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「元気にしてるかな……」
テーブルの上に置かれた魔道具を見つめながら、そう独り言ちた。
これはアナベルにプレゼントした電話の魔道具と同じもの。
一日の終わりにこれを見つめるのが、ここ半年の私の日課となっていた。
「でももう半年だよ?いくらなんでも長すぎじゃない?」
実はこの魔道具、プレゼントしたのはアナベルだけではない。
ディランとマーサ、そしてアンナ。
私の大切な家族にもプレゼントしている。
それともう一人、とても大切な人にも……
「ジークのバカ。……早く会いたいよ」
あの告白から数ヵ月後、私とジークは付き合うようになった。
毎日隙あらば口説いてくるジークに負けた……いや、いつの間にか一人の男性として好きになっていたのだ。
ただ付き合い始めてすぐ私が帝国に行ってしまったので、絶賛遠距離恋愛中である。
それでも毎日連絡を取り、長期休暇の度に会っていたので寂しくはなかった。
しかし今から約半年前。
『しばらく連絡できなくなるけど、心配しないでくれ』
そう言って連絡が取れなくなってしまったのだ。
最初はギルドで長期の依頼でも受けたのかなと思っていた。
長くても一ヵ月くらいのことだろう、そう思っていたのに気づけばもう半年。
家族にジークの行方を聞いても、誰も知らないと言う。
一体ジークはどこで何をしているのか。
それに無事なのか、元気なのか……
だから私はいつでも連絡が来てもいいようにと、こうして毎日待っているのだ。
「……そろそろ寝ないと」
明日は教師生活最終日。
絶対に寝坊するわけにはいかないと、魔道具を片付け寝ようとしたその時。
――ピピッピピッ
魔道具が音を出して光った。これは連絡が来たときの合図だ。
私は急いで魔道具を起動させた。
「ジーク!?」
こんな時間に連絡をしてくるのは、彼しかいない。
『久しぶりだな』
「~~っもう!今まで何をしてたのよ!?まったく連絡も寄越さないで!」
『リ、リア?』
「一体何を考えてるのよ!ねぇ、待つ人の気持ちを考えたことある?」
『ちょ、ちょっと落ち着い』
「落ち着いてられるわけないじゃない!どれだけ心配したと思ってるのよ!」
『っ!』
久しぶりに耳にするジークの声。
ああ、よかった。彼は無事だった。
無事が分かった途端、一気に感情が溢れてくる。
「ぐすっ……ジークのバカ」
『リア……』
泣くなんていつぶりだろう。
久しぶりすぎて泣き止みかたが分からない。
「……ごめんなさい」
それからしばらくして、ようやく泣き止むことに成功した私は、ジークに謝罪した。
いくら心配していたとしてもあれはなかった。
もっと他に言い方はあるのに、あんな言い方しかできないなんて。
本当に私は可愛げがなくて嫌になる。
こんなんじゃジークに嫌われちゃうかもしれない。
もしそうなったら私はどうすれば……
『いや、悪いのは俺だ。だからリアが謝る必要なんてない』
「でも」
『心配かけてごめん。それと待っていてくれてありがとう』
「ジーク……」
『……なぁリア。今時間大丈夫か?』
「今?ええ、大丈夫だけど……どうしたの?」
本当はそろそろ寝ようと思っていたけど、わざわざそんなことは言わない。
今は寝ることよりもジークとの時間が大切だ。
『あのさ、ちょっとだけ窓から外を見てくれないか?』
「外?」
『ああ』
何を言い出すのかと思えば、ジークは部屋の窓から外を見てほしいと言う。
外を見たってただ真っ暗なだけなのに、一体何を考えているのか。
分からない。だけどせっかく久しぶりに声が聞けたのだ。
ここは素直に彼の言葉に従ってみるのもいいだろう。
私は部屋の窓の前に立ち、カーテンを開けた。
すると外は思ったよりも暗くなく、むしろ明るい。
どうやら今日は満月のようだ。
「わぁ……月がきれい」
『だろう?』
「ええ。でも月がどうしたの?きれいだけど別に見ようと思えばいつでも見れるって……え?嘘……」
外を眺めながら話していると、一ヵ所だけさらに明るく光っている場所があることに気がついた。
あれはなんだろう。そう思い目を凝らしてみる。
月の光を浴びて輝く銀髪に、夜であっても決して見失うことのない力強い紫の瞳……
なんとそこにいたのは、ずっと会いたいと願っていたジークその人だった。




