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「陛下、発言してもよろしいですか?」
「……うむ、許そう」
「ありがとうございます。この度は私を王太子殿下の婚約者にということですが、私は父から疎まれていたせいか、まともな教育を受けたことがありません。そうすると私では王太子殿下をお支えするには力不足と考えますが、陛下はどうお考えですか?」
「ふむ……」
「チッ」
恥をかかされたとでも思ったのか。何やら父が舌打ちしてこちらを睨み付けているが、そんなもの痛くも痒くもない。
さて国王はどう考えているのか。
「……まぁそうだな。それはこれから寝る時間や食事の時間を削ってでも勉強すればいいだけのこと。教師はこちらで用意してやろう。しっかり学ぶがいい」
「陛下……!このような者に過分なご配慮ありがとうございます!」
国王の発言に父はホッとしたようだが、私からすれば残念だ。
国王も私が家族から疎まれてるのは、当然知っているはず。だけど国王はそのことについてどのよう考えているのか、どんな答えが返ってくるのか期待してみたが、とんだ期待外れだ。
私の中の国王の評価がだだ下がりしている最中、王太子が追加で余計なことを言ってきた。
「そもそも貴様に王妃としての役割は求めていないぞ?貴様はただお飾りでいればいいんだ」
本当にこの人たちは、私のことをなんだと思っているのだろう。この短い間に、どれだけため息を我慢していることか。
それにわざわざ私は何も教わってないので何もできない、そう教えてあげたのに、カーテシーや言葉遣いなど、なぜ習っていないことができるのか、誰も何も疑問に思わない。
挨拶や言葉遣いは、一朝一夕でできるものではない。どうしてそれに気づかないのか。自分たちだって、幼い頃から学んできたからこそできるだけなのに。非常に残念だ。
教育を受けさせてこなかった張本人も、まったく気づいていない様子。これは本当にダリアローズに興味が無いんだなと、改めて理解した。
そにしてもこの時間は無駄すぎる。これ以上はやってられない。さっさと終わりにしよう。
「陛下と王太子殿下のお考えは分かりました」
「うむ。では」
「ですがお断りさせていただきます」
「……は?」
「お前!」
先ほどまでの偉そうな表情が崩れ、断られるなんて夢にも思っていなかった国王は呆然とし、父は一瞬で顔を赤くして怒っている。
(でもこれじゃ全然面白くないわね)
それならば代わりに私が面白いものを見せてあげるとしよう。
さぁこれが私が九年かけて手に入れた力だ。
「私は忙しいのでこんな無駄な事に時間を使うのはこれが最初で最後です。よくお聞きになってくださいな」
「ぶ、無礼だぞ!」
「ふふっ。不敬罪で罰したいのならどうぞ?まぁそんなことできないとは思いますが」
「何っ!?」
……ああ、いけない。溜まっていたストレスのせいで余計な言葉が出てきてしまう。今はとっととこの人たちに現実を見せてあげなければ。
「ゴホン……文句はあとで聞きましょう。さて陛下、本題に入りますが、先ほど初めてのご挨拶をさせていただきましたよね?」
「それが何だと言うのだ」
「実は私、陛下と会うのは初めてではないんです。これまでに三度お会いしているのですが、覚えておられますか?」
「戯れ言を。そなたに会うのは間違いなく今日が初めてだ」
「あら……。はぁ、それなら仕方がないですね。今から説明して差し上げますから、どうかお静かにお願いしますね?」
「貴様……んっ!?」
「静かにとお願いしたのに……」
うるさいと話が進まないので、魔法で口を閉じてもらった。ついでに王太子と父も。皆なにかもごもごと言っているが、気にせずに話を進めよう。
「では……まずは一度目ですね。一度目にお会いしたのは今から六年前のことです」
――パチン
指を鳴らすと、徐々に私の姿が変わっていく。先ほどのように、わざわざ魔法を使うのに指を鳴らす必要はない。ただなんとなく雰囲気でやってみただけ。
無事に魔法が発動し終わると、私の姿は茶色の髪に赤い瞳の冒険者の格好をした女性に変わっていた。