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ランドルフ①

 

(この胸の高鳴りは一体……)



 俺――ランドルフ・レッドは、上級貴族であるレッド家の嫡男だ。家族は父と母、それと歳の離れた弟がいる。

 父は当主でありながら、王宮騎士団の団長でもあり、剣を振るう父の姿がかっこよく、俺も将来父のようになりたいと剣の道に進むことに決めた。

 王宮騎士団の団長は世襲制ではなく、実力で選ばれることになる。だからいくら父が団長であろうと、俺が団長になれる保証はない。

 レッド家の後継者でもある俺は、勉学もやらねばならなかったが、空いてる時間があればひたすら剣を振り続けた。


 十歳になり、俺は王太子であるクラウス様の側近に選ばれた。

 父も国王陛下が王太子だった時に側近に選ばれている。父と同じ道をたどっている俺は、騎士団団長の夢が近づいたように感じていた。



 初めての顔合わせの時、クラウス様も剣を学んでいるからと、手合わせをすることになった。

 しかし相手は王太子。

 さすがに勝ってはいけないと思い手を抜いたら、それはまぁ怒られた。

 それからは手を抜かず本気で手合わせをするようになったが、俺は一度も負けることはなかった。



『本当にドルは強いな。これなら王宮騎士団も安泰だ」


『ありがとうございます。必ず騎士団長になってみせます!』


『ああ、期待しているよ』



 クラウス様に騎士団長になると宣言したあとも、暇さえあれば剣を振り続けた。


 しかしまもなく学園の入学を控えた頃から、伸び悩み始めることになる。

 最初は体の成長による一時的なものが原因かとも考えた。

 だけど何かが違う。何か物足りなさを感じるようになった俺は、思い切って父に相談してみることにした。


 そして言われたのだ。



『なぜ魔法を使わないのか?』と。



 なぜと言われたって、剣を振る父に憧れた。だから剣の道を選んだ。それだけ。

 それに今まで誰にもそんなことを言われたことがない。

 幼少の頃から俺に剣を教えてくれた人はいつも『剣こそ一番』だと言っていた。それに『魔法は弱いやつが使うもの』だとも。


 そう伝えると、なぜか頭を抱えていた。

 今より強くなりたいのなら、魔法は絶対に必要だと父は言う。そして学園でよく学んでくるようにと。



(魔法を使えば強くなれるだって?そんなわけない!)



 父にはそう言われたものの、俺はどうしても受け入れられなかった。

 俺は魔力が多い方なので、魔法を取り入れようと思えばできる。

 けれどこれまでの人生で、魔法は弱いやつが使うものという固定観念が出来上がってしまい、受け入れることができなかった。


 俺は弱いやつになりたくない。



 そんなある時、クラウス様に呼ばれ城を訪れた。

 何でも急な話があるそうだ。悩みすぎて気分が優れなかったが、呼ばれれば側近として行かねばならない。


 クラウス様の下を訪れると、そこにはもう一人の側近であるフィンメルもいたが、人払いをしたのだろう。部屋には俺たち三人以外誰もいなかった。

 王太子であるクラウス様の周囲には、常にたくさんの人がいる。だからこの状況はかなり異質だ。それにクラウス様は、どこか疲れたような表情をしていた。




『体調が悪いわけではないから心配するな。ただここ最近少し眠れなくてな』



 クラウス様はこう言うが、これまでこんなことは一度もない。

 絶対に何かある。

 だから何かあったのかと尋ねると、少しの沈黙のあと口を開いた。



『……実はブルー家との婚約が白紙になった』



 驚いた。

 ブルー家との婚約は、クラウス様の地盤を磐石にするためのもの。国王陛下もブルー家の当主も了承済みだと耳にしていたのに、なぜ婚約が白紙になるのか。

 ただブルー家の令嬢と言えば、表舞台に全く顔を出したことのない謎の令嬢。

 何か問題でも起きたのかと問いかけたが、



『……理由は教えられないが、これだけは覚えておいてくれ。絶対に彼女を敵にまわしてはいけない』



 クラウス様はそれだけ言い、あとは口を開くことはなかった。


 クラウス様の言葉の意味はよく分からなかったが、婚約を諦めざるを得ない何かがあったのはたしかなようだ。

 気にはなるがクラウス様が話してくれない以上、俺たちはその指示に従うだけ。


 ブルー家の令嬢とはどんな人物なのだろうか……



 それからすぐ学園に入学した。

 最初のうちはその令嬢のことを気にしていたが、学園生活に慣れてくると徐々に頭の片隅へと追いやられていく。

 その代わり頭の中を大きく占めたのが、やはり剣が最強だという思い。

 他の騎士科の生徒も俺と同じだった。

 だからそんな人間の周りで生活していた俺は、当然さらに魔法を受け入れられなくなっていく。



 そんな時だった。あの合同授業があったのは。

 俺はこの日を決して忘れることはないだろう。


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