表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
有魂機人ツクモス The Comrades  作者: 霜月立冬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/19

第十七話 対ツクモス武器

 乾いた大地に爆炎が吹き上がった。次から次へと無限に。その灼熱地獄の中を、二丁のライフルを持った黒い鎧武者が駆け抜けている。

 太腿を高く上げ、腰を覆う草擦を跳ね上げながら、敵に向かってまっしぐら。猪突猛進していた。


 鎧武者の向かう先には、扇形に並ぶ五台の戦車フェンリルがいる。「主砲」という名の牙を掲げて砲撃し続けている。


 フェンリルの主砲から放たれた榴弾が、鎧武者に容赦なく襲い掛かる。

 着弾と同時に爆発が起こった。辺り一帯に榴弾の破片が飛び散った。それらは、確実に鎧武者の体に当たっていた。

 しかし、鎧武者――ムラマサは全くの無傷だった。


 名取エンジンから発生する衝撃無効化領域インパクト・ナリフィケーション・レンジIN領域(アイエヌ・レンジ))が、ムラマサの体を全力で守護していた。

 ムラマサは、相手の攻撃に一切構わず、殺意を漲らせながら敵陣に突っ込んだ。


 ムラマサが突っ込んでから、凡そ五分。

 ムラマサが握るライフルの発射音が止んだ。フェンリルからの砲撃も無い。

 再び荒野に静寂が戻っていた。その真ん中に、二丁のライフルを構えた鎧武者が立っている。それ以外ものは、戦車だった残骸が五つ。


 最初から勝負に等ならなかった。狩人と獲物の戦いだった。ムラマサが一方的に借り尽くした。それも、右手のアサルトライフルを使わず、左手の大口径ライフルだけで。


 これくらいなら――まあ、うん。余裕だ。


 耀平(ヨウヘイ)は苦笑いした。その瞬間、耀平を囲む全周囲モニターに同じ文字が複数個表示された。


〈First stage cleared〉


 戦闘終了。しかし、未だ「第一」だ。続きが有った。

 十秒ほど経ったところで、全周囲モニターから文字が消えた。それと同時に、耀平の視界に黒いA3サイズの画面が映り込んだ。

 画面に表示された地図の上に、新たな赤い光点が灯っていた。


 光点の数は、たった一つ。先程のフェンリル部隊と比べると、余りに少ない。しかし、それを見詰める耀平の口許から、余裕の笑みが消えていた。

 耀平は、口許をキリリと引き締めながら、赤い光点を睨んだ。その光点の傍には機体名と思しき文字が表示されていた。


〈NTM03 KOTETSU〉


 相手の名称を直感した瞬間、耀平の眉根が少しだけ歪んだ。それと同時に、耀平の左肩に乗った小妖精が声を上げた。


「一キロ先に――おるのう」


 耀蔵(ヨウゾウ)の声に反応して、耀平の正面にA3サイズの画面が表示された。

 そこには、大小二丁の銃火器を持った青い鎧武者が映っていた。その画面は、ムラマサ頭部に設置された望遠レンズで捉えた画像を映していた。

 耀平は望遠モニターを見ながら声を上げた。


「『耀善(ヨウゼン)』爺ちゃんの傑作機か」


 耀善。フルネームは「名取耀善」。その名前が示す通り、耀平の親族。耀平の祖父「名取耀介(ナトリ・ヨウスケ)」の弟で、耀平にとっては大叔父だ。

 耀善は、耀蔵の跡を継いだツクモス開発局二代目局長。軍用ツクモス第二世代型の生みの親だ。


 耀善が手掛けた軍用ツクモスはNTM02,03、04の三種類。それぞれ脳波操縦(ヴェイクス)偏重を企図して造られている。

 しかしながら、実のところ機体性能はムラマサと殆ど差が無い。


 そもそも、初めての開発方針転換で、これまでの開発担当主任(耀蔵)が不在という状況なのだ。殆どが手探り状態であったが故に、新型機の開発に多くの期間を費やしている。


 結局、形になったものは三種のみ。ムラマサと比肩するまでに至ったと言えるだけでも僥倖だ。

 その耀善開発機(第二世代型)の中で、コテツだけはムラマサを凌駕すると定評を得ている。


 コテツの反応速度は、ムラマサよりコンマ2秒ほど早い。勝敗を分けるには十分な時間だ。ガンマンの早打ちであれは決着が付いている。


 因みに、後継機は操縦システムの簡素化を目論んだ為に、反応できているけど操作できないという不具合が生じている。それを後から改変した為、コテツより性能が下がってしまった。


