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ゆで卵

作者: 夏川諦

 肌寒い秋の夜、私は家に帰宅し上着を脱いで部屋着に着替えた。今日の会社での仕事を反芻するが、上司はやはりストレスが溜まっていたようだ。そのストレスのやり場を他人に向けて発散することをその会社で身につけたであろう上司は、今度は私をターゲットに定めた。私は上司からのパワハラを先月から受け続けていた。

 仕事の疲れが残り、夕食を用意するのもだるかった私は、せめてゆで卵ぐらいは作って食べようと思い、台所で湯を沸かす。そして湯の中にひとつまみの塩と大さじ一杯の酢を入れると、冷蔵庫から取り出した卵を四つ、湯が沸いている鍋の中に入れた。

 その時だった。目の前がまっくらになり、台所の灯りが消えてしまった。台所の扉の方を見ても奥の部屋も電気が消えている。どうやら停電らしい。はて、ブレーカーが上がったのだろうか。そこまで電気は使っていないはずだが。

 私はブレーカーではなく単純にこの一帯が停電になったんだろうと判断し、手探りで台所にある椅子を探し、そこに座った。沸いた鍋の湯がコロコロとゆで卵を転がす音が聞こえてくる。ゆで卵が茹だるまで十分ほど。私は上司のことを考えた。

 上司のターゲットは、みな漏れなく会社を辞めることになるらしい。なんでも、ストレスにやられて皆おかしくなるんだとか。中小のさして景気の良くない会社で、パワハラまでされてストレスでおかしくなると来たら、そりゃ皆辞めるよな。私は自分もそろそろそうなるのかと考える。胸が苦しくなり、動悸がしてきた。私は胸を手で押さえ椅子から立ち上がろうとする。

 その時だった。私は奇妙なことに気付いた。鍋の音は聞こえるが、ガスの火が見えない。停電していてもガスコンロの火は見えるはずだった。それが見えていない。私は不思議に思い、立ち上がりコンロの

周りを見回してみる。その瞬間、私の両目からどろりと熱い液体が流れた。

「あっ」

 私は気づいてしまった。私が鍋に入れたのはゆで卵じゃない。私の両目だ……。



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