書籍発売記念SS 冬の大会(観客視点)
吐く息の白さに本格的な冬の訪れを感じ始めた頃。
カラフリア王国内で名門と謳われるブランディール学園の一角にある闘技場。
そこで冬の訪れを忘れるほどの熱い戦いが行われようとしていた。
闘技場の中央。
そこに立つのは、赤い髪の男と緑の髪の男。
赤い髪の男はランドルフ・レッド。
騎士科の三年で、上級貴族レッド家の嫡男。
そして緑の髪の男はマティアス・グリーン。
魔法科の三年で、上級貴族グリーン家の次男。
夏の剣術大会の優勝者であるランドルフと、秋の魔法大会優勝者のマティアス。
その二人による頂上決戦が、ここ闘技場で行われていた。
◇◇◇
「レッド先輩! 貧弱野郎なんてぶっ倒しちゃってください!」
「グリーン先輩! 脳筋なんて叩きのめしてください!」
伝統的に仲の悪い騎士科と魔法科。声援と言うよりは野次に近いそれ。
冬の大会に関しては毎年恒例と化しているほどである。
しかし二年前だけは、この恒例の野次を耳にすることはなかった。
ダリアローズ・ブルー
彼女ほどの有名人はあとにも先にも存在しない。
剣と魔法。
どちらの大会も制覇するという、学園史上初の快挙を成し遂げた人物。
今でも『青の女帝』の名は語り継がれている。
「始め!」
試合開始の合図。それと同時に二人が動いた。
「いけー!」
「やっちまえー!」
観客席からは様々な声が飛ぶ。
はたしてどちらが強いのか。
これまでの冬の大会の戦績は五分五分。昨年は魔法科の生徒が優勝している。
ただ今戦っている二人は、昨年の大会に参加していなかった。
これだけの実力があれば、昨年も優勝できる可能性があったはず。
それなのになぜ参加しなかったのか。それが単純に不思議でならない。
試合開始から三分が経った。
中盤に差し掛かっているが、両者一歩も引かず均衡を保ち続けている。
「⋯⋯すげぇ」
観客席の誰かがつぶやいた。
そしてそのつぶやきを始まりに、徐々に会場中が静かになっていく。
なんだこの戦いは。多くの者がそう思っているだろう。
昨年の試合もさすが優勝者同士だなと思うような戦いだった。
しかし今目の前で行われている試合は次元が違う。平凡な自分にでも分かるほどに。
魔法を巧みに操る騎士に、短剣で活路を見出す魔法使い。
何がどうなっているのか。
なぜ騎士科の人間が?
なぜ魔法科の人間が?
おそらく会場の大多数が抱いたであろう疑問。
けれどその疑問を口にする者は誰一人としていない。
「これは将来が楽しみだな」
「そうだな。部下に発破をかけてやらんと」
静かな空間のなか、誰かの話し声が聞こえた。
周囲の人間がちらりとそちらを見る。
するとそこにいたのは、王宮騎士団長と王宮魔法士団長。
予想外の大物に思わず目を見開く。
そして純粋にすごいと思った。
国の最高戦力である彼らに、そう言わしめた二人が。
自分も彼らに近づきたい。
「「「⋯⋯」」」
どうやら考えること同じようで、そこからはみなが闘技場の中心で行われている戦いをくいるように見ていた。
◇◇◇
「し、試合終了!」
試合終了ギリギリの時間。審判によって試合終了が宣言された。
はたしてどちらが勝ったのか。
激しい戦いだったためか砂煙が舞い、二人の姿がよく見えない。
固唾を飲んでその時を待つ。
「あっ」
砂煙が少しずつ晴れてくる。
「嘘だろ⋯⋯」
「こんなことが⋯⋯」
そして完全に晴れた先にあったのは、互いに剣と魔法を突きつけ合う二人の姿だった。
「ほぅ」
「信じられない⋯⋯」
大人からは感嘆が、生徒からは驚愕の声が上がる。
「この試合は引き分けです!」
審判が勝敗を宣言した。
けれど結果はこれまで一度もなかった引き分け。
この結果をどう受け止めればいいのかと、ざわざわと観客席に戸惑いが広がっていく。
「⋯⋯おい、あれ見ろ」
しかしそれもほんの少しの間だけ。
誰かの声につられ、闘技場の中心へと視線を向けた。
「えっ」
驚くことに周囲の戸惑いなど気にする様子もなく、二人は固く握手を交わし、互いの健闘を讃え合っていたのだ。
犬猿の仲と言われる、騎士科と魔法科だというのに⋯⋯。
「学園が変わるな」
「ああ」
「!」
騎士団長と魔法士団長の言葉に、周囲の生徒が息を呑んだ。
たしかに先ほどの試合は、これまでの学園内のあり方とはまったく違う。
剣と魔法は優劣をつけるものではなく、互いを補い合うものだというのがよく分かった。
⋯⋯でも分かっただけではダメなのだ。
これまでの意識を変えなければ、いつしか一人取り残され――
「二人ともお疲れ様でした!」
その時だった。観客席の下の方。治癒士が待機している場所から声が聞こえてきたのは。
そうだ。思うことも考えることもたくさんある。
けれど今は、この素晴らしい試合を終えた二人を讃えなくては。
みなもハッとしたようにその場から立ち上がる。
そして一人、また一人と手を打つ音が重なり合っていった。
「すごかったぞ!」
「手に汗握ったぜ!」
「素敵でしたわ!」
彼らの勇姿を讃える言葉。
それらが一つの音となり、会場中に響き渡る。
――ワァァァ!
鳴り止まぬ歓声に二人は顔を見合わせたあと、誇らしげに観客席へと手を振る。
どちらかが勝ったわけではない。
それなのに二人のその姿はあまりにも眩しかった。
「僕もいつか⋯⋯」
たくさんの人の心に、熱い何かを残したこの年の冬の大会。
こうしてまた新たな伝説が語り継がれていく。




