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「アナベル・ホワイトです!これからよろしくお願いします!」
「……ダリアローズ・ブルーよ。よろしく」
会話だけみれば、ただのクラスメイト同士の会話。普通なら何の問題もない。普通ならば。
けれどこれは大問題、というか予想外すぎる。
なぜか。
それはこの会話の相手が『ハナキミ』のヒロインだからである。
ヒロインに近づかないと決めていたのに、どうしてこうもすぐに会話しちゃってるのかって?
答えは簡単!
それは私がヒロインと同じ魔法科で、さらには席が隣だったから!
(……ってどうして忘れてたのよ!ゲームでヒロインは魔法科だったじゃん!クラスが同じでしかも席が隣って……関わらないなんて無理じゃない?)
一体どんな運命のいたずらなのか。
クラスが同じだけなら、まだ何とか上手くやれるだろう。しかし席まで隣は無理だ。私は笑顔の裏で、頭を抱えたのだった。
◇
――アナベル・ホワイト
下級貴族ホワイト家の娘。白い髪にめずらしい極彩色の瞳、そしてダリアローズと正反対の小柄で小動物のような愛らしい容姿……
そう。彼女こそが『ハナキミ』のヒロインだ。
ゲームでは、ヒロインの瞳の色が好感度を示すバロメーターとなっていて、その時々で一番好感度の高い攻略対象者の色に変わるという設定だった。だからよほどおかしな選択をしない限りは、わりと簡単に攻略することができる。
ヒロインには父と母と弟が一人いて、家はあまり裕福ではないものの家族仲が良く、皆から愛される存在なのである。
◇
(……ゲームより可愛い)
ゲームで見ていた姿より、本物の方が大変愛らしい。ダリアローズは綺麗系でアナベルは可愛い系だなぁ……なんて若干現実逃避をしていると……
「あの!ダリアローズ様とお呼びしてもいいですか?」
小首を傾げながらそんなこと言われたら、間違ってもダメだなんて言えるわけない。
前世ではヒロインのことはそんなに好きじゃなかったのに……ダリアローズ推しだった私は一体どこに行ってしまったのか。
「……いいですよ」
そして結局受け入れてしまう私なのである。
「ありがとうございます!私のことはぜひアナベルとお呼びください!」
「分かりました」
「……」
なぜかキラキラした目で私を見つめてくる。
……これは名前を呼べと?
「……アナベル様」
「う、嬉しいです!」
「そ、そうなの?」
「はい!その、ダリアローズ様さえよろしければ、名前だけで呼んでくださっても……」
「……そ、それはこれからの楽しみにとっておくわ」
「……はっ!これからの……はい!楽しみにしてます!」
……なんだかヒロインが、嬉しくて尻尾を振りまくる子犬に見えてきた。それにしてもゲームのイメージとだいぶ違う。王太子との婚約は無くなったけど、これって仲良くしても大丈夫なの?
(……うーん、とりあえず様子を見よう)
すでに関わりができてしまった以上、無闇に避けるべきではない。ここは一先ず、程よい距離感を保って……
「ダリア様、おはようございます!」
「おはよう、ベル」
……なーんて思っていたのに、一週間が経つ頃には、愛称で呼び合うほどの仲になっていましたとさ。