③人魚の血と癒しの口付け
彼女の言葉が良く聞こえなくて僕は演奏をやめて視線を向けた。
「何?」
「私の血、あげる」
しっかり聞こえたが、彼女の言葉が理解出来ない。
「何言ってるの?ああ、輸血?さっきちょっと話したもんね。ココには沢山用意されてるから渚ちゃんの血は貰わなくても大丈夫なんだよ」
「違う!飲むの!京也君、吸血鬼の子孫なんでしょ!」
「そうだけど、血は輸血があるから良いんだって、、」
血は必要ないって言っても通じないから伝え方に困ると、彼女は徐に袖を捲りあげ腕を曝け出す。その肌は白く照明を反射してキラキラと輝いて見えた。
「お魚みたい、綺麗」
「私は人魚の子孫なんだって。本当はこうなるの新月の時だけなんだけどね、お熱出てからずっとこうなの。これが元に戻るまでお家帰れないの」
「そうなんだ。早く良くなると良いね」
そうなったらお別れだ。心の中では言葉とは逆の気持ちが湧き上がるけど、言っちゃいけないやつだから必死で笑顔を作って隠す。
「知ってる?人魚の血はふろーふし?って言って飲んだ人をいっぱい元気にするんだって!私達の血はそれほど凄くないけど、特別なお薬を作るのに使ってるんだって」
「へえ、すごいんだね」
「だからね、私の血飲んだらきっと元気になるよ!」
そこまで言って彼女は少し沈み込む。腕を摩ってたかと思うといきなりガブリと自分の腕に噛み付いた。
「ちょっと、何やってるの!?」
突然の奇行に驚いてしまう。僕は慌てて彼女の口から腕を離そうと掴み掛かるがかなり強く噛み付いているみたいでびくともしない。やっと口を離した所にはさぞ深く噛み跡が残っているだろうと思ったのだが、変わらずにつるりとしていた。
「噛んだふりだったの?」
「ううん。ちゃんと噛んだよ、歯が折れるかと思った」
「でも歯の跡が残ってないよ」
「すっごく硬いの。血を欲しがる人達から身を守るためにこうなったんだって。こうなってる時には特別な血になってるのに、どこからも血は出せないの。だから京也君にあげたくてもあげられないんだった」
そう言って悲しそうに項垂れる。多分僕の牙なら貫けるだろうけど、とても特別な血のようだから無闇に奪ってはいけない。
「気にしないで。僕のためにしようとしてくれた事嬉しいよ。今日はいっぱい歌ってくれたからそれだけでも元気出たし、ありがとう」
嘘ではない。本当に歌声を聞いて気分はとても良いんだ。
「だから、これはお礼」
僕は彼女の腕に顔を寄せると、先程噛み付いていた辺りに口付けをした。自分の噛み跡ではないから効果があるか分からないけど、治癒の祈りを込める。口を離すと、鱗のような煌めきが彼女の体から離れて霧散した。
(うわぁ、綺麗)
キラキラの中で真っ赤な顔をする彼女は凄く綺麗だった。ずっと見ていたいのに視界が歪んで彼女が遠ざかる。彼女が離れているのじゃなく僕の体が傾いているんだと気がついた時には完全に意識が途切れてしまった。
お読み頂きありがとうございました!
子供なので渚は勘違いをしています。不老不死になる方法は人魚の肉を食すです。
この世界では人魚の血にも力があり、寿命を少しだけ伸ばせるという設定になってます。
次回は【目が覚めたら君が居ない】です!幼少期編のラスト回、お楽しみ下さい♪




