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異形の末裔達は利害の一致で恋をするか  作者: さえ
吸血鬼の末裔男子と人魚の末裔女子の場合
12/16

⑤再入院

高校生〜大人編のスタートです

よろしくお願い致します!


 退院は無理だろうと思った入院も、驚愕の回復を見せた僕は目覚めてからたった数日で帰宅を果たす事になった。不思議と先祖返り特有の症状も弱まって、それまでが嘘のように普通に生活出来るようになっていった。成長と共に収まったのだろうとの担当医の見解だが、油断は出来ないため年に数回の通院で経過観察は続く事になる。


 油断出来ないと言った医師の言葉はこうなる事を予言していたのかもしれない。僕は数年間を体調を良く過ごすことが出来たが、年を追うごとに症状の悪化が見られ始めた。そして十七歳の春、高校の進級を目前にして再び入院する事になってしまった。


 僕は相変わらず音楽が好きで、それだけが生き甲斐で、他に何も望まない。そんな僕だから両親から贈られるプレゼントは音楽に関連する物ばかりになった。年齢に応じて高度な技術を有する物も増え、僕は作曲をしそれを世に配信するようになっていた。知らずに人気が出ていたらしくプロからの高い評価も得て、楽曲制作のオファーもある。でも僕はただ自分が聞きたい音を奏でていたいだけだから仕事のオファーは全て断る事にしていた。僕の音に、あの子以外の声が乗るなんて絶対にいやだった。


 表舞台に出ない僕に世の中は益々興味を持つみたいで新曲を配信すれば凄い勢いで閲覧数が跳ね上がる。僕の音を好きだと言ってもらえているみたいで素直に嬉しい。今しがた、配信を開始した楽曲の数字もどんどん伸びて、病院のベッドの上で持ち込んだパソコンを前に達成感に浸っていた。それなのに送られてきたDMのURLを開いた途端、それまでの穏やかな気持ちが台無しになる。


「ふざけた事してくんなよ」


 開いたサイトは誰かの個人チャンネルで、マイクに向かう女性が映し出される。同時に流れ出す僕の曲。


『曲をお聴きしインスピレーションを得て詩を付けてみました。歌ってみたので良かったら聴いてもらえたら嬉しいです!」


「聞かねーっつの!」


 僕はブラウザを閉じると乱暴にノートパソコンを畳んでベッドから降りると部屋を出た。別に行きたい所もないがむしゃくしゃしてじっとしていられなかった。


 幼い頃に慣れ親しんだ病棟はこの十年の経年を感じさせるが、それ以外に大きな変化はない。思えばあの頃は病室と遊戯ルームの往復しかしていなかった。病室を出て自然とそちらに足が向かっていてあっという間に辿り着く。子供の足じゃもっと遠く感じていたのに、今じゃほんの少しの距離でしかなく、どれだけ狭い世界の住人だったのかと幼かった自分が哀れに感じた。


 遊戯ルームには誰も居なかった。夜行性の種族がいると言っても人間と同じような暮らしを望んでいる者ばかりだから親の多くは早寝早起きを子供にはさせたがる。あの頃だって、こんな時間にここを使うのは僕ぐらいだった。


 高校生にもなってこの部屋に入るわけにはいかないのだろうが、今は誰も居ない。ポツリと部屋の隅に置かれたピアノを見ると無性に触りたくなった。誰かに見られて注意されたら病室に戻れば良い。ほんの少しだけ、そう考えて僕はピアノの椅子に座った。


 試しに鍵盤を叩くと思った通りの音が解き放たれる。ちゃんと調律はされているようで安心した。ピアノの音を楽しんでいると僕は先程までのイライラもすっかり吹き飛んだ。気分が良くなると、僕は久々にあの曲を弾きたくなった。あの子の声が乗らないと虚しい気持ちになるからずっと弾けなくなっていた曲。でも今は気分も良いし、あの時と同じピアノを前にしたら弾いておきたいと思った。


(もう、これが最後かもしれないしな)


 正直、次の新月の明けを迎えられない気がしている。前回の新月で再び昏睡状態になった僕は覚悟を決めていた。最近の配信のスピードが驚異的だと騒がれているのもそれが原因だ。発表出来る楽曲を許される限り世に出しておきたかった。


 僕は鍵盤に指を乗せると大きく息を吸い込んだ。あの時と同じで緊張してる。とても大切な僕達の音だから。指を一度沈み込ませれば、追いかけるように他の指が動き出す。音は繋がり、メロディになって、ここからあの子の声が乗る。


「♪〜」

「!?」


 絶妙なタイミングだった。背後から聞こえる声の主を確かめたいけど、音楽を止めるのはもっと嫌で、僕は演奏と耳に届く音と声に集中した。


 曲が終わると夜の遊戯ルームには静寂が訪れる。僕はガタっと大きな音を立てて椅子から立ち上がると勢いよく後ろを振り向いた。



お読み頂きありがとうございました!


次回は【僕達の罪と下された罰】

不穏なタイトルが続く、(´・ω・`)


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