 第三世代型か登場するまで、コテツは地球軍ツクモス部隊の主力機であった。既に旧式となってしまったが、今でもコテツを愛機にする者は存外に多い。


 嘗ての主力機を相手に、耀平は最旧式で挑む。相手の方が格上であることは、否みようもない。耀平の顔は真剣そのもの。

 しかし、耀平の心中に負ける気など微塵もない。その瞳の奥には投資の炎がメラメラと燃え上がっていた。


「耀蔵爺ちゃん」

「ん?」

「相手の武器は?」

「右手に大口径ライフル。左手に『マシンガン』じゃな。後は――腰に打刀かの」


 マシンガン。連射機能に特化した対ツクモス用の武器。

 単発の威力はムラマサのアサルトライフルに劣る。しかし、その連射速度はアサルトライフル(毎秒十発)の二倍(毎秒ニ十発)である。近距離での打ち合いであれば、他の武器のDPS(秒間ダメージ効率)を凌駕する。その事実は、耀平もよく理解していた。


 近距離では――撃ち合いたくないな、うん。でも、相手も大口径ライフルを持っているからなあ。


 耀平の脳内には中距離での撃ち合いが最善手と閃いていた。しかし、それを躊躇う理由が、耀平の中には有った。


 削り合いだと――時間が掛かる。


 耀平としては、早めにケリを付けたい。その想いが、耀平に「別の選択肢」を選ばせた。


「耀蔵爺ちゃん――」

「ん?」

「突っ込む」

「猪武者じゃの」

「何とでも――言ってくれ」


 耀平は、右足下に設置された全速前進のアクセルを踏み込んだ。

 硝煙の匂いが立ち込める荒野の中を、黒い鎧武者が駆け抜けた。すると、サブモニター(地図画面)に映った赤い光点が移動を開始した。

 コテツは、真っ直ぐムラマサに向かっていた。


 耀平は走りながら両手のライフルを構えた。引き金も全力で引いた。すると、相手――コテツも射撃を開始した。


 双方の弾丸が、双方の体に当たった。しかし、それぞれのツクモスの体はIN領域に守られている。機体に傷は付かなかった。そのはずだった。

 ところが、距離が詰まるにつれて、ムラマサの外装に傷が入った。ムラマサだけでなく、コテツの外装にも傷が増えていく。その現象の意味が、耀平の脳内に閃いていた。


 やっぱり、五百メートル圏内だと「IN領域は無効化される」か。


 IN領域の無効化。その現象を可能にしている「特殊な加工」が、双方が使っている武器(弾丸)に施されていた。


 対ツクモス用武器には、名取エンジン製作時に零れ出た特殊な粒子が使用されている。その粒子のことを、軍用ツクモス関係者間では「IN酵素(アイエヌ・エンザイム)」と呼称している。

 IN酵素を武器(弾丸や刃先)に施せば、他機のIN領域の影響をすり抜けることができる。

 しかし、単に加工すれば良いというものでもない。


 IN酵素は、自機のIN領域の影響を受けることで、初めて効力を持つ。その為、自機から離れるほど効果が減衰する。

 一般的には五百メートルが有効距離。そこから攻撃して、初めてツクモスの機体に傷が付く。

 更にダメージを与えるならば、一層近付く必要が有る。

 最大威力を発揮するとなれば、密着するほどの近距離から、より多くのIN酵素を施した武器での攻撃が最適解になる。


 対ツクモス戦の最適解武器、それ、即ち近接格闘武器である。それで攻撃されたなら、例え第三世代型でも手足をもがれる。

 しかしながら、何事にも例外が有った。


 コックピットブロック。即ち「名取エンジン」である。

 

