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異形の末裔達は利害の一致で恋をするか  作者: さえ
吸血鬼の末裔男子と人魚の末裔女子の場合
16/16

⑨首輪が外れて

最終回です!

よろしくお願い致します


 アンコールも終わりステージの袖に隠れても歓声は鳴り止まない。会場のざわつきを背に歩きながら不思議な感覚に包まれていた。まさか私が歌手として人前で歌う事になるなんて夢にも思っていなかった。


「ぼーっとして、大丈夫?テンションが上がってなかなか落ち着かないんでしょ?」


 前を歩く綺麗な男性が振り向きながら尋ねてきた。


「京也君は何でいつもそんな涼しそうでいられるのかな?」

「僕だってこれでも凄く興奮してるんだけど」

「嘘だぁ」


 私達の控室に着くとドアを開いてくれるという紳士っぷり。全然平常運転じゃない。そう思ったのに。


「きゃ!」


 控室に入るなり後ろから抱きしめられてびっくりした。彼は私の首筋に顔を埋めて、そのまま話し出すからくすぐったくてソワソワする。


「興奮してるんだよ?だって今日は、、」


 私の首筋に当たる硬いものは彼の牙だ。くすぐるように、私の硬化した肌を掠めて遊ぶ。体全体を覆う鱗も服をはだける程度で剥がせるものはほぼ剥がしてもらった。後は服の深くに隠れる場所とこの首筋だけ。


「二十歳になったんだよね、おめでとう」

「ありがとう。やっとココも剥がしてあげられる」


 牙が強く押し当てられ今にも突き立てられるんじゃ無いかと思った。でも絶妙な力加減で鱗は貫かれはしなかった。


「ふふ、突き刺して欲しかった?」

「こんな場所じゃ、、」

「じゃあ、早くホテル戻ろう。打ち上げとかは無しって言ってあるから」


 彼がそう言って私を解放すると次々にスタッフが入って来て挨拶や打ち合わせを済ませていく。昔から不思議だったんだけど、彼が吸血を匂わせたり実際吸血をする時は何故か人と遭遇しない。吸血鬼の掟で吸血を人に見られてはいけないってのがあったはずだから、強い先祖帰りの彼にはそれを防ぐ術でも使ってるんじゃ無いかと密かに思っている。


 私達は用意されたホテルに戻ると一先ずそれぞれの部屋に荷物を下ろしてライブの汗を流した。私はシャワーを終えると持参したナイトドレスに袖を通した。生地もしっかりしていて丈も長い、ほぼ普通のルームウェアだが首元だけは大きく開いている。この上に取り敢えずガウンを羽織るつもりだったがその時部屋の呼び鈴が響いた。彼の来訪だと思って慌てて出迎えに行く。


「お待たせ!」

「…」

「どうしたの?誰かに見られちゃ大変だから、早く入って!」


 京也君はデビュー前から注目を集めるクリエイターだった。顔出しNGで一切の露出が無く謎に包まれた存在だったが、メジャーデビューが決まりそのビジュが公開されると音楽的才能に加えその美貌で多くの人に推されるようになった。そんな彼にスキャンダルなんてあってはならない。私はユニットを組んでる仕事仲間ではあるが、ホテルの部屋を訪ねる所など誰かに見られてはどんな影響があるかわからないのだ。


「随分受け入れ体制バッチリな格好だったから。飛びかかりそうなのを堪えてたんだよ」

「これは、ガウン羽織る所で、、」


 部屋に入るとスッと首筋に手を伸ばして優しく撫でられる。鱗は何故か肌以上にくすぐったくて首を竦めてしまう。すると「こっち来て」と言って連れて行かれたのは大きな窓の前。カーテンを開けると、外は暗くて照明の明るい室内が窓にはっきりと映し出された。窓の向こうには海が広がっているはずだが人の居ない海は暗く何も見えなかった。


 鏡のような窓越しに背後に立つ彼と視線が合う。彼は視線を逸らさず後ろから手を回して私の首元の鱗に指を滑らせた。私はビクッと体を震わせながら、されるがまま彼から目が離せない。


