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二年後。
私はあのあと帝国へと渡り、帝国屈指の教育機関であるレインスロー高等学院で様々なことを学んだ。
「先生さようなら」
「はい、さようなら。気をつけて帰ってね」
ただしそれは教師として、であるが。
本当は生徒として学院に通う予定だったのに、どうしてそうなってしまったのかというと……
『さすがワシの孫!学院の入学試験で満点を取るとは!これは祝わないと……』
『でもお祖父様。満点を取れるような人に教えられることは何もないから、入学はできないって……』
入学するために試験を受けてみれば、結果は満点。
どうやら相当難しい試験だったようで、これまで満点を取った人は誰一人としていなかったとか。
しかしまさか満点を取ったせいで入学できないとは思ってもいなかった。
まさに青天の霹靂である。
でもこのまま何もできず帰るわけにはいかない。
そこで以前帝国で学ぶことをすすめてくれたお祖父様に、相談することにしたのだ。
『これじゃあ帝国に来た意味が……』
『……まずいぞ。このままではダリアとのワクワクウキウキライフが……はっ!そうだ!』
『お祖父様?』
『それなら教師になるのはどうだ?いい経験になるんじゃないか?』
たしかにそうかもしれない。
冒険者に魔道具師に商会長、それに学生。
これまで様々な経験をしてきたけど、教師は完全に未知の領域。
それならきっとたくさんのことを学べるはず。
『私、教師になります!』
こうして私は当初の予定を変更し、この二年間を教師として過ごすことになったのだ。
◇
「アメリア先生!」
ちなみにアメリアというのがここでの私の名前だ。
歩いているところを生徒に呼び止められ、私は立ち止まった。
「どうしたの?」
「先生!噂で聞いたのですが、学園を辞めるって本当ですか?」
「あら、そんな噂が流れているのね。別に隠してた訳ではないけど、辞めるのは本当よ」
「そうなんですか……。先生の授業好きだったのに……」
「ふふっ、そう言ってもらえて嬉しいわ。ありがとう」
学ぶことも多いし、生徒たちも可愛い。
だからもう少しここにいたいという気持ちもある。
でも最初から二年が経てば、王国に戻ると決めていた。
この二年、思い返してみると本当にあっという間で充実した日々だった。
そういえば帝国に来て一年が経つ頃、王太子とメルリルの婚約が発表された。
メルリルは上級貴族イエロー家の令嬢。
王太子の婚約者としてふさわしいし、病気も治っているので健康面も問題ない。
年下であるメルリルの学園卒業に合わせて、結婚式をあげるそうだ。
どうか王太子はよそ見などしないで、メルリルだけを生涯大切にしてほしい。
メルリルの兄フィンメルは、将来宰相になるべく頑張っているそうだ。
それに最近医学を学び始めたらしい。理由は私に感化されたからなのだとか。
なぜ私がこんなことを知っているのかというと、実はメルリルと手紙のやり取りをしているから。
相変わらず兄妹仲がよく、きっと将来は宰相と王妃として、カラフリア王国を支えていってくれるだろう。
それからランドルフとマティアス。
二人は最終学年で臨んだ大会、剣術はランドルフが、魔法はマティアスが優勝を果たした。
そしてその後に行われた優勝者同士の試合は、今までにないほどの白熱した試合だったそうだ。
アナベルがすごく興奮して教えてくれたけど、私も見てみたかった。
ランドルフは以前から魔法を使う訓練をしていたし、マティアスも接近戦闘の訓練を秘密裏にしていたらしい。
あの仲良し二人ならこれからも互いに切磋琢磨し、目標を実現するに違いない。
そして私の元兄であるダミアン。
私が知っているのは学園卒業後、父親の補佐をしながら領地経営を学んでいることくらいだ。
他のことは知らないし興味すらない。
あと知っているのは、まだお祖父様の許しを得られていないということだけ。
果たして彼らは許される日がくるのだろうか。
もちろんアナベルとの友情は今でも続いている。
帝国に来る前に、電話をイメージして作った魔道具をプレゼントしている。
普段はそれを使って頻繁に連絡を取り、長期休暇の時は、アナベルと家族に会いに王国に戻っていた。
そんなアナベルは学園に通いながら、ローズ商会の運営する診療所で治癒士としての経験を積んでいる。
いつも明るく真面目で笑顔を絶やさないアナベルは、診療所の看板娘になっているとアンナが言っていた。
アナベルはきっと、いや間違いなく多くの人の病気と傷、そして心を癒す素敵な治癒士になれると私は確信している。
……たかが二年、されど二年。
私にとってもみんなにとってもこの二年間は、将来や目標に向かって進んでいく、とても大切な時間となったようだ。