フィンメル②
そうして迎えた大会当日。
まさか一回戦の対戦相手が、彼女だとは思いもよらなかった。
女子生徒で唯一の参加者である彼女。
しかし女子だからと油断するべきではない。
どうやって勝ったのかは分からないが、ランドルフに勝つほどの実力があるのはたしかだ。
それにクラウス様に言われた。
『彼女は魔法が無くても強い』と。
そしてクラウス様の言うとおり、彼女は強かった。
自身の注意が逸れてしまったのもある。だけどそれ以上に、彼女は最後まで強さを悟らせなかった。
そんなことができるのは、真の強者のみ。
要するに私はこれっぽっちも本気を出してもらえずに、負けてしまったのだ。
悔しさのあまり、らしくないとは分かっていたものの、気づけば彼女を呼び止めていた。
なぜ本気を出さなかったのかと問いかければ、彼女は『妖精のせい』だと言う。
すぐにそれがメルリルのことを言っているのだと理解した。
だから忠告した。妹に何かすれば許さないと。
彼女は今後一切関わらないと言っていたが、信用なんてできない。
妹を守れるのは私だけ。
そう思っていた、それなのに……
『お、おにい、さま……』
大切な妹が目の前で苦しんでいても、私はなにもできない。
どうすればいい?どうすれば……
『ごちゃごちゃうるさいのよ!妹を助けたいんでしょう?それなら私の言うことを聞きなさい!』
とても令嬢が口にするとは思えないような言葉。
しかしその言葉に妹も、そして私も救われたのだ。
◇
「フィンメル!」
あのあと屋敷に戻り、医師の診察を受けていると、父がやって来た。
従者からの連絡を受けて、急いで戻ってきてくれたようだ。
「父上!」
「メルリルの容態は?」
「回復魔法をかけてもらったので今は落ち着いています」
「そうか……無事で良かった」
そう言って眠るメルリルの頭を撫でる父。
仕事柄、普段は表情を出さない父が、今は安堵の表情を浮かべている。
それだけ心配していたのだろう。
しかしその表情はすぐに驚愕へと変化することになる。
なぜなら医者から衝撃の事実を告げられたから。
「お嬢様の病気が完治しております!」
私も父も驚くしかなかった。
「なんだと!?」
「そ、それは本当か!?」
「はい!何度も確認しましたが、間違いなく治っております!」
「一体どういうことなんだ……?」
「……」
もしかして彼女が?
まさかと思った。たしかに助けるとは言っていたが、それは一時的なものを指しているのだと思っていたのに。
しかしこれは……
「……フィンメル」
「っ!は、はい」
「先ほど回復魔法をかけてもらったと言っていたが、誰にかけてもらったんだ?学園にいた治癒士か?」
「そ、それは……」
あの時彼女は、魔法のことは秘密にしてほしいと言っていた。
私たちは助けられたのだ。その約束を守らないわけにはいかない。
だから父の問いかけに黙るしかなかった。
「……まぁ病気が治ったことは喜ばしいことか」
私の反応で何か察したのだろう。
父はそれだけ言って、あとは何も聞いてくることはなかった。
そのあと父は医者を連れ部屋から出ていった。きっと口止めをするためだろう。
治療方法のない病が治ったのだ。この事実が公になれば大騒ぎになるのは間違いない。
(もしもそうなれば彼女に嫌われてしまうのでは?……っ!)
なぜ私はそんな心配をしているのか。
いや違う。私はただ彼女に礼をしたいだけ。それだけ。
(あ、でも……)
そういえば去り際、私たちには二度と関わらないとハッキリ宣言していたな……
そのことを思い出した私は、一人頭を抱えることになった。




