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有魂機人ツクモス The Comrades  作者: 霜月立冬


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第十九話 二人乗り

〈Final stage was cleared〉


 ムラマサの全周囲モニターに勝利を告げる表示が複数個並んだ。まるっきり、ゲーム画面のそれ。一度も倒されずにクリアしたのだから、「やるやん」と称賛の声が上がっても良い。

 しかし、現況に居合わせた者がいたならば、最初に告げる言葉は「嘘だろ?」と、なるだろう。


 |最旧式のツクモス《NTM01 MURAMASA》が、|最新鋭主力機《NTMH 05 Flagaluck》を倒した。


 格上討伐の偉業を成し遂げた者は、現況に於いては名取耀平(ナトリ・ヨウヘイ)唯一人。誇って良い。自慢しても良いだろう。

 尤も、耀平にとっては初めての経験という訳ではない。中等部三年生に上がってからは、それなりに勝利を重ねている。

 それでも、誰も成し遂げていない偉業を達成したという快挙は、それなりに嬉しい。普段の耀平ならば、全身をフル活用して歓喜の意を表していた。

 しかし、今日は違った。


 耀平は渋面を浮かべながら、首を傾げていた。その気難しい表情や行為の理由が、耀平の口を衝いて出た。


「あの『声』――何だったんだ?」


 声。窮地の最中に聞こえた「転がれ」という指示。そのお陰で、耀平は勝利することができた。感謝したい気持ちは強い。しかし、それを伝えるべき相手が、耀平には分からなかった。


 男の声――なのかな? 俺ではないよな? でも、それらしい人はいないし。


 耀平は、ムラマサのコックピット内部を(つぶさ)に観察した。その視界に映ったものの中で、発声機能を持つ存在は、耀平の左肩に乗った「名取耀蔵(ナトリ・ヨウゾウ)(AI)」という名の小妖精しかいなかった。その事実が、耀平を一層困惑させた。


「うーん?」


 耀平は唸った。唸りながら、引き続き辺りを見渡していた。その最中、「勝利」を告げる表示が消えた。それと同時に、全周囲モニターの画像が切り替わった。


 耀平の視界一杯に、黒い巨球を並べた白亜の広間が映った。その光景に、耀平は既視感を覚えた。

 元居た場所、仮想演習室の光景である。

 耀平が最終関門を突破した為、仮想戦闘状態は終了している。耀平としては、引き続き別の戦場で戦闘を行うつもりだった。そのように目論んで、最初の戦場に荒野を選択している。何事も無かったならば、「次はどこにしよう?」と考えたところだ。

 しかし、できなかった。再戦闘を躊躇う存在が、耀平の視界に映っていた。


 耀平の正面に、小学生と錯覚する低身長の女子が立っていた。しかし、小学生ではなかった。


 その少女は、ツクモス学園中等部の制服を身に着けていた。その胸元は、目を疑うほど大きく膨らんでいた。その押し上げられた箇所に校章が有った。

 そこには三年生を示すマークが確認できた。


 中等部三年。耀平の同級生だ。

 しかし、耀平にとってはより以上に縁が深い存在だ。その事実を直感した瞬間、耀平の口から女子の名前が飛び出した。


「ユーリンっ!?」


 劉雨淋(リュウ・ユーリン)。耀平の幼馴染にして、最強戦連覇の偉業を果たした学園始まって以来の才媛。その名前は学園を超えて全世界に轟いている。

 そんな有名人が、仮想訓練室の中でも倉庫と呼ばれる場末にいるのか? 耀平の首は思い切り傾いだ。


 ユーリンは「Lクラス」だろ? 何で?


 雨淋の愛機は第三世代型の軽量級。しかも、今は第四世代型の開発に携わっている。この部屋には全く用事が無い。用事が無いならば、入室の許可も下りるはずはない。それなのに、何で雨淋がいるのか?

