マティアス①
(くそっ……あの魔法は一体……)
私の名前はマティアス・グリーン。上級貴族グリーン家の次男として生まれた。
父は王宮魔法士団の団長を務めており、私の憧れである。
家は兄が継ぐことになっているので、次男の私は憧れの父と同じ、魔法士団の団長になることを目指していた。
運のいいことに私の魔力は多く、努力すれば団長も夢じゃないと、父からお墨付きをもらっている。
それに私は勉学も得意だ。家庭教師たちからは常に優秀だと言われてきた。
別に自慢するほどのことではないが、たしかに周りと比べると自分はとても賢い。
魔力が豊富で勉学も優秀。
私以上に魔法士団の団長にふさわしい者はいないだろう。父を超える団長になるために、一層魔法と勉学に励むようになる。
その結果、私は王太子殿下を除いた同年代で、一番優秀な人間になった。
このままいけば間違いなく魔法士団の団長になれるし、今度入学する学園でもトップになれる……はずだった。
その確定された未来は、ある一人の女によって崩れ散ることになったのだ。
ダリアローズ・ブルー。
これまで全く表舞台に出てこなかった、ブルー家の謎の令嬢。
その姿を見た者が誰もいないことから、病弱令嬢や我儘令嬢、不細工令嬢なんて呼ばれていた。
そんなやつに私が負けた。屈辱だった。
私が委員長になるはずだったのに、きっと何か不正をしたに決まっている。そうでなければ、副委員長にもなれないなんてあり得ない。
副委員長になった令嬢も、ブルー家の令嬢と親しくしていた。だから愚かにも一緒になって不正をしたのだろう。
だから私は何度も教師に訴えたが、なぜだか聞き入れてもらえなかった。
だから私はあの女を見張ることにした。
きっといつかボロを出すはずだと。
けれどあの女は、なかなか尻尾を出さなかった。
そればかりかそのあとの小テストも不正をする始末。
(はっ!不正をしてまで一番になりたいなんて哀れだな)
しかしそんな私を驚愕させる出来事が起きる。
それは魔法科と騎士科の合同授業の日のこと。
ただでさえイライラしているのに、騎士科のやつらと同じ授業なんてついてない。それに代表者があの女だなんて……
ランドルフ・レッドは嫌いだ。だけどこの時だけはあの女を打ち負かせてやれと思っていた。そうすればこの苛つきも少しは落ち着くはずだと。
だが勝ったのはあの女だった。
あの女は一歩も動くことなく、ランドルフ・レッドに勝ってみせたのだ。
攻撃魔法を使わずに勝つなんて、信じられなかった。
あの魔法は一体なんだったのか。
魔法士でも剣を扱う者はいる。だけどそれはサブとして剣を使うだけで、メインは攻撃魔法だ。
あんな魔法、団長の父ですら使っているところを見たことはない。
(あれは……剣を強化したのか?)
あの試合が頭から離れない。
気付けば授業は終わり、放課後になっていた。いつもなら真っ直ぐ家に帰るのだが、今日はそんな気分にはなれない。どこか静かな場所で落ち着きたいと、図書室に向かうことにした。
予想通り図書室には司書が一人いるだけで、他には誰もいない。本棚から適当に本を選ぶ。
(本でも読めば落ち着けるはず……)
そして一番奥の席に座り、本を開こうとしたその時……
「あら、こんにちは」
「なっ……」
(なんでここに!?)
今一番会いたくない人物、ダリアローズ・ブルーが目の前に現れたのだった。




