19
「おい!」
ある日の放課後、授業も終わり帰りの支度をしていると、突然教室が騒がしくなった。
「おい、お前!」
何やら男が叫んでいる。
突然の出来事に、アナベルが不安そうな表情で駆け寄ってきた。
「ダリア様……!」
「ベル、大丈夫?」
「は、はい。少し驚きましたが大丈夫です」
「そう。それならよかったわ」
残念ながら、馬鹿な人間はどこの世界にもいるようだ。
男はまだ叫び続けているが、私たちには関係ない。よし、さっさと帰ろう。
「それじゃあ帰りましょうか」
「えっ、でも……」
アナベルが男に視線を向ける。
……うん、言いたいことは分かるよ。だけど面倒なんだもん。
「気にしなくて大丈夫よ。さぁ、行きま」
「おい!お前だ、お前!聞こえてるんだろう?話があるからついてこい!」
「……」
「聞いてるのか?この私がついてこいと言ってるんだ。さっさとしろ!」
うるさい。そしてしつこい。
アナベルなんてめっちゃ引いてますけど、あなた本当に攻略対象ですか?
「行くぞ!」
そう言って男が私の腕をつかんできたが、痕が残りそうなほどの強い力だ。
ねぇ運営さん、どうなってるの?
攻略対象にまともなやつがいないんだけど。それともなんですか?私が悪役令嬢だからこんな目に遭うんですか?
……ああめんどくさい。
めんどくさいけど、売られたケンカは買ってあげないとね。
「何をしている!さっさとついてこいと」
「離してくれます?」
魔法を使い男の手に電気を流す。
「なっ!?」
驚いた男が手を離す。私は腕を擦りながら、男へ問いかけた。
「はぁ……なんて失礼な人なのかしら。あなたどちら様ですか?」
「わ、私のことを知らないだと!?」
「ええ、知りません。だってこうして顔を合わせるのは初めてですもの。違ったかしら?」
この男、とんだ自惚れ野郎ですね。
名乗りもしないで誰もがあなたのことを知っていると思ったら、それは大間違いですよ?
「私はお前の兄だぞ!知らないわけないだろう!」
「あら、そうなのですか?」
「そうだ!」
「でも私、生まれてこのかた兄に一度も会ったことがないんです。だから突然やって来て兄だと言われても……ねぇ?」
さぁ、私と話をしたければさっさと名乗りなさいな。
「くそっ……ちゃんと覚えておけ!私はダミアン・ブルー。正真正銘お前の兄だ!」