 名取エンジンだけは、IN酵素を以てしても傷付けることができない。その事実を、耀平は良くよく心得ていた。


 このまま接近して――腕を狙う。


 耀平は更にアクセルを踏み込んだ。ムラマサは更に加速した。

 ムラマサとコテツの距離が二百メートルに迫った。その瞬間、耀平は奇策に打って出た。


 ムラマサの右手が真下に下がった。その直後、真正面を経由して真上に突き上げられた。その行為の最中、右手からアサルトライフルが離れていた。


 アサルトライフルは、高速縦回転をしながらコテツに迫った。コテツは――躱さなかった。


 アサルトライフルは、コテツの体に当たった後、地面に吸い寄せられるように落下した。

 その際、コテツにダメージは入らなかった。当然だ。銃火器本体にIN酵素は施されていないのだ。それを投げ付けても意味はない。

 しかし、右手が空いたことには意味が有った。


 ムラマサの右手が、腰元後背に差した打刀の柄に伸びていた。それを掴んだ際、敢えて耀平は逆手持ちにしていた。


 耀平はムラマサの体を思い切り鎮めた。屈み込んだ黒い巨躯に、コテツが放った銃弾の豪雨が襲い掛かる。その幾つかは、ムラマサの背中に当たった。


 そこは、ツクモスの体で最高防御力を誇る部位、コックピットブロックだ。そこにはIN酵素も通用しない。

 そもそも、IN酵素は名取エンジンの一部である。その効果にしても、IN領域由来のものなのだ。その発生源であるエンジン本体を傷付けることはできない。

 耀平は、IN酵素の特性を利用した。


 ムラマサは弾丸の豪雨を受けながら、コテツの足下に突っ込んだ。

 身長五メートルの鎧武者による超高速タックル。その際、ムラマサは両腕を後ろに回していた。

 あと一歩踏み込めば、ムラマサは顔面から突っ込む。そこまで迫った刹那、耀平の両手と両足が、人の限界に迫る超高速操作を繰り出した。


 衝突の直前、ムラマサの巨躯がコテツの右手側にスライドした。ムラマサは、そのままコテツの右脇直近を抜けた。

 二体のツクモスが擦れ違った。その刹那、ムラサマは抜刀した。


 ムラマサは、逆手に握った打刀を振り上げて、コテツの右脇を――斬った。

 逆手抜刀術。ムラマサの放った一撃は、コテツの右脇に食い込み、これを完全に断った。


 コテツの右腕が、右手に握られていた大口径ライフル毎宙を舞った。それが地面に着くまでに、耀平は更なる攻撃を繰り出していた。


 コテツの右腕を切った後、ムラマサはコテツの背中に回り込んだ。その行為に、コテツは反応した。超高速で旋回して、ムラマサの方を向いた。左手のマシンガンを構えて、その引き金を引いた。

 コテツの反応速度は、ムラマサを凌駕していた。しかし、「遅かった」。


 ムラマサは、コテツが振り向くと同時に攻撃を繰り出していた。

 耀平は読んでいた。相手の動きを。コテツは耀平の想像通りに動いていた。その動きに、耀平はドンピシャで合わせていた。


 ムラマサは、逆手に握った打ち刀を袈裟懸けに振り下ろしていた。その太刀筋の途中に、コテツの左腕が入っていた。


 コテツの左腕が地面に落ちた。コテツは両腕を失った。その事実は、耀平の肉眼からもハッキリ確認できた。

 その直後、耀平を囲む全周囲に複数個の文字が表示された。


〈Second stage was cleared〉


 戦闘終了。耀平の勝利である。

 対ツクモス戦に於いて、コックピットブロックにダメージは通らない。その意味では、真の決着は付けようがない。

 しかしながら、ツクモスの攻撃手段は両手に握った武器に限定されている。それを失えば、攻撃することができない。

 その為、ツクモス同士の戦闘に於ける決着は「両腕の欠損」となる。

 それが、最強戦の勝利条件だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