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「お兄様頑張って~!」


「……」



 視界に映る可憐な美少女。懸命に声援を送る姿がとても愛らしいが……


 ……うーん、これはどうしたものか。


 あの美少女がただの一観客であれば、特に悩むことはなかっただろう。

 しかし美少女の髪と瞳の色は黄色。

 そう、目の前に立つ攻略対象の一人、フィンメル・イエローと同じ色をしているのだ。


 病弱な妹が、兄の勝利を信じて懸命に応援している……ええ、これは非常にやりづらい。

 さすがに秒で終わらせるには、良心が痛むシチュエーションだ。



「お兄様~!」



 ……それにしてもだいぶ元気だな。

 病弱なはずだけど、もしかして私が悪役令嬢から抜け出したことで状況が変わっていたり?

 いや、今はこの試合をどう乗り切るかが先だな。

 フィンメルはどうでもいいけど、あの美少女の悲しむ顔は見たくない。

 ここはうまく演じて、試合終了前に勝つパターンで行くか。

 私の勝ちという結果は変わらないけど、一瞬で終わるよりはいいよね?


 方針が固まったところで、目の前の相手に視線を向けた。

 さすが攻略対象。妹の美少女っぷりからも分かるように、かなりの美形である。



「まさかブルー家のご令嬢が大会に参加されるなんて……いえ、失礼。今は違いましたね?」



 ……ほぉ。

 除籍の件は、周囲が騒がしくなるのであえて公にはしていない。それをわざわざ口にしてくるなんて、挑発でもしたいのかな?

 でも残念でした。私はそんな挑発には乗りません。

 ここはアルカイックスマイルで華麗にスルーします。



「……」


「……まぁいいでしょう。これは大会ですからね。相手が女性でも真剣に勝負させてもらいますよ」


「ええ、もちろん。お互いにいい試合をしましょうね」


「それでは、始め!」


「はぁっ!」



 試合開始と同時に、フィンメルが攻撃を仕掛けてくる。

 なるほど。実力はそこそこありそうだ。


 フィンメルの攻撃を皮切りに、そこから打ち合いが続いていく。

 パワーはランドルフに劣るものの、スピードがある。そのスピードを活かし、休む暇も与えず打ち込んでくる。本人に疲れた様子は見受けられない。

 剣担当と魔法担当がいるなかでこの実力。さすがと言ったところか。

 でもね、私の勝利に変わりはないの。

 左からの攻撃にわずかだが反応が遅れているようなので、そこを重点的に狙っていく。



「くっ……あなたまさか……」



 どうやらわざと左ばかり攻撃していることに気づいたようだ。

 観客から見れば、きっと互角のように見えているだろう。だけど実際は、こうしてフィンメルが押され始めていた。



「ふふっ、さすがにお強いですね」


「チッ……」



 舌打ちをするようなキャラじゃないのに、だいぶ余裕がなくなっているようだ。

 時間的にもいい頃合いだろう。そろそろ終わりに……



「お兄様頑張ってー!」



 うん、やっぱりやりづらい。

 でももう時間も残り少ないし、悪いけど決めさせてもらって……



「お兄様、負けないでーっゴホッ、ゴホッ!」


「っ!」



 するとフィンメルの妹が激しく咳き込んだ。フィンメルも気づいたのか、一瞬注意が逸れた。

 心配ではあるが、この一瞬を見逃すわけにはいかない。

 私はその隙に、相手の首へ剣を突き付けた。



「なっ……」


「そこまで!」



 試合終了。この試合は私の勝ちである。


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