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先に攻撃を仕掛けるつもりのようだ。でも……
「く……うわっ!」
私はそれを軽々と避け、そのついでに王太子の足を払った。
するとバランスを崩した王太子の体の側面ががら空きに。
そこを剣で打ち込めば……しかしギリギリのところで王太子は体勢を立て直し、私の攻撃を防いだ。
「あら、やりますね」
「はぁはぁ……全く本気じゃないあなたに言われても嬉しくないな」
「ふふっ。たしかに本気は出してませんけど、なかなかの腕だと思いますよ?」
「お褒めいただけるなんて光栄だ、なっ!」
王太子は力ずくで剣を弾いてきた。
さすがに力は強い。魔法無しでは力で男性に勝つのは難しそう。
じゃあこれならどうだ。
「はっ!」
得意のスピードを活かした連続攻撃。
「くっ……」
王太子は攻撃を受け止めるだけで精一杯のようだ。
「じゃあ終わらさせてもらいますね」
「な……まだまだっ!」
勢い良く突いてきた剣をいなして背後をとる。そして王太子が振り向くよりも速く、剣を首に触れる寸前で止めた。
試合終了だ。
会場には歓声と悲鳴が飛び交っている。
……ありゃ、王太子ファンに嫌われちゃったね。
これはさっさと退場した方がよさそうだ。
「それじゃあ私はこれで」
「待ってくれ!」
ねぇ空気を読んで?
そもそも話すことなんてないのに、呼び止めるのはやめてくれ。
「……何でしょう?」
しかし残念なことに、ここには大勢の人の目がある。無視することはできませんでした。
「……」
「……あの」
「……」
話さないのならもう行くよ?
「何もないのでしたら失礼しま」
「ま、また!」
「はい?」
「……また私とこうして手合わせをしてくれないか?」
は?手合わせ?
……あ、もしかして剣の指導をしてほしいってこと?前に国王から頼まれて断ったから。
たしかにS級冒険者に指導してもらえれば、それだけで箔付けになるだろう。
だから私に指導してもらいたい気持ちは分かる。
でもね、私はそんなことに利用されるつもりはありません。
周囲に声が聞こえないように、そっと魔法を発動する。そして満面の笑みで答えた。
「お断りします」
「っ……どうしてもダメか?」
「ええ、どうしても」
謝罪は受け入れた。でもこれ以上関わるつもりはないの。
「い、一度だけで構わない!だから」
なんでそんなに必死なのかは分からないけど、これだけははっきり言っておいてあげよう。
「しつこい男性は嫌われますよ?」
イケメンだったらなんでも許されるなんて大間違い。
女性はね、しつこい男は嫌いなの。
「なっ」
「それでは失礼します」
私は優雅に一礼をして、会場をあとにしたのだった。
◇
残すは決勝だけ。対戦相手はランドルフだ。
ランドルフとは魔法を教えるついでに何度か手合わせをしたけど、回数を重ねるごとにメキメキと腕を上げていた。さすが剣担当なだけはある。
だから順当に行けば、優勝するのはランドルフだったはずだけど……
ごめんね。優勝するのは私なの。
それだけは変わらない。
さぁ、準備はできた。そろそろ始めようか。
「それでは決勝戦……始め!」




