②真夜中のおしゃべり
「いつから入院してるの?」
僕達は疲れて床に座りおしゃべりを始めた。僕の質問に彼女は少し考えるようにすると前回の新月の日だと言う。僕が死の淵から舞い戻った日だ。
「新月ってちょっとおかしくなっちゃうでしょ?」
「うん」
「私、お熱出して運ばれたんだって。熱はすぐ下がったんだけど、もっと元気になるまでは入院しなきゃダメなんだって」
「どこか辛いの?」
「ううん、全然!入院した日はお昼寝いっぱいしたから夜眠れなくてここで一人で遊んでたんだー」
「歌も歌ってたよね?」
僕がそう言うと驚いたように勢いよく顔をこちらに向ける。
「何で分かるの?小ちゃく歌ってたのに。あの時誰もいなかったよ?」
「僕は耳が良いんだよ」
「気づいてたなら来てくれたら良かったのに」
「死にかけてたから、来たくても来れなかったんだよ」
動けたならそりゃ僕だってすぐ来たかった。歌声に惹かれて死の淵から戻ったくらいなんだから。
「死にかけてた、、」
彼女の顔に恐怖の色が広がっていた。僕も初めて死について考えた時は怖かったから気持ちは良く分かる。
「もう、大丈夫なんでしょ?今元気だもんね!」
「どうだろう?次の新月は乗り越えられないかも」
僕の言葉に青ざめてから彼女はポロポロと涙を溢す。袖口で涙を拭いながら彼女はしゃくりあげて言った。
「死んじゃダメだよ、、。ママ達が泣いちゃうよ!」
「泣いてるのは渚ちゃんじゃん」
「今はね!でもその時は京也君のママ達も泣いちゃうんだよ!」
「そうだろうね。でも仕方ないよ」
「仕方なくない!死んじゃダメ!ずっと一緒にお歌歌うの!」
出来る事なら僕だってそうしたい。大好きな音に出会えたんだから。でも、自分の体の事は自分がよく分かってる。でもこれ以上泣かせては可哀想だからこの話はもう終わりにしようと僕は立ち上がった。
「渚ちゃん、もっと歌って?ピアノ弾くから」
僕は彼女に手を差し出すと握り返された手を引っ張って立ち上がらせる。そのまま手を引いてピアノの前に進むと一緒に椅子に腰掛けた。僕はピアノの鍵盤を叩き始めるがしかし彼女は歌い出してくれない。まだしゃくり上げているから仕方ないと、僕は彼女が落ち着くのを音を奏でながら待ち続けた。
「……げる」
やっと落ち着いたかと思ったが彼女の口から出たのは歌声では無かった。
お読み頂きありがとうございました!
次回は【人魚の血と癒しの口付け】です!お楽しみ下さい♪