 耀平は幻覚の可能性すら考えた。しかし、幾ら目を擦っても、雨淋の姿は消えなかった。

 暫く――三分ほど経ったところで、耀平は考えることを諦めた。


 直接本人に聞いてみるか。


 耀平は戦闘状態を完全解除した。すると、全周囲モニターが真っ暗になった。それと同時に、耀平の肩に乗っていた小妖精が姿を消した。


 耀平の周りは闇しかない。しかし、直ぐに光が射した。


 耀平の正面に直径一メートルほどの大穴が開いた。ムラマサのコックピットハッチを開いたのだ。それに伴って、コックピットの外の世界と繋がった。


 耀平の肉眼に、直接雨淋の顔が映った。

 雨淋の瞳にも、耀平の顔が映っていた。

 互いの視線がかち合った瞬間、雨淋の顔に満面の笑みが浮かんだ。続け様に、吊り上がった口が大きく開いて――


「よ~へくんっ!」


 雨淋は耀平の名前を呼んだ。続け様に、自身の右手と左手を穴の縁に掛けた。その様子は、耀平の視界にもバッチリ映り込んでいた。


「ゆゆゆゆ――っ!?」


 耀平は座席から立ち上がった。それと同時に、両腕を前に突き出した。その伸ばされた腕の間に、雨淋の小さな体がスポリと収まった。

 雨淋は、ムラマサのコックピットに乗り込んでいた。耀平の腕に体押し込めた後、尚も前進を続けて、全身で耀平の体を押し込んだ。

 耀平は、急に立ち上がった為、不安定な姿勢になっていた。雨淋の「押し出し」に抗えなかった。

 耀平は、両腕で雨淋の体を抱えながら、座席に尻餅を撞いた。


 痛く――はない。けど、これは――ヤバい!?


 コックピットの座席は衝撃吸収機構が備わっている。しかし、体に衝撃は無くとも、精神的な衝撃は甚大だった。


「ゆゆゆゆゆ――っ!?」


 耀平としては「ユーリン、何をする?」と、雨淋の行為を咎めたかった。しかし、動揺する余り、真面な言葉が出てこなかった。

 動揺する耀平を尻目に、雨淋は耀平の太腿の間にお尻を突っ込んで、無理矢理二人乗りした。その際、当然ながら耀平の股間と接触している。それは、雨淋も直感していた。

 しかし、雨淋は、委細構わず、傍若無人に、


「んふふ~」


 甘え声を上げながら、耀平の胸に背中を預けた。その為、一層二人の密着度が増した。


「ゆゆゆゆゆゆーっ!?」


 耀平の体に、雨淋の柔らかな感触と体温が伝わっていた。それを意識するほどに、耀平の心臓は激しく跳ねた。脳内までもが激しく揺れていた。思考回路は短絡寸前だった。

 しかし、だがしかし、名取耀平にも意地は有る。しかも、最旧式で最新型を倒す剛の者である。それなりに逞しい男の子なのだ。


「すーはーすーはー」


 耀平は深呼吸して心を落ち着けた。幾分か落ち着いたところで、超至近距離にいる雨淋を見た。

 耀平の視界に、両サイドにシニョンを付けた頭頂部が映った。耀平は「旋毛が有る」と思しき箇所に向かって話し掛けた。


「ユーリン」

「んふふ――ん?」

「何で、ここに?」


 耀平は、雨淋に行為の意図を尋ねた。ところが、雨淋は「この部屋に入れた理由」を告げた。


「『よ~じ先生』に頼んだの」


 よ~じ先生。即ち、名取耀児。耀平の父にして、ツクモス開発局の局長だ。その名前を聞いて、耀平の口が「へ」の字に歪んだ。


 職権乱用――ってやつ? ほんと、ユーリンには甘いよなあ。


 耀平は、雨淋に聞こえないよう小さく溜息を吐いた。続け様に、僅かに空いた隙間から声を上げた。


「んで」

「ん?」

「何をしに来たの?」


 耀平は、今一度来訪理由を尋ねた。今度は、雨淋にも意図が伝わった。


「あのね~」


 雨淋は、嬉しそうな声を上げながら、その小さな後頭部を耀平の胸に押し付けた。その行為に、耀平はドギマギした。鼻息が荒くなるのを必死に堪えた。その状態は、雨淋にも直感できた――か、否か。


 雨淋は、耀平の心情を全く無視して、後頭部をグリグリ押し付けながら声を上げた。


「よ~へくんの顔を見たかったの」

「えっ!?」


 雨淋の言葉を聞いた瞬間、耀平の顔が赤くなった。しかし、その変調は耀平だけではなかった。

 このとき、雨淋の顔も赤かった。雨淋も、現況に対してドギマギしていたのだ。しかし、耀平のように動揺はせず、むしろ心地良さを覚えていた。


 このまま、よ~へくんに、ずっとくっ付いていたいな。


 雨淋の意図は、その殆どが「よ~へくんの傍にいたい」だった。しかし、それは飽くまで感情的な理由で、実はもう一つ別の理由が有った。それが、雨淋の口から飛び出した。


「それと――」

「え?」

「『今度の休みのこと』、確認しようと思って」


 今度の休みのこと。その言葉を聞いた瞬間、耀平の脳内に「実家の光景」が閃いた。

 長閑(のどか)な田園風景と、その中心にそびえる黒い半球型のドーム。そこが、耀平の実家にして、雨淋にとってはホームステイ先の家だった。

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