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「それにしても一年ってあっという間だったわね」
「っ!そう、ですね……」
ん?なんだか反応がイマイチなような……
「あと一週間で終業式だなんて、なんだか実感が湧かないわ」
「……」
あ、あれー?
私なにか変なこと言っちゃった?
「ベ、ベル?」
「……ダリア様と一緒に卒業したかったです」
「あ……」
そうだった。なんで忘れてたんだろう。
普通は一年生が終われば、次は二年生に進級する。
でも私は二年生に進級しない。
「ごめんなさい」
「っ!わ、私の方こそすみません。ダリア様がいなくても頑張るって決めたのに……」
私は終業式を以てこの学園を退学する。
そしてパレット帝国に行くことを決めた。
だからアナベルと一緒に二年生になることも、卒業することもできない。
アナベルはそれを悲しんでくれているのだ。
「ベル……」
私?もちろん私だって悲しいし寂しい。
じゃあそれならなんで学園を辞めるのかって?
それはもうこの学園で学べることがあまりないから。
このままここにいても得られるものは少ない。
それなら思い切ってパレット帝国に行って、見聞を広げたいと思ったのだ。
私はギュッとアナベルを抱きしめた。
「ダ、ダリア様!?」
悲しませることは分かっていた。
それでも私は自分の可能性を広げたい。
そしてもっともっと自由に生きていきたい。
「私もベルと離れるのはすごく寂しい」
「ダリア様……」
「でもね、必ずベルのところに戻ってくるって約束する」
「っ」
「だから待っててくれる?」
離ればなれにはなるけど、心はいつでもそばにいる。
「ぐすっ……はい、待ってます。ずっとずっと待ってます」
アナベルは泣いていた。
「ありがとう。……ほら泣かないで。きれいな目が赤くなっちゃ……ってベル。あなた瞳の色が……」
涙を拭いてあげないと。
そう思い手を伸ばした時、違和感に気づいた。
「え……?」
「瞳の色が青に……あ」
そこまで言ってハッとした。
そうだ。ヒロインの瞳の色……
これにはある設定があったんだった。
「この色って……」
鏡を見て驚くアナベル。
そう、ヒロインの瞳は最後に選んだ攻略対象の色に変わるのだ。
青であれば、ダミアンを選んだということになるが……間違いなくそれはない。
じゃあこれは誰の色?
青の色を持っていて、アナベルと近しい人物。それはきっとこの世界に一人しかいないだろう。
「……もしかして私?」
まさかこんなことがあるなんて。
アナベルは、私を選んだってこと?
「嘘……ダリア様と同じ色だなんて……」
でもアナベルは戸惑っているみたい。
いや、もしかしてショックを受けてるのか?
「ベル、大丈――」
「ゆ、夢みたいです!」
「……へ?」
「ダリア様と同じ色だなんて……きゃー!」
大丈夫かと聞こうと思ったけど、これは大丈夫なのか?
私にはすごく喜んでるように見えるけど……
「ベ、ベル?」
「はっ!す、すみません!嬉しすぎてつい……」
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにうつむくアナベル。
……なにこれ。
ありえないくらい可愛いんですけど!
私と一緒で嬉しいの?本当に?
「ふふっ、私も嬉しいわ。まるで姉妹みたいね?」
私が姉でアナベルが妹かな?
「姉妹……!」
果たしてこれは私が攻略したのか、はたまたアナベルに攻略されたのか……
実際のところは分からない。
でもこの青が、私とアナベルを繋いでくれている。
それだけはたしかな事実。
そしてその事実は、私の心を温かくしてくれた。
「寂しくなったらいつでも連絡して。それに困ったことがあればすぐに飛んでいくって約束する。だからベルはここで。私は帝国で。お互いに望む未来に向かって頑張りましょう」
「はい!」
私たちは互いの小指を絡ませ、約束を交わした。
そうしていつしか夜は更けていき、気づいた頃には運命の一日は終わっていたのである。




