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「ふぅ……」
今日は二度目の休日。
アンナに会うために家へと帰ってきた私は、ここ最近の出来事を思い出し小さく息をはいた。
「マリア様どうかしましたか?」
「……ちょっと自分のやらかしを反省していただけよ」
ランドルフに魔法を教える約束をしちゃうわ、マティアスに薔薇をあげちゃうわ……
わざわざ攻略対象と関わるなんて、一体私は何をやっているのか。
(……うん、あの時はちょっと浮かれていたのよ)
アナベルにすごいと褒められ、脳筋とメガネの悔しがる顔を見れた。だから気分がよくなってつい……
でもよく考えてみれば、アナベルのために攻略対象を見極める必要はあるよね?
だからあれくらいなら問題ないよね!?
……ということで、これ以上考えるのはやめよう。今日はせっかくの休み。
学園のことは一旦忘れよう、そうしよう。
「……ていうかアンナ。この姿の時はダリアって呼んでって言ってるでしょう?」
「あ……し、失礼しました!いつもの癖でつい……」
マリアとはローズ商会長のこと。アンナはローズ商会で働いている。
「まぁここだからいいけど、外では気をつけてね?」
「分かりました」
「それで最近はどう?商会の方は順調かしら?」
「はい!順調です!まず服飾部門で新たに発売したカチューシャが大好評で、追加で急ぎ生産しているところです。美容部門の商品も品薄が続いていますし、レストラン部門は明後日新店舗が開店になるので明日最終確認の予定で、それとパティスリー部門ではティラミスを提供するようになってから男性客の利用が増えていまして、今後客層に変化が見られるかもしれません!それにそれに」
そうだった。アンナはお仕事大好き人間。
一度仕事の話をし始めると、数時間は止まらなくなるんだった。
このままではあと数時間は話を聞く羽目になる。それは遠慮したい。
「ストップ!」
「へ?」
「ほんとアンナって仕事が好きよね……まぁそのおかげで私は楽させてもらってるんだけど」
「商会の仕事は私の生き甲斐なんです!あの時ダリア様に助けていただいていなければどうなっていたことか……」
「ふふっ、その話はもう何度も聞いたわ。それに恩なんて感じる必要はないのよ?」
「えっ、ど、どうしてですか?」
「だってアンナと出会えて幸運なのは私の方だもの」
「ダリア様……!」
私とアンナの出会いは今から六年前。私が九歳、アンナが十五歳の時のこと。
魔物に襲われているアンナを助けたことがきっかけだ。
この世界には魔物が存在していて、かくいうダリアローズもラスボス化すると魔物になってしまうという設定だった。
魔物は普段魔の森にいるが、稀に森から出てきては人を襲うことがある。だから街の外に出る時は、自衛の出来ないものは護衛を雇うのが常識にも関わらず、アンナは一人だった。
運良く間一髪のところで助けることができたものの、ひどく衰弱していたアンナをこのまま放っておくことはできず、私は屋敷に連れ帰ったのだ。
体調が回復したあとに詳しく事情を聞いてみると、アンナは王都の大商会の娘だという。
アンナには二人の兄がいて、兄たちと共に両親の経営する商会で働いていた。
しかし両親が突然の事故で亡くなったことで、状況が一変する。
両親の代わりに誰かが商会を継がなくてはならない。そんな時アンナが手を挙げたのだ。
どうやら生前、両親はアンナを後継者に指名していたらしい。二人の兄ではなく一番年下のアンナが指名されるということは、それだけ優秀だということ。
アンナは両親に代わり自分が商会を守るんだと意気込んでいたが、兄たちはそうではなかった。
兄を差し置いて妹が後を継ぐなんて許せなかったのだろう。だから兄たちはアンナを陥れ、商会から、そして王都からも追い出したのだ。
突然追い出されてしまったアンナは途方に暮れていた。
それもそうだ。
いくら後継者に指名されるほど優秀だとしても、まだ十五歳の少女。一人の力でできることは限られている。
そして彷徨い歩いていて魔物に襲われそうになったところを、私に助けられたというわけだ。




