ダミアン①
(どこで間違えたんだ……)
私――ダミアン・ブルーは絶望した。
◇
上級貴族であるブルー家の長子として生まれた私。
そんな私には誇りがあった。
それは自身にパレット帝国皇室の血が流れていること。
母は大国パレット帝国の皇女だった。その事実を知ったとき、歓喜した。私の未来は明るいと。
まだ祖父には一度も会ったことはないけれど、母を大変可愛がっていたと聞く。
だからきっと私のことも可愛がってくれるだろう。
しかしそんな私にも一つだけ汚点が存在する。
それがあいつ、ダリアローズだ。
母は私が二歳の時に亡くなった。
最初はなぜ母が亡くなってしまったのか理解できなかったが、父がよく『全部アレのせい』と言っていたのは覚えている。
(あれってなに?)
幼かった私は、純粋にその疑問を投げ掛けた。すると父はこう答えたのだ。
『アレが私たちから妻を、母を奪ったんだ』
父の話によると、アレというのは私の妹らしい。その妹は産まれてからずっと離れで暮らしているという。
母の執事と侍女が世話をしているそうで、その話を聞いた私は妹に興味を持った。
だからこっそり離れを見に行ってしまったのだ。きっと妹も母がいなくて悲しんでいるはずだと。
しかし私の目に映ったのは、侍女と楽しそうに笑う妹の姿で……
この時私は産まれて初めて怒りという感情を知った。
(あいつのせいで僕のお母様がいなくなったのに、どうして笑っているの?)
今なら幼い子どもが無邪気に笑うのは仕方の無いことだと分かる。でも当時の私は、その出来事により妹に敵意を向けるようになってしまう。
それに父も日頃から、『アレのせい』『アレさえいなければ』と言っていたので、妹を憎むことが正しいことだと思っていた。
手を出すことだけはしなかったが、父も私も妹をいないものとして扱うことにしたのだ。
◇
それから月日は流れ私が十七歳になると、妹に婚約の話が持ち上がった。
相手は王太子殿下。
ようやくこの家から追い出すことができる。そう喜んだが、ひとつだけ気がかりなことがあった。
それは祖父のこと。
祖父は皇帝の座はすでに退いているものの、いまだに大きな影響力を持っていた。
これまで妹を追い出せなかったのは、妹にも帝国皇室の血が流れているから。
皇室の血を簡単に市井に放り出すわけにはいかない。
ただ今回は王太子殿下との婚約だ。
それなら何も問題ないとは思ったが、ふと祖父はどんな反応をしたのか気になったのだ。
だから父に祖父には伝えたのかと尋ねた。
すると父は、手紙を送ったが何の返事もなかった、きっとアレのことなんて興味ないのだろうと言う。
その言葉を聞いて安心した。
祖父も母が亡くなったのは妹のせいだと思っているに違いない。
祖父も私たちの味方だ。
そう思うとなんだか心が軽くなって気分がよくなった……
……それなのにまさか婚約が白紙になるなんて。




