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それから四回戦を危なげなく勝利し、残るは準決勝と決勝のみとなった。
まずは準決勝。
この山でまだ当たっていない攻略対象といえば……そう、王太子である。
『ハナキミ』のメインヒーローである王太子は、キラキラのイケメン。
それでいて頭もよく、剣の腕もたしかで、さらには権力も財力もあるときた。
だからモテないはずはない……でも前世の私は好きになれなかった。
なぜなら女性関係がだらしないから。
ローズ商会の運営する店に、毎回違う女性を連れてくるんだもん。
浮気されたことがある身としては、いくらイケメンでもアウトだ。
ただ優秀なことには間違いない。
顔合わせの時はずいぶん失礼なことを言ってくれたけど、一度だけは目を瞑ってあげよう。
でも二度目は容赦しませんからね?
会場に着くと、ちょうど王太子もやってきたようだ。
王太子の登場で会場が盛り上がっている。女子の声援がすごい。
まぁ見た目は極上だもんな~。
そんなどうでもいいことを考えていると、ふと王太子と目が合った。
「……ブルー嬢、いやダリアローズ嬢」
ん?何か言おうとして
「今さらだが謝罪させてほしい。あの日不快な思いをさせてしまい申し訳なかった」
「ちょ」
ちょっと待てーい!これは予想外だ。
まさか王太子が私に謝罪するなんて。しかもこんなところで!
まぁ百歩譲って謝罪することはいい。でもなんでこんな目立つところで言うのかな!?
誰かに聞かれたらどうすんの。面倒なことに巻き込まないでほしい。
「……あのですね?とりあえず謝罪は受け入れますけど、こんな場所で言うのはやめてくれます?私、平民なんですけど?」
もし不敬罪で訴えられたらどうしてくれるのか。めんどくさいことこの上ない。
会場が王太子の登場で盛り上がっていたから誰にも聞こえていないだろうけど、本当にやめてほしい。
「……次は気を付けよう」
次なんてあってたまるか。
「次はないですよ?……まぁ謝罪は受け入れましょう。でも約束はちゃんと守ってくださいね」
そうしないと国から出て行くよ?
「ああ、もちろんだ」
「……ならいいです。でも試合に負けるつもりはありませんから」
「分かっている。むしろ本気で相手してほしい」
本気でって言われても……
「それは……まぁあなた次第ですかね」
S級冒険者の私が本気を出したら秒で終わっちゃうって分かっているはずなのに、この人はさっきからどうしちゃったの?
「これは手厳しいな」
そう言って王太子が微笑んだ。
きっと顔合わせの時と比べ、こうも友好的な態度なのは、私の価値に気づいたからだろう。
「「「キャー!」」」
でもね、微笑む必要あった?
会場にいる女性たちの黄色い悲鳴がすごいことになってるよ。
仕方ない。
完全にアウェー状態の中、剣を構え試合開始を待つ。
「それでは準決勝……始め!」
合図と同時に王太子が駆け出した。




