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「このあとはダンスパーティーね」



 屋台で買った食べ物を食べ歩きしながら、このあとの予定を口にした。

 学園祭の後夜祭として、夕方からダンスパーティーが開催されるのだ。あ、こっちは学園主催ね。



「ダンスですか……」



 ダンスパーティーと言った途端、アナベルの様子がおかしい。



「ど、どうしたの?気分でも悪いの?」


「……」



 黙ったまま首を横に振るアナベル。

 どうやら体調が悪いわけではないらしい。

 それならよかったけど、急にどうしちゃったのかな?



「ベル?」


「……実は私、ダンスが苦手なんです」


「え、そうなの?」



 意外だ。

 まさかアナベルがダンスを苦手にしているとは……いや、それは私の偏見か。

 アナベルはヒロインだから何でもできるって無意識に思っていたのかも。

 そりゃ誰だって苦手なことの一つや二つはあるよね。

 私だって朝早く起きるの苦手だし。


 でもこの場合、どうやって元気づければ……あ。

 そうだ、アレがあったんだった。

 まだ少し時間は早いけど、いいよね?



「はぁ……」


「ねぇ、ベル。今から貸衣装の店に行かない?」


「……貸衣装のお店、ですか?」


「ええ」



 実は今日、ローズ商会の服飾部門も学園に来ている。

 学園祭自体に服飾部門は関係ないんだけど、ダンスパーティーがあると聞いて急遽手配してみたのだ。

 学園の生徒の多くは貴族だ。でも少数と言えど平民の生徒だっている。

 そうするとダンスパーティーのためだけに、ドレスを用意するのは難しい生徒も出てくるはず。


 そこでローズ商会の出番だ。


 パーティーには制服で参加してもいいとはなっているけど、せっかくのお祭り。

 できれば最後まで楽しんでもらいたい。

 ということで、ドレスや燕尾服の貸出を行うことに決めた。

 それを学園内でお知らせすると、平民の生徒は大喜び。

 貴族の生徒も羨ましがってたな~。まぁ憧れのローズ商会だもんね。

 さすがに生徒全員は無理なので、貴族の生徒には次回購入する時に割引になる特別クーポンをあげました!

 ……まぁ少しくらいは営業しないとね?



「でも私……」


「私のドレスがそこにあるのよ。だから一緒に行かない?」


「あ……」



 アナベルも忘れていたようだけど、今の私は正真正銘の平民。

 そして学園で私がローズ商会の会長だと知ってるのは、アナベルと王太子だけ。

 だから堂々と行っても問題ないのだ。



「それにベルにお願いしたいことがあるの。だから、ね?」


「ダリア様からのお願い……!わ、分かりました!」


「ありがとう。たしか場所は……こっちね」



 私のドレスがあるのは間違いなのだけど、目的はそれではない。

 目的はアナベルを元気づけるため。

 じゃあなんで貸衣装の店に行くのかというと……



「わぁ……素敵」


「ふふっ、よく似合ってるわ」



 うんうん、すっごく可愛い!

 実はアナベルにプレゼントしようと、ドレスを用意していたのだ。

 可愛い服を着れば、自然と気分が上がるもの。



「でも……」



 ん?



「私なんかが、こんなに素敵なドレスをいただくわけには……」



 ……だよね。

 真面目で謙虚なアナベルならそう言うと思ってました。

 だからちゃんと対策は考えてあります!



「実はねこの生地、今度商会で新しく売り出すものなのよ」


「えっ、そうなのですか?」



 アナベルのドレスには、動く度に色が変わって見える生地を使っている。



「ええ。それでねさっき言ってたお願いなんだけど、ベルには宣伝をしてもらいたいの」


「宣伝……」



 これが私の考えた対策だ。

 この生地は私がアナベルをイメージして作ったもの。

 だから本当は売るつもりはなかったんだけど、申し子(アンナ)が許してくれませんでした。

 そこをなんとかって頼み込もうとしたんだけど……


『この生地は誰が見ても高価だって分かります。それで作ったドレス……アナベルさんは受け取ってくれますかね?』


 はい、私もそう思います。

 この言葉に私は白旗を上げましたよ。


 アンナの言う通りこの生地はかなりいい値段がするし、ただでさえドレスは高価なもの。

 受け取ってもらえなければ、そもそも意味がない。

 じゃあどうすれば……それで考えたのが、アナベルに広告塔になってもらおう作戦だ。

 これならアナベルもドレスを受け取ってくれるはず!



「ぜひ協力してもらえないかしら?」


「も、もちろん協力させてください!」


「本当?嬉しいわ」


「でもそれが終わったらドレスはお返ししま――」



 よし、これで止めだ。



「そのドレスはベルに合うように作ってあるの。もし返されても他の人では着れないし、もう捨てるしか……」


「えっ」


「それにこのドレス、私がデザインしたものなんだけど……それじゃあ仕方ないわね」



 ここでチラッと視線を向けてっと……

 どうだ!私の迫真の演技は!



「ダリア様のデザイン!?……ダ、ダリア様!」


「……なぁに?」


「そ、その……よろしければこのドレスいただいても……」



 よし!



「もちろん!私もベルに受け取ってもらえたらすごく嬉しいわ」



 こうしてドレスをめぐる攻防は、私の勝利で幕を閉じたのだった。


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