うん」

「よ~じ先生のお手伝いが忙しくなっちゃって」


 第四世代型の開発。その開発主任である名取耀児《ナトリ。ヨウジ》が、「今度の最強戦に間に合わせる為に、突貫で作業するぞっ」と強引に計画を推し進めたせいであった。

 その為、雨淋を始めとした関係職員の休日が無くなった。皆が休日返上して奮励努力した結果、何とか間に合う目途が立った――と、いったところ。一段落したところで、漸くデートを敢行した訳だ。

 その事情を知った耀平は、右拳を固く握り締めた。


 父さん。うん、一発殴りたい。


 耀平の右拳には、パスタと錯覚するほど太い血管が浮き上がっていた。

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