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ダミアン②

 

 王太子殿下との顔合わせがあった日の夕方、父に執務室に呼ばれた。

 きっと婚約が調った報告だろう。私は足取り軽く執務室へと入ったが、なんだか様子がおかしい。

 父の顔色は悪く、なぜだか急に老け込んだように見えたのだ。



『理由は……言えない』



 顔合わせの場で一体何があったのか。

 どれだけ聞いても頑なに理由を教えてくれない父。

 それどころか、さらに衝撃的な話を口にした。



『……アレが家からの除籍を願い出ている』



 除籍すれば貴族ではなくなる。妹はそんなことも分からないのか?



『それと学園は寮から通うと』



 なんて自分勝手なんだ。これまで家に置いてやった恩を忘れたのか?

 私は怒りに震え、今すぐ妹のいる離れへ向かおうとした。しかしもう離れにはいないと言う。


 なぜ?


 一体何が起こっているのか。

 突如言い知れない不安に襲われたが、どうすることもできない。


 ただ最後に父から強い口調で



『学園でアレに関わるな』



 そう言われれば従うしかなかった。




 ◇




 妹が学園に入学しても関わるどころか姿すら見ることなく、一ヵ月が過ぎた。

 学年が違うから今後も関わることはないだろう、そう思っていたのに、ある日父から妹を一度家に連れてくるようにと指示を受けた。


 怒りはある。だがそれよりも不安の方が大きくあまり気が進まなかった。

 それでも父からの指示を無視するわけにもいかないと、妹のいる教室へと行ったが、結局その日は連れて帰ることはできなかった。


 そもそも私のことを知らないと言う妹。


 信じられなかった。

 たしかに顔を合わせるのは初めてだが、私は兄だぞ?そんなことがあるのか?

 私は昔一度だけ姿を見たことがあるから青い髪を見てすぐに妹だと分かった。

 それに私はブルー家の次期当主。学園で知らぬ者はいないというのに。

 しかも兄に対して謝罪しろと無礼なことを言い出し、恥をかかせる始末。


 ただ教室では分が悪かった。

 だから次は門の前で帰るところを捕まえようと待っていたのに……



『じゃあ私は行くから』



 そう言って目の前から消えてしまったのだ。

 驚きでしばらくその場から動けずにいたが、待たせていた馬車に飛び乗りタウンハウスへと向かう。

 しかし私がたどり着いた時には、すでに妹の姿はなく、頭を抱え何かを呟いている父しかいなかった。


 結局妹はブルー家から除籍となり、平民となった。

 なぜ書類にサインしたのかと問いただしても、父は黙ったまま。

 婚約が白紙になったあの日から、一体何がどうなっているのか。

 何かがおかしい。

 ただそうは思うものの、何も分からないまま日々を過ごしていき、気づけば剣術大会の時期がやってきていた。


 剣術大会には毎年参加している。

 だから今年も参加することにはしたが、もちろん端から経営科の私が優勝できるとは思ってはいない。

 どうせ優勝するのは騎士科の生徒に決まっているのだから。

 運良く準決勝あたりまで行けたらいい。

 そう思って参加したのに、まさか妹と対戦することになるなんて思いもしなかった。


 もちろんトーナメント表に妹の名前があるのは知っていた。

 それを見た時はなぜ参加したのか疑問に思ったが、どうせすぐに負けるからとすぐに意識の外へと放り出してしまったのだ。


 しかし目の前には私と同じ髪色をした女が立っている。

 ただその姿があまりにも堂々としていたからか、気づけば私の口から言葉がこぼれていた。



『……お前さえ産まれてこなければ、みんな幸せになれたんだ』



 なぜ母は命を懸けてまで妹を産んだのか。

 私は妹ではなく、母に生きていてもらいたかったのに。


 絶対に打ち負かしてやる、そんな想いで望んだ試合だった。

 しかしその想いは砕け散り、私は無様にも負けてしまう。

 それに暇だからと話し出したあの話……あれは一体何だったのか。


 お姫様と貴族?それはまるで母と父のような……


 それ以上は恐ろしくて何も考えたくない。

 考えたくないのに、数日後私のもとに一通の手紙が届く。


 差出人のないその手紙には、こう一言だけ書かれていた。



 "娘の子はダリアローズただ一人だけ"



 誰からの手紙かなんてすぐに分かった。

 これは祖父からの怒りの手紙だ。

 簡潔すぎる手紙に、祖父の怒りを感じずにはいられなかった。


 手の震えが止まらない。


 私も父も間違ってしまったのだ。

 どこで間違ったのかは分からないが、どうすれば許してもらえるのか。


 答えの出ない問いに、私の目の前は真っ暗になった。

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