「本当にキラキラして綺麗。剥がすのが勿体無い」


 綺麗と言われるのは嬉しい。それに首を回る煌めきはまるで首輪のようで、外されてしまうのが少し怖い気もする。綺麗な首輪をはめていたいと心のどこかでは思っている。


「でも、約束だもんね。反故にして僕は君に囚われても良いんだけど」

「また、そんな冗談を、、」

「冗談なんかじゃないよ?」


 そう言った瞬間、窓に映る彼の瞳が赤く染まる。吸血の時はいつもそうだった。彼の美しさが妖しくなるこの瞬間が好きだった。私に囚われたいと言うくせに、その目が私を囚えて離さない。支配される感覚に萎縮するけどそれが何とも言えず心地良い。


 彼は私の髪を横に流して(うなじ)を曝け出す。髪で籠った熱が解放されて肌がざわめいた。窓の向こうの彼は視線を合わせたまま、項に唇を近づけると大きく口を開ける。鋭い牙が見えた瞬間、一瞬の痛みを感じすぐにそこが痺れるように疼き出した。


「は、、ぁ、」


 鱗が邪魔をして血は多く流れ出ない。それでも牙を差し込んだ傷痕に強く吸い付いて無理やり吸血をする。しばらくすると亀裂の入った鱗に牙を掛け、一気に鱗を引き剥がす。バリバリと音を立てるこの音とこの瞬間の痛みが最初は辛かった。でもこれの次には快楽が与えられる事を既に知っている体はもう悦びに震え始めている。


「あぁ!…んぅ、、は、やく、、」

「ふふ、そんなに僕の牙が欲しいの?」


 私は馬鹿みたいに首を縦に振り訴えた。


「仕方ないね、、」

「あん、、!」


 牙で肌が貫かれるとたまらなかった。甘く痺れ、流れ出して肌を這う生暖かい血液からでさえ快感を拾ってしまう。追い討ちをかけるように這い回る彼の舌と唇から目が離せない。この美しい光景を見るまでは吸血なんて怖いものだと思っていた。


「な、んかぁ、いつもと、、ちが、、うぅ」

「首は特別だからね。それに僕も大人になったから、与える快楽は強くなったはずだよ。気持ち良いね?」


 彼は項の傷口をそのままに手で圧迫しながら私の体の向きを変えさせた。


「後ろは剥がれたから、今度は前ね」


 私は放置された疼きの続く項に気を取られ何も考えられない。手の圧迫だけでも気持ちが良く、血が抜ける感覚の恐怖も快感と勘違いしてる。


「んぁ、、」


 右の鎖骨を舐め、舌がその先に伸びる筋肉の筋を辿って行く。熱い唇を押し当てたかと思ったら走る痛みと痺れる感覚。そのまま強く吸って欲しいのに牙は抜かれ体温が離れて行く。項と右首に残る甘い疼きは優しくて物足りない。


「なんで、、」

「物欲しそうにしちゃって、可愛い。でもこっちが勿体無いからちょっと待ってね」


 そう言うと、項を圧迫する手を変え血に濡れる方がの手を見せつけて舐め出した。妖艶で色っぽい姿はいつまででも見ていられたけど、その舌を、唇を私の肌に押し当てて欲しい。


「ね、、京也、く、ん」

「なあに?」


 分かっているくせにとぼける彼に自然と涙が目に浮かぶ。


「あは、目を潤ませるおねだりとか。…たまんないね」


 京也は勢い良く左の首筋に噛みついた。咄嗟の事で私の体は大きく跳ねる。そしてまた牙はそのまま引き抜かれ首はどこが疼いているのか分からず、切な気持ち良い状態は一種の拷問のようだった。


「ねえ、渚ちゃん。話があるんだ」


 私の目をまっすぐに見つめて京也は語りかけてきた。話は後でいいから、早く続きをして欲しい。そう思うのに赤い瞳に私は逆らう事が出来ない。


「な、に、、?」

「この先、服を着たままじゃ鱗が剥がせない所が残ってるでしょ?」

「ぅん、、」

「流石にそこまでは僕が触れてはいけないと思うんだ」


 私は頭が真っ白になる。これは何の話?京也がもう私には触れてくれない?


