12
「美味しかったぁ~」
ディランの淹れてくれたアッサムに、マーサ手作りのチーズケーキ……控え目に言って最高でした。
「それはようございました」
「くっ……これが毎日食べられないのが悔やまれるわ」
「……お嬢様?」
「えへへ……」
ソウデシタ。太るからと、昔から週に一回だけでした。……いや、この流れでもっと食べられないかな~ってちょっと欲が出ちゃっただけなの。許してマーサ。
「マーサ、お嬢様はもう子どもじゃないんだ。それくらいにしなさい」
「それは分かっていますが……」
「お前だってお嬢様に喜んでもらおうと、今日はずいぶんと張り切ってケーキを作っていたじゃないか。たしかショートケーキも作っていたような」
「え、それ本当?」
「ディ、ディラン!」
体型維持に厳しいマーサが、ケーキを二種類も作ってくれるなんて。しかも大好物のショートケーキ!
「マーサ大好き!」
「もうお嬢様ったら……。今日だけ特別ですよ?」
「ええ!」
ショートケーキは夕食のあとに出してくれるそうで、今から楽しみだ。
ちなみにこのあとディランにはこっそりお礼を言っておいた。
◇
「そういえばお嬢様、学園生活はいかがですか?」
……そうだった。今日は学園が休みだから帰ってきたというのに、美味しいお茶とケーキで忘れていた。
「……そうね、今のところ問題なく楽しくやってるわ。ただ寮は一人部屋だから少し寂しいけどね」
ここではみんなと暮らしていたからか、ふとした瞬間に柄にもなく寂しいなって……とは言っても誰かと相部屋というわけにはいかないし、それに一人部屋は快適ではあるんだけどね。
「まぁ……」
「お嬢様……」
「あっ!でもね、私にも友達ができたのよ!すごく可愛らしくて、それでいて成績も優秀で努力家のとてもいい子なの!それでね――」
私はアナベルの素晴らしさを語っていく。二人にも彼女のよさが伝わるといいのだけど……
「よいご友人と出会えたのですね」
「私もぜひお会いしてみたいわ」
うん、どうやらアナベルのよさが伝わったよう……あ、そうだ。この流れでアレを相談してみようかな。
「あのね相談なんだけど、彼女を商会にスカウトしたいなって考えているの」
「スカウトですか?」
「ええ。まだ出会って一週間だけど見込みがあると思うの。それに友人として彼女の夢を応援してあげたいなって」
商会としては優秀な人材がほしい。その点、アナベルはヒロインだ。実力は間違いないだろう。
だけどそれだけじゃない。治癒士になって人々を助けたいと願う友人の力に少しでもなりたいなんて、柄にもないことを思ってしまったのだ。
……なんだかこういうのって照れ臭いね。こんな私を見て二人はどう思っているだろう。
「どうかしら……?」
ドキドキしながら返事を待っていると……
「よろしいのでは?」
「いいと思いますよ」
この二人にだけは前世の記憶があることを伝えている。だけどここが乙女ゲームの世界であるとは伝えていない。
私はアナベルがヒロインだと知っているから、出会ったばかりでもなんの迷いもなく受け入れられる。だけど二人は違う。いくら私の友人だからといって、そう簡単に受け入れるとは思っていなかったのに……
「……え、いいの?」
すんなりと返事が返ってきたことに、こちらが面喰らってしまった。
「ええ、もちろん。お嬢様の人を見る目に間違いはありませんから」
「そ、そう?」
「それにお嬢様の初めてのご友人ですよ?大歓迎に決まっているではありませんか!」
「そ、そう……」
ディランに褒められた一方で、まさかマーサは相手が友人だから受け入れてくれたとは……うん、私これまで友だちいなかったからね。やっぱり心配だったよね、ごめん。
どうやって説得しようかな~とか考えていたのに、その必要はなかったようだ。
「じゃ、じゃあもう少し様子を見てから彼女に話をしてみるわ。もしかしたら近いうちにこっちに連れてくる可能性もあるから、その時はよろしくね」
「かしこまりました」
「お任せください」
よし、アナベルの話はこれくらいでいいだろう。
そのあとは他愛のない会話をして楽しんだのだった。




