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9、幼馴染は突然来る


「ネイリッカはさー、加護の力が無限に湧いてくるわけ?」


 嵐の日から半年経ち、春の気配が感じられるようになった頃、ネイリッカはサッラとリュリュと三人で川に釣りに来ていた。


 ヒョイヒョイと魚を釣り上げていくリュリュに拍手を送っていたネイリッカは、彼の問いに困った顔をした。


「それが・・・わからないのです。無限に湧くはずはないのですが、気が付くと加護の力が溢れてしまっているのです。あの嵐の時なんて寝ている間でしたから、もう制御不能で。皆様には毎回大変なご迷惑をおかけしております」


 なんだかネイリッカの周辺の植物までシュンとなって一緒に謝っているように見えて、罪悪感に駆られたリュリュは釣った魚を人数分より多く彼女のバケツに入れた。


「まあでも、おかげで村の人達は儲かってさ、俺達も腹いっぱい食えるようになったし感謝してるんだぜ。草刈りとか大変だけど、いい鎌作れるようになってそれも近隣に売れてるし、悪いことはないんだ。ただ気になっただけでさ。あ、この魚はお前の分だからな、二匹食えよ」


 ありがとうございますと、ちょっと苦手な魚を複雑そうに眺めるネイリッカの耳に複数の馬が駆けてくる音が聞こえた。近くで釣り糸を垂れていたサッラも気がついたようで不審そうな顔でやってくる。


 この村へ来るものは荷馬車が主で、馬の集団は珍しい。ネイリッカがここに来てからは初めてだ。

 三人で身を寄せ合って川岸から土手の上を窺っていると、三頭の馬に乗った男達が走ってきてネイリッカ達に気がついて止まった。


「そこの! お前達はヤルヴィの者か? 領主はどこにいる?!」


 馬上から居丈高に声を張り上げた老年の男に三人共不快な気持ちになった。


「そういうあなたはどこの誰よ? よく分からない人にホイホイと領主の居場所を教えると思う?!」

「何だとっ小娘がっ!」


 怖いもの知らずのサッラが大声で言い返し、その場が一触即発の雰囲気になった。どうしようとオロオロするネイリッカの横からリュリュが二人の前に出て庇う体勢になる。


「待って、争いに来たわけじゃないんだ。私の部下が失礼をした、代わって謝罪するから許してくれないだろうか?」


 馬から下りてこちらへ軽く腰を折った青年は太陽を背にしたネイリッカ達を眩しそうに見つめ、手綱をもう一人に預けると土手の斜面を滑り降りてきた。


 肩で切り揃えた金髪に整った顔立ちの青年は三人の前に立ち、何もしないと訴えるように両手を軽く上げた。それからゆっくりとリュリュ、サッラ、ネイリッカの順に視線を合わせていった彼は、最後に明るい緑の瞳を目一杯開いて叫んだ。


「ネイリッカ! 久しぶりだね、大きくなったなあ。実は領主殿と君に会いに来たんだ」

「ネイリッカ、こいつ知り合いか?」


 今にも飛びついて抱きしめそうな勢いの青年をリュリュが鋭い視線だけで押し止め、その体勢のまま声だけ後ろへ飛ばした。


 いきなり名を呼ばれたネイリッカは青年を上から下まで眺めて首をひねった。


「どこで、お会いしましたか?」 

「え、酷い。塔の庭で一緒に植物の勉強をした仲なのに、もう忘れたの?! ほら、私だよ、イェッセだよ」


 イェッセと名乗った青年は、言いながら頭をくしゃくしゃにしてポケットから大きなメガネを取り出してかけてみせた。途端、ネイリッカが飛び上がった。


「イェッセ! お久しぶりです、随分とおしゃれになっていたので誰だか分かりませんでした」

「・・・ネイリッカ。本当に、このカッコいい人と知り合いなの?!」


 イェッセと手を取り合って再会を喜び合うネイリッカにサッラが目をキラキラさせて尋ねる。


「ハイ。イェッセとは幼い頃に塔の庭で時々遊んでいました。植物のことに詳しくて色々教わっていたのです」

「そうそう。初めて会った時のネイリッカはこーんなにちっちゃくて、『イェッセ』が上手く発音できなくて『えっせ』になってさ。可愛すぎてエッセに改名しようかと本気で思ったもの」