「ぃ、や、、何で?やだ、、やぁ、だあ」

「だって僕は君の親でも恋人でもないから。ダメなんだよ」

「なんでぇ、、。は、ぁ、、約束、したのに」

「うん。でも、何度も言うけど僕は君に使役されても良いんだ。約束を破った僕に君が命令をするなら出来るかもしれない」

「そんなぁ、、やだ、そんな関係、、」

「じゃあ、どんな関係だったら良いの?」


 絶対に命令なんかで吸血はしてほしくない。対等で、少しだけ押さえつけられるような位置に居たい。それでいて、体の隅々まで見せられる関係って、、


「こ、恋人、、とか?」

「とかって、他にもあるの?」


 言い切らない私に対して口調は穏やかだが目は冷ややかで少し怖い。


「恋人、が、良いです」

「うん、そうだね!じゃあこれから僕達は恋人でいいね?」

「これから!?」

「そうだよ。僕はずっと渚が好きだったんだから」


 あ、呼び捨て。それだけで胸がギュッてなるのに、好きって言われて苦しい。


「渚は?僕のこと、まだ好きじゃない?」


 私は首元の疼きと締め付けられる胸のせいで、はっはっと短い呼吸しか出来なくなって辛かった。


「好き、私もずっと、、好き、だった、」


 あの日、あなたが私の腕に口づけたあの日からずっと、そう伝えたいのに苦しくて言葉に出来ない。


 私の言葉に目を見開いてニヤリと笑う顔は最高に妖しく美しくて、もう窒息しそうだった。


「じゃあこれで僕達は恋人だね」


  ゆっくりと京也の顔が近づいてその唇が私の左耳に寄せられる。


「だからもう、こんな首輪は外さなきゃ、、ね!」

「あああ!」


 首の前側を覆い続けた鱗がバリバリと剥がされ、間髪入れずに牙が突き刺さった。首筋は耳に近いから吸血の音が大きく響いて脳までも痺れる。拷問の様な快楽に体力はなくなり、長い出血のせいか傷が治癒される頃には体が動かせずそのまま私は意識を手放さざるを得なかった。



※※※※※※※※※※※


 ぐったりとする渚を抱き抱えベッドに運ぶ。流石にやりすぎたと少し反省するが、仕方ないとも思う。


「こんなに首を無防備に晒しちゃって、こうなるなって方がおかしいんだよ?」


 ベッドに寝かせた渚の頬を撫でて呟くが寝息を立てる彼女からは何の反論も貰えない。可愛い寝顔を見てると離れがたくて、このまま添い寝でもしてしまおうかという気分になる。恋人になったのだから別に良いのでは?と本気で考えるが、ライブも頑張って本当に疲れてるはずだから今夜くらいはゆっくりと寝かせてあげよう。今夜くらいは。


 僕は照明を落とすと渚の部屋を後にした。しっかりとオートロックの施錠が済むのを確認して自室に戻る。部屋に置きっぱなしにしたスマホが光ってメッセージの受信を教えていた。内容を確認すると高校で仲の良かったやつからのメッセージだ。渚の血の提供のお陰でまともに高校に通えるようになって出来た、異業種の末裔友達だった。


『誕生日おめでとう!で、どうだった?』


 こいつにはこれまで色々と話してきた。今日、渚に告白するつもりだとも言っていたからその事だろう。


「彼女が出来ました、と。あとは、、お前も頑張れ。これでいいか」


 少し強気な高校時代のクラスメイトに未だに恋してて、進展がないからエールを送っておく。その子と僕が同じ種族だから話し掛けられるようになるまで色々聞かれたりもしてたなと、高校時代を思い出して懐かしさについ笑みがこぼれた。





End



 


ここまでお読み頂きありがとうございました!

取り敢えずこれで完結です。


もっと色んな異形種の組み合わせも書いてみたいですし、登場したカップルの大人な後日談も書きたい気持ちもありますし、再び更新したりするかもです。(内容によったらムーンにお引っ越ししなきゃかも…)


拙い文章で読みづらい箇所もあったかと思いますが、お付き合い頂き大変嬉しいです!

本当にありがとうございました(*´ω`*)




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