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時は流れ、学園は冬季休暇に突入した。
前世の世界と同じく、夏季休暇に比べて冬季休暇は短い。
もちろんこの休みも家に帰ってきている。
大好きな家族と過ごせるのはすごく嬉しい。
だけど今だけは、ここから逃げ出したくて仕方がない。
それはなぜかって?それはね……
「もう二人とも!その目と口をどうにかしてちょうだい!」
二人というのはディランとマーサのこと。
「はて何のことでしょうか?なぁマーサ」
「ええディラン。私たちには何のことだか分かりませんわ」
嘘だ。この反応は絶対に分かってる。
私を見る目が生暖かくて、口がにやけていることをね!
「分かってるくせに!」
「ほっほっほっ」
「うふふふ」
「……」
これは完全にからかわれている。
どうしてこんな状況に……いや、原因は分かってる。
原因は数日前、冬季休暇が始まってすぐのあの出来事だということを。
◆
その日、私は久しぶりにリアとしてギルドの依頼を受けていた。相棒のジークと一緒に。
ただ依頼を受けたはいいものの、そこはS級冒険者が二人。
あっという間に依頼を達成してしまい、時間に余裕ができてしまった。
どうしようかと悩んだ末、私たちは久しぶりに手合わせをすることにしたのだ。
『……リアは本当に才能の塊だな』
手合わせの最中、突然そんなことを言い出したジーク。
まぁ私に才能があることは否定しない。
でもそれはジークも知っていることだし、なぜ今さらそんなことを言い出すのか分からなかった。
『急にどうしたの?』
『……いや、最近また剣の腕を上げたなと思ってな」
今回は剣だけという制限をつけて手合わせ。そして今は打ち合いの真っ只中だ。
『あら。ジークにそう言ってもらえるなんて嬉しいわね』
ジークは私の剣の師匠でもある。だから褒められるのは素直に嬉しい。
『それに引き換え俺は……はぁ、男として情けないな』
どうやらジークは自信をなくしているらしい。
ジークはこれっぽっちも情けなくなんかないのに……ここは相棒として元気づけてあげないと。
そう思って私は口を開いた。
『何を言ってるの。性格も容姿も肩書きも完璧で、剣も魔法も一流。ジーク以上に素敵な男性なんていないわよ』
『っ!リ、リア、それはどういう』
『むしろ問題があるのは私の方よ』
『……は?』
『ほら私って愛嬌もないし、愛らしさの欠片もないでしょう?それに男性からすれば強すぎる女性って嫌だろうし。あーあ、きっとこんな女は誰からも相手にされな――』
――ガキン!
『っ!?ジ、ジーク?』
突然ジークの様子が変わった。
一体どうしたのかと顔を見る。
するとジークは、今まで見たことないほどに真剣な表情をしていた。
『……リアは自分のことをそんな風に思っていたのか?』
これはもしかして怒っている?
あれはただ事実を言っただけで、別にジークが怒るようなことなんて何もないはずだ。
『えっと、そんな風というか自分を客観的に見た事実というか……」
『リアは最高に素敵な女性だ!だから自分を貶めるようなことは言うな!』
『ジ、ジーク?あなた一体どうしちゃっ――』
『好きだ』
『……え?』
『リアのことが好きだ』
これってまさか愛の告白……かと一瞬思ったけど、相手はジークだ。
きっと家族として好きってことを言いたかっただけ。
そう思ったのに……
『家族としての好きじゃないからな』
『えっ』
『俺は一人の女性としてリアのことが好きなんだ』
『う、そ……』
もちろんジークのことはもちろん好きだ。
ただ私はこの世界に転生してから、自由を手に入れるために無我夢中になって進んできた。
だから恋愛どころじゃなかったし、前世で浮気された経験から、正直言って恋をしたいとも思えなくなっていた。
それが今になってまさか愛の告白だなんて……
『嘘なんかじゃない。リアがそういうことに興味が無いことは知っていた。だからこの気持ちも伝えるつもりはなかったんだ』
『じゃ、じゃあどうして?どうして今になってそんなこと言うの?』
ジークは大切な家族だ。
だから告白なんて聞きたくなかった。
この関係が壊れてしまったら……そう思うと怖い。
『さっきの言葉を聞いたら黙っていられなかったんだ』
『……』
『リアが好きだ。リアが世界で一番最高な女性だって俺が証明してみせる』
なぜだか心臓がドキドキするし、顔も熱い。
こんな情熱的なジークを見るのは初めてだから?
もちろん好きと言われて嬉しくないわけがない。
でも今の関係が壊れるのも、恋をしてまた捨てられるのも嫌なのだ。
『ジーク、私』
『なぁリア。俺に時間をくれないか?』
『……時間?』
『ああ。俺にリアを口説く時間をくれ』
『く、くど……!?』
ジークは平然と言ってのけたが、あまりにも真っ直ぐな言葉に私の方が恥ずかしくなってしまった。
『俺のことを一人の男として見てほしい』
『なっ!』
『覚悟しておくんだな、リア』




