表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
有魂機人ツクモス The Comrades  作者: 霜月立冬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/19

序章 奇妙な鎧武者

 奇妙な鎧武者だった。小太りで、お腹がポッコリ突き出ている。宛ら「妊婦」といったところ。中に誰か入っているのかもしれない。

 尤も、外観だけで腹の中を確認することは難しい。その鎧武者は全身に漆黒の大鎧をまとっている。

 しかし、両手に握っている得物は、全く武者らしくないものだった。


 右手にアサルトライフル、左手に大口径ライフル。何でやねん。


 得物を見た瞬間、「武士の装備はどうした?」と問いたくなる。一応、それらしいものも有るにはあった。

 武者の後背、腰の辺りに一振りの打刀が真横(地面と水平)に差してあった。それを見て「なあんだ、やっぱり武士じゃないか」と思う、いや、多分、誰も思うまい。

 そもそも、鎧武者自体が特異なのだ。「人間とすら言い難い」と断言できる。


 鎧武者の身長は、何と五メートルも有った。それほどノッポさんな人間はいない。少なくとも地球上には。


 しかし、現在地は紛うことなく地球だった。時は二十二世紀、より正確に言うと「西暦二千百三十年」だ。

 絶対に武士の時代ではない。謎の鎧武者が立っている場所も、当然ながら中世期の日本ではなかった。

 鎧武者の周辺には、彼の身長の何倍も有る高層ビルが立ち並んでいた。現在地を簡潔に表現するならば「都市」、或いは「市街」だろう。


 都市内に現れた謎の巨大鎧武者。その現場に居合わせたなら、貴方ならどうする?

 スマホで鎧武者を撮影するだろうか?。それから安全な場所まで逃げるだろうか? 警察に連絡するだろうか?

 しかしながら、現況に於いて、そんなことをしている奴はいなかった。


 鎧武者の周囲は全くの無人だった。視界を広げて都市全体を見ても、これまた全くの無人だ。


 無人の都市、所謂「ゴーストタウン」。そんな寂しい場所に、一人ぼっちの巨大鎧武者。そのように考えると、同情の念を覚えなくもない。

 しかし、鎧武者は孤独ではなかった。彼の腹の中には――やっぱり「人」が入っていた。しかし、赤ちゃんではなかった。


 鎧武者の腹の中にいた者は、中学三年生男子と、手のひらサイズの小女だ。


 中学生は座席に座ったまま忙しなく動いていた。動きながら、何やら叫んでいる。少女の方も、大声でがなり立てていた。

 とても、とても、とても――煩い。喧しい。寂しさなど覚える暇がないほど騒がしい。

 尤も、煩いの「中」だけではなかった。「外」は、もっと喧しかった。それこそ爆心地と錯覚するほどに。


 実際、鎧武者の周りで何度も爆発が起こっていた。それも、鎧武者に近い場所で次々——連続で。

 鎧武者は爆発の標的だった。彼は現在進行形で窮地に立っている。毎秒迫る命の危機から、必死に逃げ回っている最中だった。


 鎧武者が高層ビル群の影に入った途端、頭上から爆音が上がった。それも複数回。それが一つ聞こえる度、高層ビルが一つ倒れた。その際、巨大なコンクリートの塊が、地面に向かって雪崩の如く落下した。

 降り注ぐコンクリート塊の雨霰。その殺人的大瀑布を、鎧武者は命辛々回避した。その直後、彼の腹の中で手のひらサイズの少女「小妖精」が声を上げた。


「『燿平(ようへい)』。流石に、今のは危なかったぞ」


 小妖精の声に続いて、「燿平」と呼ばれた中学三年生が声を上げた。


「『耀蔵(ようぞう)爺ちゃん』。危なくなかったときって――有ったっけ?」

「無いな」

「だったら言わないでよねっ」


 中学三年生男子の声は震えていた。 その男子、「名取燿平なとり・ようへい」は恐怖していた。


 負けるどころじゃすまない。このままじゃ――殺されるっ!?


 鎧武者の腹内に設けられた「操縦室」という狭い空間で、中学三年生男子が必死に手足を動かし続けている。

 その男子、耀平は、左右それぞれの手で、複数のボタンが付いた操縦装置(コントローラー)を同時に操作し続けていた。その両足で、足元から突き出した複数個のペダルやフットレバーを同時に操作し続けていた。

 耀平の体から生えた全ての手足が、全ての操縦装置を、目にも止まらぬ超高速で操作し続けている。その行為は人外の神技だ。

 しかし、耀平は飽くまで人間だ。人間の領域を超える技に耐えられるほど、彼の体は丈夫ではなかった。


 両手の操縦装置は血に塗れていた。耀平の手の皮がズル剥けていた。足も同様だった。耀平の体から血が滴っていた。それらの傷は痛みを伴っていた。そのせいで、耀平の目から涙が出た。

 それでも、耀平は必死に操作し続けた。


 我慢、我慢、我慢――絶対に好機は来る。それまで我慢だっ!!!


 今の耀平を支えていたものは、「秘策」と言う名の希望だった。そこまで辿り着けたなら、窮地を脱することができる。勝利することができる。その可能性を想像して、耀平の心に希望の光が射した。その瞬間、


((耀平っ、後ろっ))


 唐突に、耀平の耳に声が飛び込んできた。しかし、それは小妖精には届いていなかった。

 そもそも、それは声ではなかった。


 謎の声は、耀平の「脳内」に直接届いていた。聴覚が反応していない以上、「幻聴」の可能性を想像しても止む無しか。

 しかし、耀平は「声」に反応した。


 耀平は両脚で巧みにフットレバーを操作して、真横、左手側に舵を切った。すると、彼らを乗せた鎧武者が左手側に横っ飛びした。

 その直後、鎧武者の頭ほども有る砲弾が鎧武者の真横を通り過ぎていった。その事実を直感して、耀平と小妖精は顔を見合わせた。


「今のは、マジで――」

「危なかったぞ」

「うん」


 耀平も、小妖精も、右手を掲げて額の汗を拭った。その瞬間、再び燿平の脳内に「声」が響き渡った。


((気を付けてくれよな。全く))


 この場にいない第三者の声。一体、誰の声なのか? その正体を、耀平は完璧に理解していた。


「分かってるよ。『ムラマサ』」


 ムラマサ。その型式番号はNTM01(Natori heavy Industries Tsukumosu Military version 01)。それが、この鎧武者の名前、「製品名」だ。


 鎧武者は「名取重工業」という会社が造った搭乗型ロボットだ。

 そのロボット(総称)を「ツクモス」と言う。

 鎧武者ムラマサは、初めて戦闘用(軍用)として造られたツクモスだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