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(でもこれも仕方ないよね?)
なぜなら魔法科の生徒は十名で、その内訳が男子八人、女子二人だから。
もちろん女子二人とは、ダリアローズとアナベルである。必然的に親しくなるシチュエーションが整ってしまっていたのだ。
(それにあんなに懐いてくれている子を無視なんて……そんな酷いこと私には出来ない!)
……とまあそんな理由で、なんだかんだ学園では一緒に行動するようになって……いや、アナベルも寮から通っているから、朝から晩までずっと一緒か。
この一週間、一緒に過ごしてみて分かったことがある。それはアナベルが非常に優秀だということ。
ヒロインだから、ハイスペックなのは最初から分かっていた。だけど私が言いたいのは、能力や才能のことではない。彼女は努力の積み重ねができる人なのだ。
毎日の予習復習は欠かさないし、分からないことがあれば積極的に教師に質問したり、図書室で調べものをしていたり……可愛くて性格も良い。そして真面目で努力家なアナベルを、好きにならない人なんていないのでは?
前世ではアナベルに好感を持てなかった私だけど、気づけば今目の前にいるアナベルには非常に好感を持ってしまっている。
このままいけばアナベルは攻略対象の誰かと結ばれて幸せに……いや、それは安直すぎるか?
私の婚約という、『ハナキミ』の大きな前提が崩れてしまっているのだ。これはすでにストーリーが変わっている可能性がある。
……それならアナベルを、ローズ商会にスカウトするのもアリかな?
「……ねぇベル。聞きたいことがあるんだけどいいかしら」
「聞きたいことですか?」
「ええ。ベルは学園を卒業したらどうするのかなって」
「卒業したら……?」
これは突然すぎたかもしれない。アナベルはキョトンとした顔をしている。
「ほら、仕事とか結婚とかよ」
「なるほど、そういうことですね!えっと、できれば治癒士として働けるところに勤めたいって思ってます。安定して働ければ家に仕送りも出来ますし、人の役に立てたらいいなって」
「そうなのね」
「はい。それに家は弟が継ぐので、私は結婚してもしなくても好きにしていいって両親は言ってくれていて……。だから卒業してもしばらく結婚はいいかなって考えてます!」
おお、これはいい感じなのではないか?……でも焦りは禁物。まだ学園に入学したばかりだ。もう少し様子を見てからにしよう。
ただ自分で言うのもなんだが、ローズ商会は超優良企業だ。ローズ商会で働きたいと望む人は多い。給料も休暇もしっかり保証されてる職場なんて、この世界ではローズ商会くらいしか存在しないだろう。
だからアナベルは受け入れてくれる、私はそう確信している。
「素敵な家族ね」
「はい。……あの、ダリア様」
「ん?何かしら?」
「その……ダリア様は卒業後どうなさるのですか?」
私の卒業後か。
「私?私もベルと似たような感じかしら」
「えっ!そ、そうなんですか?ブルー家のご令嬢であるダリア様は卒業したら直ぐにご結婚されるのかと……あっ!私としてはすごく嬉しいですが、その……大丈夫なのかなって」
高位貴族の令嬢は、適齢期に結婚することがほとんど。どうやら余計な心配をさせてしまったようだ。
「あら、私が結婚しないのを嬉しいだなんて……」
「あ……そ、そういうつもりは」
「ふふふ、なんてね。今のは冗談よ」
「そうなのですか?」
「ええ。昔から結婚したいとは思っていなかったし、家は兄が継ぐから私は自由に生きていくつもりよ」
一応まだあの家に籍はあるが、近いうちに除籍してもらう予定だ。
この国は女性が外で働くことをよしとしているし、それに結婚も比較的自由。結婚しなくても後ろ指を指されることはない。女性に将来の選択肢があるのは良いことである。
まぁそうは言っても、それは平民の場合であって貴族令嬢は例外ではあるが。
「それって、ダリア様と同じ場所で働ける可能性もあるってことですか!?」
「そうね。その可能性もあるかもしれないわね」
もちろんその可能性とは、ローズ商会のことですが。
「私頑張ります!」
「そう?でもあまり無理はしないでね。ベルは今でも十分頑張っているんだから」
「えへへ……ダリア様はお優しいですね!ありがとうございます」
はにかんだ表情がとても愛らしい。やはりヒロインってすごい……。私の婚約がなくても、これは攻略対象たちがアナベルに恋してもおかしくない気がしてきた。
よし、ここは念のため……
「ねぇもしも結婚したい相手が出来たら教えてくれる?私がベルに相応しいか見極めてあげるから」
「ダリア様が……!はい!その時はぜひお願いします!でも今は恋より勉強です!」
「ええ、その通りね。今日は昨日の小テストの結果が出るものね」
「うぅ~、今からドキドキしてます」
「ベルなら大丈夫よ」
「そうだといいのですが……」
うん、謙虚なところもまたいい。けれどアナベルはヒロイン。もっと自信を持ってもいいと思う。
「心配いらないわよ」
「ダリア様にそう言ってもらえて、少し自信が持てそうです」
「ふふっ、私もうかうかしていられないわね?」
「そんなことありません!ダリア様は今回も満点ですよ!だって初めてのテストでも満点でしたし!さすが委員長です!」