 

 ハハハ、と笑う青年の言葉にどう返していいか分からず、リュリュは愛想笑いを浮かべた。


「イェッセさんは何歳? どこからきたの? 恋人はいる?!」 


 興味津々といった体でサッラが矢継ぎ早に質問をした。


「歳は十八。二ヶ月前から隣の領地を任されているけど、実際に足を運んだのは今回が初めてだ。恋人は・・・今はいない」


 最後の答えを、ネイリッカの方を見ながらゆっくりと言ったイェッセに、リュリュは片眉を跳ね上げた。


 コイツ、まさかネイリッカ狙いじゃないだろうな? ネイリッカは既にアルと結婚してるって知らないのか?


 不穏な気配を漂わせるリュリュに気が付かず、サッラがウキウキと前へ出た。


「あなたが噂の隣の新領主様?! こんなに素敵だなんて聞いてないわ。私、恋人になりたい!」


 両手を組んで目をキラキラさせて恋人への名乗りを上げたサッラに、イェッセは苦笑しながら謝った。


「ごめんね。さすがに出会ったばかりの人を恋人には出来ないよ」

「当たり前です! お前達、この御方をどなたと心得る、我が国の第四王子殿下、それも正妃様がお産みになった唯一人のお方だぞ?! 本来ならばお前達なぞ会うことも、口を利くこともできないような雲の上の御方なのだ、ひれ伏せ!」


 先ほど偉そうに喋っていた男がいつの間にか近くに来ていて、突然割り込んできた。今度はその男の尊大さよりも、話した内容に驚愕した三人は口をぽかんと開けてイェッセを眺めた。


 ・・・道理で他の男の子達とは段違いのかっこよさ。すごーい、王子さまと話しちゃった。


 ・・・マジかよ?! アル、ネイリッカのことかなり可愛がってんのにヤバくね?


 ・・・そうだったのですか?!


 三人は声に出さず、それぞれの感情を顔で表現してみせた。


「ネイリッカも知らなかったの?」

「ええ。そういえばイェッセの正体を気にしたことがなかったので、聞いたことがありませんでしたね。その頃は身なりに構っておらず庭でよく会うので、庭師さんの息子さんかと思っておりました」


 少女達のささやきはバッチリと話題の人の耳に入っており、イェッセの顔が少し悲しそうなものになった。


 ああ、やっぱりこの人ネイリッカのこと好きなんじゃん。いや、このチビに恋愛感情を向けるって早すぎて問題じゃね?!


 グルグルと危ない考えが頭を回っているリュリュに気がついたイェッセの目が細くなる。


「ところで、彼がネイリッカの夫かな?」


 目が合えば射殺されそうな視線を避けつつ、リュリュは必死で首を横に振った。


「俺じゃない、です!」


 さすがに不穏なものを感じたのか、ネイリッカがリュリュの前に出て土汚れのついている麻のワンピースを軽く摘んで綺麗に礼を執った。


「イェッセ、じゃない、イェッセ様。こちらの二人は友人のリュリュとサッラです。今日は一緒に釣りに来ていたのです。父にご用だと仰っておりましたね、ご案内いたします」


 王子と知り、畏まった振る舞いをしだしたネイリッカにイェッセが眉を下げた。


「ネイリッカ、君に畏まられるのは悲しいから、どうぞ今までのように『イェッセ』と呼んで欲しい」

「かしこまりました、イェッセ」


 改められたのは呼び方だけだったが、うん、と満足気に頷いたイェッセはネイリッカを連れて土手を上がって行った。


 残された二人は、手を振るネイリッカに条件反射で手を振り返しながら、ぽかんと見送った。


「リュリュ兄ちゃん、アレってさあ、なんか不味くない?」

「サッラも気がついたか。やっぱり不味いよな?」

「兄ちゃん、急いで先回りしよう。この時間、おじさんは畑だよ!」

「オイ、魚忘れんな!」


 二人は大急ぎで魚の入った籠と釣り竿を抱えると、馬が駆けて行った方向と違う林の中へ飛び込んだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


王子様が普通の馬に乗って来たよ

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