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今なんか意味不明な言葉が聞こえたんですけど……
え?私が王太子とダンス?ないない!
誘ってくれた手前ちょっと申し訳ないなとは思うけど、これは断る一択でしょ。
「その、一曲だけでも」
「えっと、申し訳ありませんが私」
今日は誰とも踊るつもりはありません。そう言おうとしたんだけど……
「師匠!俺とも踊ってください!」
「私も君と踊りたいのだが……」
「ぜひ私とも踊っていただけませんか?」
ランドルフ、マティアス、それにフィンメルまでもが、私にダンスを誘ってきたのだ。
ちょっと、これどうなってんの!?
悪役令嬢がイケメン攻略対象四人から手を差し出されている状況って……
「「「「私(俺)と!」」」」
これはどうすればいいの?
だ、誰か助けてー!
「ダリア様お待たせしました!」
きっと私の切実な想いが通じたのでしょう。
なんと目の前に救世主が!
「ベル!」
もちろん救世主とはアナベルのこと。
アナベルが両手にグラスを持って戻ってきたのだ。
「あの、この状況は一体……」
そりゃそういう反応になるよね。
救世主は現れたけど、この状況を打破するには……あ!これならいけるんじゃない?
さぁ落ち着いて落ち着いて……
「おかえりなさい。飲み物ありがとう」
「い、いえ!遅くなってすみません」
「大丈夫よ。みんなで楽しくお話ししていたから」
「みんなで楽しく……?……えっと、みなさんはどうしてこちらに?」
さすがアナベル。持つべきものは親友だね!
そうだよね、おかしいよね?
彼らとは普段の学園生活であまり、いやほとんど関り合いはない。
あるとしても同じクラスのマティアスくらいだ。
それなのに楽しくお話ししてたって言われたら、不思議に思うよね。
「実はね、みなさんからダンスのお誘いを受けていたの」
「わぁ!そうだったんですね!」
「ええ。でもね私、踊る人はもう決めているのよ」
「「「「え」」」」
ごめんなさい。
別に嫌いではないけど、あなたたちと踊るつもりはないんです。
「ダリア様と踊れるなんて、その人が羨ましいです!」
「ふふふっ、そう?そう言ってもらえて嬉しいわ。じゃあ……」
私はアナベルの前に手を差し出した。
「どうか私と踊っていただけますか?」
「え……わ、私ですか!?」
「ええ」
「でも私、ダンスが苦手で……」
「心配しないで。しっかりリードするから、ベルは私に身体を委ねてくれれば大丈夫よ。ねっ?」
ここでバチッとウィンクを決めてっと……お願い!どうか私の手を取って!
「はわわ……ダリア様素敵すぎます……。わ、私でよければどうぞよろしくお願いします!」
そう言ってアナベルは私の手を取ってくれた。
よかったぁ……よし、それじゃあここからさっさと離脱しましょうか。
「というわけで皆様。お誘いは大変嬉しいのですが、私は彼女と踊りますのでこれで失礼します」
さぁここからは強行突破だ。
「さぁ行きましょう」
「は、はい!」
平民が王族や貴族からの申し出を断るなんて不敬だって言われるかもしれないけど、もう今さらよね!
「ダリアローズ嬢!」
「えっ、し、師匠!?」
「ま、待ってくれ!」
「タイミングが悪かったか……」
後ろから色々聞こえるけど、振り向きはしない。
だって私はあなたたちじゃなくて、彼女を選んだの。
だから……ごめんあそばせ?




