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「――おしまい。どうでしたか?とても面白い話だったでしょう?」
この話を聞いて、この男はどんな感想をいだいたのだろうか。
「はぁ、はぁ……なんだ、そのふざけた話は!」
「ふざけた話ですか?」
「そうだ!私はっ、そんな話、聞いたこと、ない!」
「あら、もしかして心当たりでも?」
「あ、いや、ちがっ……」
まぁさすがに気づくか。この話が誰と誰の話なのかくらいね。
「ふふっ、この話はですね、とある国の尊いお方に教えてもらったんです」
「……尊いお方、だと?」
「気になります?」
「誰だ!そんなふざけた話を、口にしている、愚か者は!」
「ルドマルス・フォン・パレット」
「……は?」
まっ、そりゃそういう反応になりますよねー。
ここでその名前が出るなんて思いもしてないでしょうし。
「あら、聞こえませんでした?ルドマルス・フォン・パレット。パレット帝国の前皇帝陛下であり、私たちのお祖父様ですよ」
「お祖父様……?」
「ええ。あなたはお祖父様が愚か者だと?」
「い、いや、それは!」
たとえ血の繋がりがあったとしても、帝国の前皇帝陛下を愚か者だなんて、口が裂けても言えないだろう。
さぁそろそろおしまいにしましょうか。
「この話を聞いたときは驚きました。てっきりこの女の子は両親から望まれない子なのかと思っていましたから」
「……」
「本当は望まれて産まれてきた子だったなんてね。たしかにその子を産んで母親は亡くなったかもしれない。でもその子の両親は初めから一人目を産んだせいで二人目は産めないと言われていたし、もし産むつもりであれば命の危険があると覚悟していたはずなんです。それなのに……ねぇ?」
気づいているだろうが、この話は私の両親の話だ。
散々私のせいだと憎んできたけど、それはお門違いというもの。
弟妹を作ってあげたいと思わせた兄のせいでもあるし、もとを辿ればもしものことを覚悟したはずなのに全てを私のせいにした父が悪い。
「そんな訳、あるはず……」
ああ、もう剣を振る気力も無いのね。
それなら終わりだ。
私は剣を弾き飛ばし、ダミアンの首に剣を突きつけた。
「試合終了!」
会場が再びざわめいた。
フィンメルに続きダミアンにも勝ったのだ。
当然と言えば当然か。
そんな中、ダミアンは負けたショックか、はたまた別のショックからかは分からないが、その場に座り込んでしまっている。
はぁ、仕方ない
私はダミアンに近づき、耳元で口を開いた。
「……あなたたち、許してもらえる日が来るといいわね?」
お祖父様、それに伯父様は大変お怒りだ。
二人に睨まれるなんて御愁傷様。それだけのことをしてきたんだから自業自得なんだけどね。
「ダ、ダリアローズ……」
目の前の男が縋るような声で私の名を呼ぶ。
……ああ、やめてほしい。
「さようなら、お兄様。もう二度と関わることがないことを願っているわ」
私はすぐにその場をあとにする。
けれど男はそれからしばらくの間動くことができず、教師に連れられていった。
私を蔑ろにすれば、お祖父様と伯父様が黙っていないとは思わなかったのだろうか。
お母様によく似た私を。
それに年々ブルー領と帝国の取引が減っていることに気づいて……ないよね。
ブルー領にはローズ商会の本店があるから、その税収だけでかなりの金額になっている。だから他が減っても気にもしなかったに違いない。
一気ではつまらない。
だから少しずつ、そして確実に苦しめてやるんだと、お祖父様と伯父様が言っていたけど、残念ながらあの人はいまだに気づいていませんよ?
ふふっ。果たしてあの二人が許される日は来るのかしら?
とりあえずこの大会が終わったら、お祖父様に連絡しないとね。




